異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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四章

98.主人公達の作戦会議

 
 アンドレアがポン、と肩にのったロキの手を秒速で振り払う。
 そのままツーンとした態度で歩き始めたアンドレアを、ロキが慌てた様子で呼び止めた。


「待ってよ。今回ばかりはベルナルディだけでどうにか出来る問題じゃないでしょ」

「……」


 アンドレアの腕の中からそろーりと顔を出す。
 チラリと様子を窺うと、アンドレアは微かに苦悶を滲ませた表情を浮かべていた。まぁ、そういう反応になっても無理はないだろう。
 アンドレアはいつも頑なにヴァレンティノとの共闘を拒む。親子で揃いもそろって腹黒なヴァレンティノに借りを作るのはリスクが高すぎると、そう思っているのだろう。

 けれど、今となってはそんなことも言っていられない。
 警備隊とやらが完全にベルナルディを警戒している今、きっと俺達が堂々と動くことは出来ない。寧ろ、その動きを怪しまれて罪状をでっち上げられでもしたら本当に終わりだ。
 余計な動きをすることは出来ない。だからこそ、今はベルナルディ以外の家門の力が必要だ。


「今こそ二大ファミリーが手を組む時だ。忌々しい黒幕と世間様に、大々的に俺達の強固な関係をアピールしようじゃないか」


 こんな時でも人の心配より策略が巡るのか……とちょっぴり苦笑する。
 ロキらしいと言えばそれまでだけれど、こうして清々しいまでに血も涙もない姿を見せられるといっそ潔い。
 確かにこうしてウジウジしていても事態は好転しないし、それならちゃっちゃと作戦会議でもした方がいいかなぁ……なんて思った時だった。


「──主様」


 ふと頭上から降ってきた聞き慣れた声にハッとする。
 慌てて見上げると、塀のてっぺんにしゃがみ込んで気配を潜めるガウの姿があった。


「ガウ……!?おまえ、いたのか!」

「はい。ずっと居ました」


 ベルナルディ家の敷地をぐるりと囲むように設置された高い塀。
 一体どうやって上ったんだ……なんて愚問はすぐに呑み込んだ。ガウは獣人だし、高い場所に上るくらい朝飯前か。
 それにしてもなんだってそんな場所に?と困惑する俺の前に飛び降りてくると、ガウはそのまま跪いて頭を下げた。どんな時でも律儀な忠誠心を貫くやつだ。


「無事にお戻りになられたようで安心しました。当主の護衛としてジャックを独断で向かわせてしまいましたが……宜しかったでしょうか?」

「なぬっ!そ、それはもちろん、ていうかナイスだが……え、さっきジャックいたっけ?」

「ずっと居ました。馬車の上に潜んでいたのですが、気付きませんでしたか?こちらからは丸見えだったので、少々不安だったのですが……」

「ぜんぜんだぞ!?ぜんぜん気づかなかったぞ!」


 怒涛の衝撃報告であわわーっ!と大混乱してしまう。ガウってば有能すぎるぜ。
 父の護衛にジャックをつかせただって?それだけで安心感がグッと上がった気がする。少なくとも最悪の事態になった時は、ジャックが父を救い出して逃亡してくれることだろう。
 父の安全は保障できたと言っていい。これで少しは落ち着いて話し合いが出来そうだ。


「ガウ……おまえ、サイコーすぎるぞ……サイコーの側近だぞ……」


 むぎゅっと抱き着いてケモ耳をはむはむする。
 けれど数秒経ってハッと我に返って、慌ててケモ耳から口を離した。危ない危ない、もうはむはむはしないんだった。
 ケモ耳から唇を離した途端ガウが名残惜しそうな顔をした気がするけれど、たぶん気のせいだろう。耳をはむはむされて嬉しいやつなんてジャックやロキくらいだろうし。


「そういえば妙な気配がしたけれど、あれルカちゃんのところの側近だったんだね」


 なんだそうだったのかーと当然の如く頷くロキやアンドレアを見て愕然とする。
 え、なになに、俺以外みんな気付いてた感じ?えぇー、さっき両手を挙げてびっくり仰天しちゃったのがちょっぴり恥ずかしい……。


「よかったねアンドレア。これで落ち着いて話し合いが出来るんじゃない?」

「……俺は常に落ち着いている」


 ロキのにこやかなセリフにムッと顔を顰めるアンドレア。
 さっきの動揺具合はこの場の全員が気付いていたと思うよ、なんて不躾なことは言わないようにむぐっとお口チャックした。



 ***



 監視やら盗聴やらの危険があるからと、あれから俺達はとりあえず邸内へ入ることにした。
 ロキはアンドレアの塩対応で門前払いされそうになっていたけれど……それは俺がなんとかアンドレアに媚売って解決した。
 と言っても「おねがーい」ときゅるるんなおねだりをしただけだけれど。プライド?そんなものは知ったこっちゃないのである。


「ロキ、あんまりお兄さまをイジメちゃだめなんだぞ。いまは空気をよむんだぞ、デリカシーがだいじなんだぞ」

「ごめんねルカちゃん。空気が殺伐としてるから和らげてあげたかっただけなの」


 客間の椅子に座ってロキにプチお説教をする。
 アンドレアは今、邸にいた構成員たちに状況を色々と聞きにいっているところだ。どういう流れで父が連れて行かれちゃったのかとか、母についてとか、まだ色々と曖昧なままだし。

