異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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四章

111.おかし

 
 どこに行くのかなぁとワクワクしながら馬車に乗り、辿り着いたのは王都の中心部だった。
 主に観光通りとして知られているこの周辺は、有名なカフェやらブティックやらが立ち並ぶショッピングストリートだ。俺もパーティー用の正装を買いに来る時くらいしか来たことがない。
 というか、そもそも外に出ること自体稀なので、今日のお出掛けは本当に未知の世界と言える。外に出たら高確率で襲撃を受けると分かっているから、普段は積極的に出掛けようとは思えないのだ。

 でも、今日は主人公ペアがいるから何の問題もなし!
 この世界の主人公である二人ならそう簡単には死なないだろうし、そもそもシナリオやらを抜きにしても二人は純粋に強い。
 だから今日のお出掛けは安心して楽しめるというわけだ。よきよき。


「ルカちゃん。ルカちゃんはお菓子が大好きだよね」

「む?うん!だいすきだぞっ!」


 てくてく歩きながら辺りをほわぁ……と目を輝かせて見渡していると、ふいに手を繋いでいたロキがにこやかに話しかけてきた。
 突然のセリフにきょとんとしながらも頷く。もちろん、俺はお菓子がとっても大好きだぞ。


「今日はね、最近流行っているって噂のカフェに行こうと思ってるんだ。ルカちゃんの好きなクッキーもケーキもたくさんあるよ」


 なぬっ!カフェですと!
 クッキー、ケーキ……ステキな単語が並べられてほわぁっと頬が火照る。想像するだけでお腹が空いて涎が出ちゃいそうだぞ、じゅるり……。
 キラリと瞳を輝かせてワクワクソワソワと揺れる俺を見下ろし、ロキだけじゃなくアンドレアまで無表情を崩してほわほわと眦を緩めた。むぅ、何やら子ども扱いされている予感……。


「ふふ、かわい、かわいいねぇ。食べたいもの何でも買ってあげるから、遠慮なく甘えてね」

「なんでも?クッキーも、チョコも、ケーキも、なんでも食べていいのかっ!」

「もちろん。パフェもクレープもアイスだって、何でもオッケーだよ」


 はわわぁっ!と火照ったほっぺを両手で押さえる。今から至福のひと時を想像してほっぺが落ちちゃいそうだ。
 わーいわーい!と飛び跳ねて、二人の手をむんっと引っ掴み勢いよく駆け出す。


「ふたりともっ!はやくっ、はやくはやくっ!はやく行こうっ!」


 ルンルンと鼻歌まじりに進む俺を、ロキとアンドレアが微笑ましげに見下ろしていたことに気付かなかった。



 ***



「ほわぁあっ!!」


 ロキが予約してくれたという人気カフェ。
 お洒落な外観と同様、こだわりの感じられる素敵な内装を見渡して思わずぴょんぴょん飛び跳ねた。
 話題の人気カフェというから期待はしていたけれど、まさかこれほどとは思わなかった。開放感がありすぎるわけでもなく乱雑なわけでもない、程よい居心地の良さを感じる雰囲気だ。

 そういえば何だか人が全然いないなぁと思ったら、どうやら今日はロキがカフェを貸し切りにしたらしい。噂の人気店を貸し切りって、どれだけお金がかかったのか……ひえぇ。
 中には店員らしき人達が綺麗に並んでいて、いかにもVIP待遇という感じだ。中身が庶民な俺はそわそわしちゃうけれど、ロキとアンドレアはその様子を当然とばかりに一瞥しながら先へ進んだ。


「むぐぅ……む?」


 俺はお金持ちの子、俺はお金持ちの子……と圧迫されそうな空間で必死にガクブル堪えていると、ふいに正面に見慣れた顔を見つけてぱちくり瞬いた。
 あの既視感のあるなんちゃってチャイナ服の男性は……。


「お待ちしておりました。本日は当店をご贔屓にして頂きありがとうございます」


 白地に濃緑の刺繍が施された丈の短いチャイナ服。今日も素敵な格好だなぁと見惚れていると、彼がスマートにお辞儀をして微笑んだ。か、かっけー……超絶クールだぁ……。
 でもでも、たしかこの人はもっと熱血っぽい男性だったような。こんなにスマート紳士みたいな落ち着いた人じゃなく、見た目に寄らない体育系の……。


「やぁハオラン、今日はありがとう。商会の経営は順調のようだね」

「はい!これもヴァレンティノ家の投資があってのことです!その節は本当にありがとうございました!」


 バッ!と深く頭を下げる彼を見てほっと息を吐いた。そうそう、これだ。この熱さだ。
 見た目との印象と中身がちぐはぐなこの感覚、久しぶりだなぁ。
 考えてみればこの人……ハオランとは夜会やら会合やらでしか会う機会がないし、会っても話すことはないから、こうして近くまで来て顔を合わせるのは珍しいことかもしれない。

 そわそわ、と身体を揺らしてじーっと見つめていると、やがてハオランが俺の視線に気付いたらしく、ふいにパチッと目が合った。


「あ……話しかけても?」

「……うーん、仕方ないな。いいよ、ちょっとだけね」

「……余計なことは言うな」


 なぜかロキやアンドレアをチラ見して許可をとるハオラン。
 なんで俺に話しかけるだけで二人に許可取りをしているんだこの人は……と不思議ちゃんを見る目でぱちくり瞬いていると、ハオランがちょこんとしゃがみこんで笑顔を向けてきた。


「こんにちは!今日はこのカフェのお菓子を食べにきてくれてありがとうございます!」


 あまり慣れない人に話かけられたことであわあわとちょっぴり混乱する。
 俺ってば知っている人にはグイグイ行けちゃうけど、あんまり知らない人と話す時は緊張で赤くなってしまうのだ。ぬーん、俺ってばほんとシャイボーイ。


「あ、あぅ……こ、こんにちわ。おかし……いっぱいたべる。おいしいおかし、ありがと」


 ロキとアンドレアの足元に身を隠しながら、ひょっこりと顔を覗かせて小さく答える。
 すると何やら店内の空気がほわほわぁっと和らいだような気がした。気のせいだろうか、向けられる視線が全てちっちゃな子供を見るような、微笑ましげな色をしている気がする……。


「うんうん。こちらこそ、可愛らしいお客さんが来てくれて嬉しい限りです!ささっ、そろそろお菓子を食べたくてウズウズしているでしょう、どうぞこちらへ」


 俺がさっきからお菓子、お菓子っとそわそわしていたことを悟られていたらしい。
 ニコニコと良い笑顔を浮かべてそう言うハオランに赤面する。

 サメさんをむぎゅうっと抱き締めて羞恥心に耐えながらも、お菓子は早く食べたいので、ハオランの案内にとてとてーっと素直についていった。
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