異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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三章

72.強くなりたい悪役+ズレ始める主人公=?

 

「──ご主人様を、鍛えてほしい?」


 俺の“お願い”を耳にしたジャックは、へらりとした笑みをピシャーンと崩して目を見開いた。とっても驚いている様子だ。
 流石のジャックもこの“お願い”は想定外だったらしい。常に先を見透かしているようなジャックを驚かせることが出来たのは結構気分が良くて、俺はふふんと胸を張りつつ頷いた。


「うん。ジャックに、お師匠さまになってほしいんだ!」


 キラキラ―ッと瞳を輝かせて前のめりに息巻く。
 前世で少年漫画も大好きだった俺からすると、この展開は胸熱すぎてドッキドキである。主人公が師匠を得て一気にレベルアップする展開、親の顔より見てきたものだから。
 まぁ俺の場合は悪役だからその法則は通用しないかもだけど……とちょっぴり肩を落としながらも、ジャックに向ける期待の視線は逸らさなかった。


「……うぅーん。でも、どうして急に?」


 あれ?と首を傾げる。おかしいな、ジャックのことだから二つ返事でオーケーしてくれると思ったんだが……。

 やっぱり仕事中に乗り込んで我儘を言うのは図々しすぎたかな?としょんぼり反省する。
 なにもマンツーマンで教えてほしい!というわけじゃなく、暗殺部隊の訓練に俺を入れてくれれば……なんてギリギリの図々しいラインを攻めてみたのだが。なんかだめそうだ。
 とはいえ聞き返されている分には可能性が残っているので、こくっと頷いてダメもとで理由を話してみることにした。


「おれ、とってもクールだしつよいけど……正直、お父さまやお兄さまと比べると、まだまだ弱っちいだろ?それが、情けなくてさ」


 うんうん、と真剣に話を聞いてくれているジャックだけれど、何やら「クール……強い?」と困惑気味な表情を浮かべているのが引っかかる。なにか文句があるのかね?


「みんなのお荷物にならないように、おれ、今よりもっと強くなりたいんだっ!」


 少年漫画の主人公のごとく、キラーンとかっこよく決めて宣言する。
 ソファから立ち上がってふんすっ!と息巻く俺を見下ろし、ジャックは数秒ピタッと硬直していた。表情もよく読めなくて、何を考えているのか分からない。
 どきどきそわそわっと待つこと数秒。やがてふいに立ち上がったジャックは、ひょいっと俺を抱き上げて無言で隊長室を後にした。


「……む?じゃっく?どこ行くんだ?」


 俵担ぎみたいに持ち上げられ、ジャックの背中が視界いっぱいに見える状態ででろーんと力を抜く。なんだなんだ、急になんなんだ。

 どこ行くのかなとそわそわしていると、ふと暗殺部隊のみんなの声が聞こえてハッとする。
 もしやジャックってば、俺の訓練参加を認めてくれようと……?俺も超絶さいきょーの暗殺者入り果たしちゃう?
 なんてふすふすっと息巻きドヤる俺を、ふいにジャックがすとんと地面に下ろした。


「おお!じゃっく!おれはいつでも準備おーけーだぞ!まずはなにを……」


 ──ギーッ……ガシャンッ!


 えっへんと胸を張る俺を下ろしたジャックは、ふんわりと笑顔を浮かべたままなぜか訓練所入り口のでっかい扉を問答無用でばたんと閉めた。


「…………ほぇ?」


 どどやぁと息巻いたままの姿勢でピタッと固まる。
 地下三階の廊下、静寂の広がるその場所に一人ぽつんと置いてけぼりにされ固まっていると、やがて扉の向こうからジャックの声が聞こえてきた。


「ごめんねご主人様。言いにくいんだけどね、ご主人様に戦闘の才能はないよ。ほんと、これっぽっちも、微塵も、天変地異の可能性より、ない」

「ががーーんッッッ!!」


 絶望の表情。嘆きの声。力なく地面に膝をつき、項垂れる俺……。

 いくらなんでもいいすぎじゃろうが!とツッコむ気力すら根こそぎ剃り落とされ、俺のライフはもうゼロよ!状態に一直線である。
「気を付けて帰ってねぇ」という言葉の末に静かに遠くなる足音を聞きながら、俺は涙の水溜まりに溺れ、しばらく立ち上がることが出来なかった。


「こんなのっ!こんなのあんまりだぁー!」


 恥もプライドもかなぐり捨てて大号泣すると、ちょっとは絶望もマシになってきて小さく息を吐いた。やっぱり悲しい時悔しい時は全力で泣きわめくに限る。
 えぐえぐっと酷い嗚咽を漏らしながら、俺は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をそのままにとぼとぼと地上へ戻った。



