異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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三章

69.暗殺部隊

 
 二大ファミリーの会合についての情報を入手してから早一か月が経過した。
 会合が行われることは決定しているのに、どうしてこんなに時間が経っているのか?と不思議に思うだろう。しかしそれには深い理由があるのだ。
 それは、例の復讐劇を発端にベルナルディと周辺マフィアとの間にひっそりと出来上がった亀裂。そのちょっとした歪みが原因である。

 綺麗に終結したかと思われた復讐劇と後処理は、どうやら実際はそう綺麗に終わったわけではなかったらしい。まぁ、現実的に考えれば案の定といったところか。
 裏社会の点と点を繋ぐ中継点、暗殺ギルドはそういう重要な役割を担っていた。
 だと言うのに、突然なんの宣言も納得のいく理由も公開せず、あのベルナルディが暗殺ギルドを壊滅させたのだからそりゃあ他所からのブーイングが無いわけもなく……。

 結果的にベルナルディは今、他所のファミリー達から白い目を向けられているらしい。
 完全に俺のせいなので罪悪感が限界突破しているところである。流石に腹か指を切らないと挽回のスタートラインにすら立てないレベル。

 まぁそういうわけなので、こんな状況で二大ファミリーが手を取り合って堂々と会合!なんてのは出来るはずもない。
 主に父がめちゃんこ頑張って周辺の理解を得られるよう努力しているらしいが、この一か月良い進捗は聞かない……ということは、そういうことなのだろう、うむ。

 とはいえ俺に出来ることなんて何もないので、じれったいが俺にはただ待つことしか出来ない。
 そういう訳なので、俺は少しでも父のお役に立つべく、誰にも内緒でとある計画を考えた。
 そして今、その計画をまさに実行し始めたところなのである。


 とてとてっと忍び足で向かう先は、ベルナルディ邸本館の地下室だ。


 地下室と言っても、そこは窓がないだけで地上の造りと特に変わらない。地下空間、と言っていいくらいの広さだ。
 その地下空間は一階から主に構成員達のお部屋や共有スペース、それより下の階に降りるごとに武器庫や訓練所、地下牢といった具合に治安が一変していく。

 俺が今みんなに内緒で向かっているのは、暗殺部隊に与えられたという地下三階の訓練所。
 今朝ジャックから暗殺部隊についての情報を色々と聞き出しすことに成功したので、こうしてクールに地下へ忍び込むことが出来ている。
 やっぱり俺ってば生粋のマフィア、超絶クールふすふすっとドヤ顔を浮かべつつ進んでいると、やがてお目当ての地下三階へと辿り着いた。


「どれどれ、ジャックはどこかなーっと」


 階段をとことこ下りた先に、突如目の前にでっかい扉が現れる。
 もしかして地下三階の空間全体が訓練所になっているのかな?とぱちくりしつつ扉へ駆け寄り、両手をぐっと伸ばしてみた。


「ふんっ!」


 ぺちっと押してみるがビクともしない。この扉、鉄でできるのかえ?とポンになりながら眉尻を下げると、ふいに扉の向こうから低い声が聞こえてきた。


「──……コードを名乗れ」


 突然声を掛けられ「はぅっ!」と身体を震わせる。
 コードってなんぞ!?とあたふた目を回し、あぅあぅっと情けない動揺を見せて固まった。
 コード?暗号とか合言葉とか、その類のアレか?と困惑していると、何も答えない俺を怪訝に思ったのか、コードを聞いてきた声の主が険しい声音で更なる言葉を紡いだ。


「……よもや侵入者ではあるまいな。暗殺部隊に所属している者以外の地下三階への侵入は禁じられている。敵襲の意図が無ければ早急に立ち去れ」


 ま、まずい!このままでは侵入者として捕えられた末に拷問されてしまう……!

