異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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四章

102.激きゃわ泣き落とし作戦

 
 この国の構造は、明確に“表”と“裏”に別れている。
 第一は王室。てっぺんに王家が居るのは建国以来変わらない。そしてその下、王国の表を束ねる忠実な臣下として最も有名なのは、ジェルマーノ公爵家だ。
 ジェルマーノ公爵家は代々王家を至上主義としているため、裏の者からは『王国の犬』と呼ばれていた。しかし実際は、王を傀儡として国の政治を操るものすごーく腹黒い家門だったのだ。

 当代の王はよく言えば温厚、悪く言えば小心者。
 言ってしまえばお飾りに相応しい傀儡の王。ジェルマーノ公爵はこの王を上手く操り、政治や社交界で王家よりも絶対的な地位を確立した。
 そんな策略家であるジェルマーノ公爵が敵視する、ジェルマーノ家以外の強大な家門。

 それこそが王国の“裏”を担う二大ファミリー、ベルナルディ家とヴァレンティノ家だ。

 二つの家門は表でも高い地位を確立しているが、ジェルマーノ家以上ということはなく、対等。
 しかし裏では、ジェルマーノ家など敵にすらならないと言わんばかりに権力の猛威を振るう荒々しい家門……つまり、凶暴なマフィアとして知られていた。
 王を傀儡にするほど野心家なジェルマーノ公爵からすれば、二大ファミリーはそれはもう邪魔な家門でしかなかった。
 とは言え、邪魔だからといって二大ファミリーを衰退させることが出来るような力も無い。そのため、公爵は別の角度から二大ファミリーを牽制することにした。

 それこそが、実の娘をベルナルディ家に嫁がせるというもの。
 運よく後妻として取り入ることが出来れば上出来。ベルナルディの血を継ぐ子を産むことが出来れば強運。それくらい漠然とした画策だった。
 そんなジェルマーノ公爵の策略だが、結果的には見事に成功した。娘は死んだベルナルディ家の夫人の後釜に収まり、ベルナルディの血を継ぐ息子を産んだ。まさに公爵の策略通り。

 この国では、血の繋がりというものはとても濃く認識される。
 どれほど強い絆があろうと、血の前では無意味。血に抗う者は民に非ず、なんて暴力的な言い伝えまであるくらいだ。
 そんな血の繋がりこそ、今ベルナルディにおいて最も厄介なものらしい。



 ***



 と、なんだか長々とした説明を話半分に聞き始めて何分経ったろうか。
 ちらりと時計を確認してハッとする。時計を見たところで、話し始めた時の時間を覚えていないからクールに確認することも出来ないや。俺ってばドジー。


「長ったらしく話してしまったけれど、つまり公爵の狙いがルカちゃんで、それがこっち側にとってとても厄介なのはそのせいなんだよ」

「もぐもぐ……血のつながりがあるから、もぐ……こーしゃくさんを拒めない?」

「そういうこと!はい、きちんと理解できたご褒美にチョコどーぞ」


 クッキーはとっくに食べきってしまったので、空のお皿をひょいっと退かす。
 するとロキが、まだ少し余っていたチョコをひとつ口元に差し出してくれた。あーんされなくても自分で食べられるが……と思いながらもぱくっと食べる。もぐもぐ、うまし。


「でもね、俺達閃いちゃったんだよねぇ。さっきのルカちゃんの話を聞いて」


 含みのある言葉が気になって視線を上げる。もぐもぐする手を止めて首を傾げると、ロキが満面の笑顔でわーいと語った。


「ずばり!激きゃわルカちゃん泣き落とし作戦ー!」


 えぇ……なんだそのアホみたいな情けない作戦名……。
 俺達、というからにはアンドレアも共犯なのかと思ったけれど……このめちゃんこ呆れているような顔を見る限りロキ一人の暴走みたいだ。アンドレアも苦労してるのね。
 それで激きゃわうんたらかんたら作戦とはなんぞや?とチョコもぐもぐしながら首を傾げると、ロキがむふふと笑って答えた。


「俺とアンドレアで法の改正案を王家に提示するのさ!親権問題では子供の意思が第一に問われるべきだってね。でも、口で言ったってお馬鹿な世間様は理解してくれないだろうから……」