 ***



「ふぐっ、うぅ……ぐ、ぶえぇっ!」


 とんでもなく汚い泣き方だけど、ここは周りに誰もいない場所だから許してほしい。

 地上に戻ってすぐ、こうして邸内の人気のない暗がりに隠れ込んだわけだが……。
 この近くを今誰かが通ったら、汚い泣き声が聞こえてびっくり仰天してしまうことだろう。それだけが罪悪感でちょっぴり不安だ。
 とはいえ今の俺に他人を気遣う余裕はないので、突き付けられた現実と向き合って素直に泣きわめくだけに留める。所詮俺はぴーぴー泣くことしかできない激よわモブだよぅ。

 暗がりにしゃがみこんで数分、いや数十分は経っただろうか。
 そろそろ泣き疲れて眠くなってきたな……なんて真っ赤に腫らした目元をそのままにうとうとしていると、ふいに近くから聞き慣れた可愛い鳴き声が聞こえた気がしてハッとした。


「──きゅーん」


 勢いよく顔を上げて辺りをきょろきょろ見渡す。
 今のは……!と頬を紅潮させると、例の泣き声が今度はすぐ傍から再び聞こえてきた。


「きゅーん」

「はっ!そこにいたのかっ!ロキ!」


 足元でぽてぽてっと動き回る真っ白い毛玉。
 ぱあぁっ!と瞳を輝かせつつ抱き上げると、めちゃんこかわいいその犬はぶんぶんっと尻尾を揺らして俺のほっぺをぺろっと舐めた。


「わっ!ぷはっ、くすぐったいぞ……!」


 ほっぺも唇も、顔全体をぺろりと舐めたロキは、瞬きの間にぽんっと人の形に変化した。


「はわっ!」

「ルカちゃん、久々だね。元気だった?」


 まさかこのベルナルディの敷地内で簡単に人型へ戻るとは思わず、驚いてビクゥッと震え上がる。そんな俺を、ロキはなんでもない顔をしてぎゅうっと抱き上げた。
 その表情からは焦りが見られない。誰かに見つからないかな?なんて慌てて周囲を見渡す俺とは大違いだ。


「ロ、ロキ!見つかったらぼこぼこにされちゃうぞ……!」


 無意識にロキのもふ耳をふぁさっと掴みながら言うと、ロキはニコニコ―ッとした笑顔を崩さず「大丈夫」と首を振った。


「俺、今日は君のお兄様に会いに行ってたんだ。うちの父と君たちのお父様、いま色々と大変でしょ?役立たずな親の代わりに、後継の俺達が一肌脱ごうってね」


 パパ想いな親孝行者かと思いきや、最後まで聞いてみると全然真逆っぽい。
 けれどロキ達が手を合わせて一肌脱ぐ、というのは予想外だ。いやでも、確か二人は友達になったらしいから、こういう展開もありえるのか……?


「ってわけで。会合、三日後に決まったから。ルカちゃんもきちんと準備しておいてね」

「うむ……むむぅっ!?」


 原作とは違う展開と二人の関係性の変化に悩んでいると、ふいにロキが笑顔でサラーッと衝撃発言をかました。思わずおかしな声が飛び出てしまったのは忘れてほしい。


「み、みっか……?そんな急に決まったのか……?」

「うん?うん。言ったでしょ?俺と君のお兄様が一肌脱いだって。裏でね、色々頑張ったんだよ」


 “裏”とは……と知りたいような知りたくないような二人の頑張りとやらを想像しつつ、ちょっぴり笑顔を引き攣らせて「そっかぁ……」と頷いた。

 主人公たち、なんだか原作より良い関係を築けているみたいでびっくりだ。
 二大ファミリーの後継者同士としても、もちろん恋人としても。二人の関係はどんな時でも常にもっとドロドロしていたはずだけれど……。
 ヤンデレ執着攻めだったロキと、天然クール受けだったアンドレア。考えてみればもう既に二人のキャラ自体が原作と離れてズレ始めているような……と不穏なことをふと考えてしまった。


「正式に表からルカちゃんに会えるの、今からすっごく楽しみだよ」


 ふにゃあっと本当に嬉しそうに微笑むロキに、俺もへらっと下手な笑みを返す。

 アンドレア以外の人間には興味を抱かず、誰に対しても無表情で素っ気ない。それがロキ・ヴァレンティノだったはず。
 原作からはまるで考えられないロキの態度に困惑しながらも、今は目の前の展開に集中しなければ!と湧き上がる違和感を無理やり振り払った。

 三日後に行われる、二大ファミリーでの大規模な会合。
 強くなる作戦も結局失敗に終わってしまったし……せめてお荷物として邪魔にならないようにだけ気を付けよう、と緊張を胸に決意した。
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