65 / 241
二章
65.ほっぺムニュムニュ、お怒りパパ
俺の超絶クールな救出劇の一部始終を簡単に説明しよう!
まず、俺は父に泣き付い……こほんっ、協力を要請した後、即座に暗殺ギルドの本陣アジトを調べるよう頼んだ。これは主にリノやミケなどの参謀さんたちにお願いした。
そして次に、俺は自分が知る原作の情報をとにかく紙に書き記し、ジャックについての情報を洗い出した。
ジャックが復讐を決意した発端は、世間では『切り裂きジャック』の一人目の犠牲者として知られているダリアという女性の死だ。
ダリアさんはジャックの実の姉。ジャックの復讐の目的は、ダリアさんを殺した暗殺ギルドの連中を倒すこと。そしてその復讐の実行メンバーには、ジャックだけでなく、ダリアさんの婚約者だったカルロという男性も含まれる。
つまり簡単に纏めてしまうと、この復讐の全体図は『ジャック&カルロvs暗殺ギルド』ってこと。
原作では、この復讐劇はジャック達の勝利で幕を閉ざす。けれど、その過程には大きな代償を伴うのだ。
それは、ジャックの片腕損失。暗殺ギルドという巨大な組織と戦った末に、ジャックは抗争後、片腕を損失するという重傷を負ってしまう。
ジャックが本館から消えた当初、俺はその結末を一番に懸念していた。原作通りジャックが片腕を失ったらどうしようって。
けれど、それはどうしようもないことだと一度は無理やり納得した。
だって、原作では主人公でありジャックの主であるアンドレアは、その復讐劇に一切手を出さなかった。
それには色々と大人の事情ってのも絡み合っていて……まぁとにかく、ベルナルディに属する人間としては、暗殺ギルドを敵に回すようなことはなるべく避けたかったのだろう。
俺の我儘だけでベルナルディを巻き込むことは避けたかったし、だからと言ってジャックをこのまま見捨てるのも嫌だった。
けれど、後のことを考えたら、やっぱり最善はジャックの無事を祈ることだけで……。こうして父からの協力を得ることが出来たのは、本当に奇跡と言える。
そんなこんなで、暗殺ギルドの悪事についての物的証拠を手にアジトへ突入したのがついさっきのこと。
正直俺は何もしていない。ただあわあわとみんなの活躍を見守って、最初にアジトへ踏み込むという一番良いところを掻っ攫っただけである。
ちょっぴり情けない気もするけれど……うむ、これはあれだ、適材適所ってやつだ。
うむうむ、と頷きつつてくてくと館へ踏み入り、目の前に広がる地獄絵図から華麗に視線を逸らしてきょろきょろ。
五体満足のジャックを視界に入れた途端、張っていた気がへにゃあっと緩んでしまった。
***
「じゃっく!じゃっくじゃっくぅぅ!」
「ジャックだよぉ。ジャックいるよぉ。泣かないでご主人様ぁ」
血だまりやたくさんの死体を見ないように、ジャックの胸にうりうりーっと顔を埋めながらがむしゃらに名前を呼ぶ。
コアラみたいにむぎゅっと抱き着く俺を軽々と抱き上げたジャックは、さっきからなぜか嬉しそうにニコニコ笑っていた。こんな状況なのに一体何が面白いんじゃ……。
「ご主人様が来てくれるなんて思わなかったぁ。感動で泣いちゃいそうだよぉ」
うそつけ、と思わずツッコんでしまいそうになった。そんなニコニコ笑顔で何を言うか。
疑いの目を向ける俺を見てムーッと眉を寄せたジャックだったが、すぐにニコッと笑顔を戻して立ち上がった。
突然の切り替えになにごと?と首を傾げると同時に、背後から足音と共に低い声が聞こえてハッとする。振り返ると、そこには眉を顰める父がいた。
「……おい貴様。ルカに穢らわしい返り血を付着させるとは何事だ」
射殺すような威圧的な視線にビクッと身体を震わせる。向けられているのは俺じゃないけれど……。
がくぶるする俺をぱちくり瞬きながら見下ろしたジャックは、何やら俺の顔を見てピタッと固まった。なんだなんだ、俺の顔になにかついているのか?
