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三章
86.赤い瞳の忌み子
アンドレアと共にバルコニーへ出ると、すぐに夜風が肌を撫でた。
ちょっとした寒さにおもわず震える。すると、アンドレアがジャケットを脱いで俺の肩に掛けてくれた。こういうスマートなところ、クールな悪役次男としてぜひ見習いたいところだ……。
俺の身長ではちょっぴり高めな手摺にちょこんと手を置き、そういえばと小さく語る。
「そういえば、ロキがいなかったような……」
ヴァレンティノ家の夜会だというのに、主役と言っていい立場のロキの姿が見えなかった。
会場には人も多かったし、もしや見落としてしまっただろうか。いやでも、ロキの立場ならあの時リカルド様と前に出ていたはずだし……。
むむ?と首を傾げる俺を抱き寄せながら、アンドレアが低く呟いた。
「……奴はあまりこういう場を好かないらしい。夜会では、最低限の挨拶以外はこうして姿を消している」
「へ……そう、なんですか……」
意外だ。あの性格なら、むしろ積極的に他人と関わって味方を増やしそうなものなのに。
そりゃあ、本性から考えれば人との関わりなんて心底どうでもいいと思っているだろうけれど。それでも、あの仮面を被ったロキなら……。
「……奴は忌み子と言われているからな。あの瞳を人目に晒すだけで、鬱陶しい視線と陰口が常に纏わり付く……億劫になるのも無理はない」
アンドレアがぽつりと零した言葉にハッとした。
そうだ、どうして忘れていたのだろう。ロキの赤い瞳は、ここでは悪魔の落とし子だとか忌み子だとか、そういうネガティブな意味で広まっているものなのに。
ルビーみたいな、薔薇みたいなその瞳がとても綺麗だったから。綺麗だとしか、思えなかったから。だから、忘れていた。
ずーん……と肩を落とす俺を見下ろし、アンドレアは慰めようとしてくれたのか俺の頭を軽くぽんと撫でた。
その優しいなでなでに数秒浸っていると、ふいに会場の中が騒がしくなってきたことに気付き首を傾げる。そのざわめきの中には、アンドレアを探すような声も聞こえて瞬いた。
「はぁ……すまない、ルカ。ここで待っていられるか?」
「は、はいっ!だいじょぶです」
どうやらベルナルディの後継者であるアンドレアも、ロキと同様こういう場では人気者らしい。
二大ファミリーの若様ともなると、他のファミリーはコネ作りの為になんとか近付こうと必死になるのだろう。中からこちらをチラチラと窺う無数の視線に気付いて眉尻を下げた。
普段のアンドレアなら、嫌なら他人の視線なんて全て無視してしまいそうだけれど……。
こうして嫌々でも向き合おうとする様子を見るに、どうやらこれも“黒幕探し”の策略の一つなのだろうと察した。
「ヴァレンティノの敷地内で問題を起こす愚か者は現れないだろうが……万が一を考えて、絶対に警戒を怠るな。少しでも危険を感じたら直ぐに俺の名を叫べ」
「わかりましたっ!ぜったい、叫びますっ」
ふんすっと胸を張る俺をどことなく不安げに見つめながら、後ろ髪を引かれるような様子でアンドレアはバルコニーを出ていった。
ガラス扉の向こう側で、アンドレアが中に入るなり我先にと近付く人の波が見えて苦笑する。アンドレアはただでさえ人嫌いだから、きっと疲労が溜まってしまうだろうな。
とはいえ俺をわざわざ置いていったくらいだから、きっと俺が彼らと関わることをアンドレアは良く思っていないのだろう。
俺がポカをやらかして情報漏洩をしたりとか、そういうことを気にしているのだろうか。
たしかに今までのやらかしを見ていたら不安にもなるだろうけれど……俺からするとちょっぴり不服である。
「むぅ……」
手摺に肘をついてクールに佇む……ことができるくらいの身長がないので、仕方なく寄り掛かることはせず、ちょこんと手を置くだけに留める。
夜風に当たりながら遠く聞こえる喧噪を聞き流していると、なんだか自分だけが別の世界にいるような錯覚を受けた。
こういう夜会は招待された客のみが参加できるから、基本的にそれぞれの護衛や側近などは傍につけない。
だから、今は近くにガウもジャックもいない。本当に一人きりなのだ。
「……そういえば、夜会ってなんだかなぁ」
ふと、静寂の空間にぽつりと声を零した。
思い出すのは、原作で読んだとあるシナリオ。ほんの数行に記された文字が、ふいに頭に浮かんだ。
“夜会”という言葉、原作にもほんの数か所だけれど書かれていた気がする。本編のストーリーに関わる頁ではなかったはずだけれど、回想のような場面で、たしか……。
「うぅむ……まぁいっか!」
なんだかものすごーく気になるけれど……数行の描写なら特に重要なものではないだろう。そう判断し、俺はぽんっとその記憶を頭の隅っこに放り投げた。
それよりも、だ。ベルナルディの名前に泥を塗らないよう、今夜はポカをしない為に最大限の注意を払わなくてはならない。
アンドレアがいない間に、万が一にも問題を起こさないようにしないと……と胸に誓ってうむうむ頷いたその時、ふいに視界の端で何かが動いたような気がした。
「む?あれは……」
手摺の檻の部分に顔を挟み込むようにして、バルコニーの下に広がる庭園を見下ろす。
ほっぺをむにゅっと挟まれながら必死に目を凝らし、気になる一点をじーっと見つめた。
「……!やっぱり、ロキだ……!」
視界の端で動いた人影はやっぱりロキだった。
綺麗な純白の髪が見えた気がしたから、まさかとは思ったけれど……。
ほんの一瞬見えたロキは、静かに何処かへ去ってしまい……それを見た俺は、慌てて手摺から顔と手を離して駆け出した。
よく分からないけれど、ロキの姿に妙な危うさを感じてしまったのだ。まるで一刻も早く会場の喧騒から逃れようとするような、そんな焦燥を悟って俺も慌ててしまった。
「ごめんなさいっ、お兄さま……!」
ガラス扉越しに見えるアンドレアに小さく謝罪を口にして、バルコニーの階段をそそくさと下る。
問題を起こさないように!と決心した瞬間からこれだよぅ……と自分のおバカさを嘆きながらも、決して足は止めずにロキを追いかけた。
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