 明らかに剣吞を帯びた声音にガクガクと震える。
 コードも無ければ地下三階への立ち入り許可をもらったこともない。誰にも内緒で来たわけだから、当然俺の正体を保証してくれる人もいない。
 言われた通り立ち去るべきか?でもでも、せっかくここまで頑張って来たのだからせめてジャックには会いたい……。

 なんてぐるぐる考え込むうちに相当の沈黙が流れていたのか、完全に俺を怪しんだらしい声の主が威圧的に言った。


「狙いは何だ、侵入者」


 その言葉と共に、ふと近くの壁に掛かっていたカーテンの裏から二人の男が現れた。
 どうやらカーテンの裏は隠し扉とか、その類の空間があったらしい。人の気配なんて微塵も感じなかった。
 流石は元暗殺ギルドの……なんて呑気に考えていると、二人の男がふいにナイフの刃先をピシーンと俺に向けてきた。


「……はぇ?」


 首元に突き付けられたナイフ。
 そろりそろり、と視線を上げた先には、口元を黒い布で覆ったフードの男達が立っている。その二人の無感情な瞳と視線が合って、思わず「はわ……っ」と涙目になってしまった。


「お、おれ、怪しいものじゃ……ぴぇっ!」


 声を発した瞬間、更に喉元に刃先が食い込んだ。
 ピリ、と微かに感じた痛みはたぶん本物。刃先が喉の皮を微かに切り裂いたのだろう。
 ほんのちょっぴりの痛みだったけれど、状況と生々しい痛覚は恐怖のメーターを限界まで引き上げるには十分すぎるくらいだった。

 たちまち瞳に大粒の涙が溜まり、情けなくもひっくひっくと嗚咽を漏らし始める。


「ぁ……ほ、ほんとなんだ、ほんとに、おれ、怪しくない……おねがっ、こわいぃぃ……!」


 恐怖のあまり支離滅裂な嘆きを口にして涙をぽろぽろ溢れさせる。

 びくびくっと明らかにビビり始めた俺を見下ろし、ようやく暗殺者二人は怪訝そうに首を傾げた。
 二人で目配せして頷いたり首を降ったり。さながら猛獣に睨まれた兎のようにぷるぷる震える俺を放置して、何やらコソコソと内緒話までする始末だ。


「おい、本当に敵襲なのか?ただの無知な子供に見えるが……」

「あぁ……しっかり事情を聞いてあげた方が良い気がするな……」


 ヒソヒソと俺をチラ見しながら話す二人。
 煮るのか焼くのか、どう処すかの話し合いでもしているのだろうか。そう考えると更に恐怖が倍増して、俺は「うえぇーん!」とプライドをかなぐり捨てて大号泣してしまった。


「じゃっくぅ!じゃっくにあいだぃぃ!ころしゃにゃいでぇぇ!」


 あぴゃーっ!と涙も鼻水も垂れ流して大号泣する俺を、二人はギョッとしたように見下ろして固まった。
 何やら「ジャック?ジャックって……!」「ま、まさかこの方は……!」とあたふた冷や汗を掻いている。一体どうしたのだろう。俺がぱちくりできる立場じゃないけど。

 二人が焦った様子で俺に何か話しかけているけれど、恐怖で何も聞き取れない。
 きっと「銃殺と撲殺、どっちがいい?」とかそういう問いを投げかけているのだろう。そんなの答えられるわけなかろうが!である。

 えぐえぐっと死の覚悟を決めようと目を瞑った直後。
 ふいに重い扉が勢いよく開かれ、聞き慣れた声が耳に届いた。



「──ご主人様?」



 聞こえた声にハッと顔を上げる。
 涙と鼻水でくしゃくしゃどころかべちゃべちゃになった顔を見たその声の主は、静寂の末にみるみる目を見開いた。
 俺も同時に目をまん丸にして、あぴゃーっ!と涙で洪水を起こしながら待ち侘びた側近に駆け寄る。門番らしき二人は、もう俺を止めなかった。


「じゃっく!じゃっくじゃっくぅー!」

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