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四章
104.兄と弟の守りあい
姿見の前でむぅっと頬を膨らませる。珍しく正装に身を包んでいるからか、いつもよりもキリッとクールな印象だ。頬をぷくっとしているから、表情はあんまりクールじゃないけれど。
黒色を基調としたブラウスやらジャケットやらハーフズボンやら。胸にはこれ見よがしにアメジストのブローチがつけられて、完全に『ベルナルディ』を前面に押し出す恰好となっている。
今日は父の運命が決まる日だから、これくらいの勝負服がちょうどいいのかもしれないけれど……議会で法律の話云々をしに行く恰好にしては、ちょっぴり華美が過ぎる気がする。
「むぅ……ほんとにやるのかぁ……?」
使用人が仕上げのチュールの髪飾りを俺の頭につけて身支度終了。
視界がちょっぴり遮られてウザったいけれど、この髪飾りに関してはアンドレアの要望だからどう足掻いても外すことは出来ない。
なんでも『ルカの可愛い顔をなるべく野郎共に見せたくない』とのことだ。泣き顔を晒す為に行くってのに、今更何を言っているのかね。
「ルカちゃんがどうしても嫌だ!っていうなら、しなくていいんだよ。でも、その場合ルカちゃんがクールに活躍する機会はゼロになっちゃうけれど……」
「する!やるぞ!おれ、がんばるぞっ」
この超絶クールな俺のヒーロー劇がなくなっちゃうだと?それはだめだ。何としてでも議会に立って父を救わねば。ふふん。
と、なぜか今朝もベルナルディ邸にお邪魔しているロキを振り返り、完成した勝負服姿をじゃじゃーんと見せびらかす。
くるりんっと一回その場で回ってポーズを決めると、ロキが「グハァッ!」と膝をついて悶えた。
「かわいすぎるよルカちゃんっ……!きっと議会の狸爺共はルカちゃんの愛らしさに目が眩んで無意識にでも改正案に賛成票を入れてしまうに違いないよっ……!」
えらく具体的な長文妄想を垂れ流して蹲るロキ。よくわかんないけど、今日も元気そうで何よりだ。
ぐあぁぁーと悶絶するロキをツンツン突っついて遊んでいると、同じく準備が終わったらしいアンドレアが突然部屋に入ってきた。せめてノックしようね。
「ルカ、そろそろ行くぞ……む、サメも連れていくのか」
蹲るロキをナチュラルに足蹴にしながらアンドレアがサラリと語る。
俺が腕にサメさんを抱いていることに早くも気が付いたようで、アンドレアはちょっぴりだけ表情を顰めた。なんだかほんのり不満げだな。
もしかしてサメさんは出禁なのか?と眉尻を下げると、俺の悲しみを察したらしいアンドレアがあわわと首を振った。
「ただでさえ可愛さが限界突破しているというのに、ぬいぐるみまで抱いたら即死攻撃が過ぎるのではと少々不安になっただけだ。輩が多少死のうが別にどうでもよかったな、すまない」
なんか色々とズレている気がしなくもないけれど、時間もないのでまぁいっかと適当に頷いた。
よくわかんないけど、ごめんなさいしなくてもいいんだぞ。サメさんの同行を許してくれてありがとうだぞ。
「……で、貴様は何故ここにいる。嫁入り前の幼子の部屋に入るな変態、出て行け」
「やーん、アンドレアったらケチ!俺とルカちゃんはとっくに将来を誓い合ったようなものだから別にいいじゃないか!」
「死ね」
なんだか初期の頃よりも流れが滑らかになったような気がする恒例の主人公たちの喧嘩。
アンドレアが二文字で会話をぶった切って一発ぶっ放したところで喧嘩終了。うーむスマート。これまたいつも通り華麗に銃弾を躱したロキが立ち上がり、何事もなかったかのように歩き出した。
ちなみに、俺の部屋の壁に穴が空いちゃった件についてはきちんと弁償してくれるんだよね??
「さぁおいで、ルカ。父上にルカのクールな姿を見せに行こう」
「……!はいっ、お兄さまっ!」
いざ始まるお父様救出作戦、そして同時に決着をつける予定の親権問題……。
どっちもこの俺、超絶クールな悪役次男ルカ・ベルナルディがクールに解決してやろうじゃないか!と気合を入れて、アンドレアと共に戦場へと出発した。
***
「ふえぇぇ……かえりたいよぅぅ……」
「ルカちゃんったら。まだ始まってもいないよ、ほらがんばって!」
そうしてやってきました!今回の戦場である議会場。
ふんすと胸を張ってやってきたはいいものの……俺ってば、早くも心がぽっきり折れちゃいそうである。それはなぜかって?想像以上に大人達の視線が怖いからさ……。
議会の場所はまさかの王城。
今はまだ議会まで時間があるので、王城をふらふらと歩いているところ。
議会に参加する予定の俺達が歩いているのだから、当然他の貴族達も歩いているわけで……さっきから、いかにも!って感じの貴族達とすれ違いまくってめちゃくちゃ視線を向けられているのだ。
その視線に良い感情が籠っていないのが丸わかりだからこそ、すれ違う度に心がポキポキ折れていく。これ、完全に俺達の良い波来てないけど大丈夫なのだろうか。波、ちゃんとのれる?
「……だが確かに、こちら側に乗ってくれるような貴族は今の所見掛けないな」
「ふえぇぇっ!」
「こらアンドレア、あんまり脅かさないの。ルカちゃんったら、最悪の事態を想像して泣いちゃってるから」
やっぱり俺達の主張に賛同してくれるような良い貴族なんて居ないんじゃないかっ!
これじゃあ外野の罵声を浴びまくるだけになるかもしれないし、アンドレアも恥を掻いて終わりになってしまうかもしれない。
俺はまだいい。そんなことよりも、俺の尊敬する超絶クールなアンドレアが恥を掻かされるなんて絶対だめだ。
そう思い、俺は慌ててアンドレアの前に出てふんすと宣言した。
「お兄さまっ!だめそうだったら、おれにぜんぶおしつけて!わんわん泣いてでも、お兄さまの名誉はおれが守りますっ!」
ぷるぷる震えながら宣言する姿は、ちょっぴり頼りがいが無さげに見えるだろう。
でもでも、俺は本気だ。アンドレアを守りたいって気持ちは誰にも負けない!だから、俺は震えたって気丈に背筋を伸ばし続けた。
そんな俺を見下ろし数秒硬直したアンドレアは、やがてふっと眦を緩めて俺をひょいっと抱き締めた。
「……あぁ。俺も、どんな手を使ってでもルカを守る」
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