 ぽん、と隣から伸びた手が俺の頭を撫でる。その手の主はアンドレアだ。
 隙あらばなでなでしたりぎゅーしてくる癖、ちょっぴり控えてほしいな……あんまりされると照れちゃう、てれてれ。


「……ルカが実際に議会に立って外野を泣き落とせばいい、ということだ」

「むむぅっ?どゆことー?」


 キリッと澄ました顔で言っているけれど、全然理解できなかったぞ。
 アンドレアってば説明下手なのね、とヤレヤレ首を振って最後のチョコをもぐもぐ。むっ、おやつがなくなってしまった……。
 仕方ないのでしょぼんと肩を落とすだけに留めていると、アンドレアの口下手な説明を補足するみたいに苦笑気味のロキが話を続けた。


「詳しく説明するとね、ルカちゃんには公爵と死んだ実母の悪逆非道の限りを泣きながら話してほしいわけなんだよ。ルカちゃんかわいいから、泣き顔だけで同情を引けると思うんだ」

「ちょっとまてぃ」


 なんかスラスラ―ッととんでもないことを言っているが、それって俺、めっちゃダサくない?
 もっとこう、俺がクールに活躍できるような作戦はないの?と聞いてみると、アンドレアに「そんなものは考え付きすらしない」と一蹴されてしまった。そこまで言う?もう泣いちゃおうかな。


「ほら、その、ルカちゃんの武器ってぶっちゃけ顔じゃん?可愛い顔と、ちっちゃな身体ね。喋るとアホの子のボロが出ちゃうから、なるべく泣くだけで留めてほしいんだよね」

「むむぅっ!おれはあほじゃにゃぁぁい!」


 ニコニコ笑顔で淡々と紡がれる容赦ない言葉たち。
 流石の俺もぷんすか!なので、ソファからぴょんっと下りててくてくっと向かいのソファに座るロキのもとへ。
 きゅっと丸めた拳でロキをぽかぽかっと攻撃すると、ニコニコ笑顔のロキから「わーっ」という楽しそうな声が返されて絶望した。効いてない、だと……?


「にゃ、にゃんでだっ、なんできかないっ……うぅーっ」

「あぁっよしよし泣かないでー!すっごく効いたよ、いたいいたいだよー!」


 今更ぐわーっと痛そうなリアクションをとったってもう遅い。さっきまでケラケラ笑ってたじゃろがい。
 ロキの余裕そうな態度にがとっても悔しくて、おもわずほっぺをむぐむぐさせながら涙目で震える。すぐにロキがほっぺをむにゅっと包み込んで撫でてくれたけれど、そんなことされたってもう知らんのだ。ふんすふんすっ。


「ごめんねルカちゃん。ルカちゃんはとってもクールで賢い子だよね。アホの子なんかじゃないもんね。おかしなこと言ってごめんなさい、おねがい許して?」

「むぅ……だめだぞ!おれはじぇーんじぇんアホなんかじゃないんだからなっ」

「うん、ごめんね。ぷりぷり怒っちゃってかわいいね。かわいいかわいい」

「かわいいもだめだぞっ!おれはかっこいいんだぞっ!」


 なんだか全然反省していないように見えるけれど、まぁごめんなさいしたから良しとしよう。
 ぷくーっとほっぺを膨らませながらとたとたっと自分のソファへ戻る。ふんすっと不貞腐れながら座ると、隣に座るアンドレアがよしよしと頭を撫でた。なんだなんだ、眠くなっちゃうからやめんか。


「いい子だルカ。早速練習か?今のように泣いてくれれば上出来だ。議会の若造からジジイ共まで、お前のあまりの愛らしさに屈服して平伏すに違いない」


 あ、だめだ、アンドレアもポンコツだ。
 ここには俺の苦労を理解してくれるまともな人が一人もいないみたいなので、とことこっと扉まで駆け出した。お話の区切りはついたみたいだし、もう出てっていいよな?
 とことこと目指すはベルナルディ家唯一のまとも枠こと、ガウが待つ場所である。はむはむして平常心を取り戻すのだ。
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