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四章
103.ジャックから見たおとーさまの危機
ご主人様のおとーさまが連行されたのは、警備隊の本部らしいおっきな建物だった。
正直、ここは大嫌い。僕の大嫌いな警備隊の本陣アジトだから。でも、今の僕の行動がご主人様の為になるのなら、この吐き気も何もかも全部我慢して頑張ろう。
視界に見慣れたクソ警備隊の軍服姿が見える度、殺意が疼いて襲い掛かりそうになる。けれど、僕は偉い子だからそれを必死に堪えて我慢した。
そんなこんなで僕が今いるのは、ざっと見た感じこの建物内で一番綺麗な……いわゆる、VIP用みたいな牢屋の外壁だ。
廊下に面した壁は抜かれて檻になっていて、通りかかった人には中の様子が丸見え。だけど内装はきちんとしていて、ベッドもきちんと毛布があるし、椅子もテーブルも用意されている。
そんな中の様子を、僕はここに来てからずーっと外壁に張り付いて、一つしかない窓からじーっと観察し続けていた。
万が一おとーさまが警備隊のクソ共に痛いことをされたら、すぐに救出してベルナルディのお家に戻る。それがガウとの約束。
だからこうしてずっと見守っているわけだけれど……なんというか、別に僕、わざわざ護衛に来てあげなくてもよかったっぽいなぁ。
「おはようございます主様。今朝のお飲み物はハーブティーに致しましたが、よろしかったでしょうか?」
「あぁ、今日も美味いな。初日のコーヒーが最悪だったからか、普段より美味に感じる」
「この場所のコーヒーは犬の糞かと錯覚する程の代物ですからね。高貴な立場にあらせられる主様に馬鹿舌共が好んで飲むような糞擬きを振る舞うなど、二度とあってはなりませんから」
うふふあははと朝の優雅なひと時を楽しんでいる二人。
そんな二人のもとに訪れた、今朝の尋問担当らしい強面の警備隊員。彼は二人の会話をぷるぷる震えながら聞いて、突如クワッと怒り始めた。
「おい貴様ら!己の立場を分かっているのか!ここでは貴様らは劣等人種、我らの家畜に過ぎぬ穢れた囚人だということを忘れるな!」
何やら国民の平和を守るヒーロー像とはかけ離れた言動をする男。
軽くムカついたので殺していいだろうか、とピキッてしまったけれどハッと我に返って我慢した。殺しはだめ、殺しはだめ……っと。ご主人様のアホっぽい笑顔を想像してなんとか殺意を抑えた。
ふーっと軽く深呼吸してから、窓からそろりと顔を覗かせて中を観察する。
いかにも性格の悪そうな軍服の男は、おとーさまの向かいの椅子にふんぞり返ってハッと嘲笑した。
「それにしても無様だなぁベルナルディ!法の道を外れた豚共を統括する貴様が、今は一端の家畜に成り下がっているとは!処刑の日はこれ以上にさぞ無様な最期を遂げるに違いない!」
ハーハッハ!とクソほどムカつく笑い声を高らかに上げるクソデブ男。
自分が一番頭の弱そうな家畜みたいに笑っているのに、それにどうして気付かないのだろう。やっぱり豚だから頭が悪いのかな。それなら自覚出来なくても仕方ないか。
こんな煽り方をされたら、僕なら秒速で顔面に一発叩きこんで四肢をもいでいっそ殺してくれとのたうち回るくらいの地獄を味わわせてしまうだろう。
でもおとーさまは違うみたい。流石最高の権威を振るうマフィアの当代なだけあって、このくらいの豚の煽りは虫の羽音も同然らしい。ちょっぴり不快げだけれど、それくらい。
なんか虫がやかましいな、くらいにしか思っていなさそうな顔だ。
「リノ、今朝の新聞は」
「はい。こちらに」
一人やかましく高笑いする豚野郎を置いて、おとーさまは至って冷静な様子で側近のリノさんに手を差し出す。
それに一瞬で応えたリノさんが、どこからか取り出した新聞をおとーさまに手渡した。マジックって見たことないけど、今みたいな感じなのかな。新聞の出処が全然見えなかった。