 ……そうだ。そういえば、母は死んだのか。怒涛の展開続きで後回しになっていたけれど、母についても後できちんと状況を調べないと。


「ルカちゃん?どうしたの、急に黙りこくっちゃって」

「はっ!な、なんでもない……なんでもないぞっ」


 ロキにほっぺをぷにゅるんっと摘ままれたことでハッと我に返る。
 ぶんぶんっと首を横に振って大丈夫だよーとニコニコする。ニコニコする、けれど……やっぱり考えれば考えるほど、母のことが頭から離れない。

 こんなにも突然母のザマァエンドが執行されるだなんて思いもしなかった。
 いや、これはザマァエンドと言えるのだろうか?聞いたところによると、どうやら母は自殺らしいけれど……原作では自殺じゃなかったはずだ。
 明らかに展開やストーリーに大きなズレが起こり始めている。でも、結果的には母のザマァエンドが完全に執行されたわけだし、結末が変わったというわけでもなさそうだ。

 でも、それじゃあ父の危機的な現状に説明がつかない。
 父は原作で特に窮地に陥ることはなかった。それなのに、現実ではこんなことになってしまっている。結果的には無事なはずだからと楽観視していれば、後戻りできない結末になってしまうような気が……。


「あ、アンドレアが戻ったみたいだよ」


 ふいにロキの声が聞こえてハッと思考を中断する。
 顔を上げると、ちょうど客間に入って来たらしいアンドレアと目が合った。


「……ルカ、クソ野郎から離れて座れ」


 不快そうに顔を顰めるアンドレア。慌ててロキの隣からぴょんっと飛び降り、近くの別の椅子によっこらせと腰掛けた。
 ロキは不満げだけれど、仕方ない。今のアンドレアはちょっぴり繊細だから、なるべく刺激しないように気を付けなければならないのだ。


「はぁ……」


 アンドレアは重い足取りで歩み寄り、ソファに座るなり深く長い溜め息を零す。
 疲労なんて滅多に見せないアンドレアのその様子が珍しくて、ロキと一緒にぱちくりと瞬いた。


「なんだかお疲れだね。状況はそんなにマズイのかい?」


 眉尻を下げつつ、無言でアンドレアに飲み物の入ったコップをどうぞと差し出す。
 それを素直に受け取って飲み干すと、アンドレアはロキの問いに再び溜め息を吐いた。


「……あぁ。どうやら内部……それも地下の構成員達の中に、鼠が紛れ込んでいるらしい」


 ねずみ?きょとんとする俺をよそに、ロキはそれだけで全てを察した様子で目を細めた。


「引き入れた暗殺ギルドの連中かな」

「いや……ジャックが鼠を見逃す筈がない。恐らく直近で雇った構成員の中に、公爵側の人間が紛れていたのだろう。ミケに構成員達の身辺調査を命じたところだ」


 何やら小難しい話をし始めた二人を視界に入れ、よくわかんないけどとりあえずふむふむと神妙な面持ちで頷く。
 何を言っているのか本当に理解できないので、もぐもぐとクッキーやらチョコやらを食べながら二人の話を右から左へと聞き流した。


「とにかく今は、ベルナルディとして何か行動を起こすのは控えた方がいい。犯人のでっち上げなんかは簡単だから、正直面倒なのは父君の問題じゃなく、ルカちゃんの方なんだよね」

「む?おれ?」


 クッキーもぐもぐ、もぐもぐ。
 余計なことを言って作戦会議に水を差すわけにいかないので黙っていると、ふいにロキが俺の名前を出してうーんと唸り始めた。
 それにぱちくりと瞬く俺に視線を向け、ロキとアンドレアが困ったように眉を寄せる。なんだか俺が絡む何かしらでとーっても悩んでいる様子だ。


「……そうだな、父上の件はどうとでもなる。だがルカは……実際に血族である公爵に親権を主張されてしまえばどうにも……」

「今は母親が死亡して父親である当主もアンドレアを当主代理にしている……この状況じゃあ、お偉いさんは公爵に親権を優先させる可能性が高い」


 この辺の話は何となくだけれど理解できた。
 はいはい!と手を挙げると、二人がきょとんと首を傾げて俺を見遣る。


「それなら、おれがお父さまといっしょがいい!って言えばいいだけじゃないのか?」


 親権ってあれだろ?一番は当人である子供の意思が優先って、前世で聞いたことがある。
 今の話はどうやら俺の親権についてを語り合っているようだし、それなら俺が一言声を上げれば済む話じゃないか。
 そう思って問いを投げ掛けると、二人はちょっぴり呆れた様子で苦笑した。


「えぇっと……ルカちゃんはその辺の話には疎いんだっけ。親権では子供の意思なんて尊重されないよ。親権を主張する大人側の意思だけが尊重されるの」

「……ほぇ?」


 なんだそれ、なんだそれ!そんなのおかしいぞ!
 それじゃあ子供の意思はスルーなのか?そんなのおかしいじゃないか!と混乱しながらもぷんすかと頬を膨らませる俺の言葉に、二人はぱちくり瞬いて顔を見合わせた。


「……確かに。今まで考えたことも無かったが、言われてみればそうだな」

「嫌な血縁者を拒む権利なんて、子供にもあって然るべきかも……?」


 ぷんすかな心を宥めるためにもぐもぐとクッキーを食らう俺の横で、二人は何やら閃いた様子で作戦会議に花を咲かせ始めた。

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