「やっちゃったぁ……ご主人様のぷくぷくほっぺが血塗れだよぉ」
「……むっ!?なぬっ!なにまみれだってぇ!?」
急に怖いことを言われたものだから、思わずぴゅーんと跳ねてあわあわ冷や汗を掻いてしまった。ぷくぷくがなにまみれだって?
あわわっと混乱する俺のことは華麗にスルーして、ジャックは俺のほっぺをムニュムニュと撫で回しつつ眉尻を下げている。
拭っているつもりなのか何なのかわかんないけど、何かついているならあんまり触らない方がいいんじゃないか。ほら、布に零した醤油とかも、無闇に触るとぬちょーんって伸びちゃうじゃんか。
なんて考えながら強めのムニュムニュに耐える。
むぅ、むぐむぐ……と唇をちゅーんと尖らせたタコさんみたいな顔でじっとしていると、やがてジャックが「あぁ……!」と再び眉を下げた。嫌な予感……。
「大変!ぷくぷくほっぺがもっと血塗れになっちゃったぁ!」
「にゃにしてくれとんにぇーん」
ジャックが俺のほっぺをびよよーんと伸ばして悲嘆的に叫ぶ。嘆きたいのはこっちじゃよ。
とりあえずこれ以上血をつけられるのはごめんなので、ジャックの手をぺちーんと叩いて振り払う。確かに冷静に見てみれば全身返り血塗れだな……とジャックを眺めてからとてとてと距離を取り、その勢いのまま背後の父のもとへしゅぴーんと駆け寄った。
「お父さま、お父さま。おれのほっぺ、血まみれ?ですか?」
「案ずるな。汚い血は私がしっかり拭ってやる。おいでルカ」
涙目で紡いだ問いに、明確な答えは返ってこない。
その代わり、父は俺をぬんっと抱き上げて、地面についた片膝の上にちょこんと置いた。体格差を真っ正面から突き付けられているようでちょっぴり悔しい……。
ぎゅうっと抱き締めてくれるのはぽかぽかで温かいから好きだけれど、ほっぺを拭う作業にハグ要るかな……むしろちょっぴり離れた方が拭きやすくない?む?そういう問題じゃない?むぅ、よくわからんな……。
「……よし、綺麗になったぞ。可愛らしい頬に戻った」
「ありがとうございます!でも、お父さまのマントが汚れちゃいました……」
あろうことか背に羽織ったお高そうなマントの端で俺のほっぺをふきふきした父。
俺としてはほっぺの血よりも、父の高そうなマントが汚れてしまったことの方が重要だ。俺の血がついてしまったことで、面倒な洗濯をしなければならなくなったんじゃないか?
なんてそわそわしたけれど、父が何てことなさそうに「気にするな」と言ったのでほっと息を吐いた。この淡々とした様子だと、本当に大したことないみたいだ。よきよき。
「目的は達成した。さぁ帰るぞ、ルカ。そろそろ眠気に耐えられなくなってきた頃だろう」
「しょんなことないでしゅ……むにゃむにゃ……」
やめんか!そうやって言われると思い出して唐突に眠くなっちゃうんだよぅ。
突然襲ってきた眠気に耐え切れず、父の肩にこてんと頭をのっけて力を抜く。
むにゃあと垂れた俺の涎を親指で拭うと、父は静かに立ち上がって開け放たれたままの玄関扉へ向かった。
その時、ふいに背後から聞こえた呼びかけが父の足を止めた。
「おいおい……待てよ。説明して頂かねぇと困りますよ、ベルナルディの当主」
殺気の籠った声に少し眠気が吹き飛んだ。こわい……。
がくがく、と情けなくも震え始めた俺を父がハッとしたように見下ろし、ふと瞳から色を消して無表情を顰める。
まずい殺される……!と更に震えを強めた直後。父はふと振り返ったかと思うと、呼び掛けの声の主を見据えて……睨みつけて、地を這うような恐ろしい声音で呟いた。
「──不敬にも私のルカの眠りを妨げるとは……殺すぞ」
あなたにおすすめの小説
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