ていうか、一応牢屋に閉じ込められているのに新聞ってアリなのかな?なんて思ったが、どうやらその疑問は正しかったらしい。
豚野郎がハッとしたように机をドンッ!と叩き、新聞をガン見して叫んだ。
「オイオイ待て貴様ぁ!一体その新聞はどこから出した!?どこから入手した!!」
やっぱりダメみたい。豚野郎が勢いよく立ち上がり、優雅に新聞を広げるおとーさまに手を伸ばす。
たぶん新聞を奪い取ろうとしたんだろうけれど、その前に豚野郎の腕をリノさんがぎっちり締め上げた為に、その手が届くことはなかった。
それにしてもリノさん、普段はゆったり温厚って感じだけど……本当はこんなに強い人だったんだ。僕でも動きを視認するのがギリギリなくらいの速さだったなぁ。
「イテテテテッッ!!何をする貴様ァ!その手を離せェェ!」
「我が主の邪魔をするとは、これは万死に値しますよ。全く、最近の豚は躾が甘くて困りますねぇ」
平然とした顔で豚野郎の腕を締め上げながらしみじみ呟くリノさん。
全然力を入れていないように見えるけれど、豚野郎の血の気の失せた蒼白顔を見る限りとんでもない怪力みたいだ。あの人、片手でちょっと握っただけで人の首へし折れるんじゃなかろうか。
「……おいリノ、アンドレアが王家に法の改正案を提出したらしい。まだ子供だというのに聡明が過ぎるとは思わないか」
「おやおや、これは後日祝いのパーティーを開かねばなりませんね。あの政には無関心だった若様が随分成長したようで……このリノ、感激で涙が溢れてしまいそうです」
ポケットから取り出したハンカチで目元を拭うリノさんだが、もう片方の手は未だに豚野郎の腕を締め付けて離さない。
豚さん軽く失神しちゃってるし、そろそろ腕がもげちゃいそうだなぁ、かわいそう。
「……む。ルカも議会に参加するのか。聡明な我が子達は一体何を企んでいるのか」
「ルカ坊ちゃまが議会に?なんと。天使の降臨によって議会場に野郎共の屍が積み上げられなければ良いのですが……」
「ふむ。あの子達の目を汚すわけにはいかぬからな。その辺りはアンドレアが上手くやるだろうが」
えぇ、ご主人様、貴族共の議会になんて出るのか。心配でそわそわしちゃう。
あのご主人様のことだから、きっとたくさんの大人達に囲まれてアワアワ目を回してしまうだろうな。怖くなって泣いちゃって、ガウかおにーさま辺りに抱き着いちゃうんだろうな。
ご主人様かわいい。かわいいがすぎるよう、と一人悶え苦しんでいると、ふいに部屋の中からガシャン!と鈍い音が聞こえて慌てて覗き込んだ。
「グフッッ!」
「貴方は用が無いならお帰り下さい。これ以上汗臭い空気を室内に充満させたら殺しますよ」
なぁんだ、今のはリノさんが豚野郎を檻の外に放り投げた音だったらしい。びっくりして損したぁ。
豚さんはさっきの腕絞めで完全にリノさんを恐怖の対象として認識してしまったらしく、ぶわっと冷や汗を掻きながらドタドタと逃げ出した。
今の走り方、上位種から逃げ回る無様な家畜って感じで面白いなぁ。
あの豚さん、あとでこっそり甚振り殺しちゃおうかな……なんて楽しい遊びの妄想をしていた時、ふいに聞こえたリノさんの声でビクッと硬直した。
「──さぁ、いい加減入りなさい。視線だけ向けられ続けるというのも中々ウザったいですよ、ジャック」
一体いつから気付いて……と汗をたらたら滲ませながら、そぉっと顔を出して覗き込む。
すると、ニコニコ笑顔のリノさんとばっちり目が合ってはわわ……と笑顔を引き攣らせた。
「飲み物はコーヒーでよろしいですか?」
「できればハーブティーでお願いしまぁす……」
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