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四章
112.いいひと?
案内されたのは日当たりの良い窓際の席だった。
片側のソファには大きなクマのぬいぐるみが置いてあり、それに引き寄せられるようにてくてくっと駆け出してぼふっともふもふに沈む。
振り返って「ここ、おれ!」と席確保の宣言をすると、二人は普通にオッケーと認めてくれた。
「ふんふん、ふふん」
クマのもふもふ具合を背に堪能しながら、ルンルンと足を揺らす。
上機嫌な俺を見るみんなの目が、なんだかまた子供に向けるような微笑ましげなもののように感じるけれど……まぁいいや、たぶん気のせいだな。
「えへへ、それじゃあ俺はルカちゃんの隣に……ぐぇっ!」
「ふざけるな、俺が隣だ。貴様は床にでも跪いていろ」
ニマニマと俺の隣に座ろうとしたロキが首根っこを掴まれてポーイと放り投げられる。
放り投げた張本人であるアンドレアは我が物で俺の隣に腰掛け、むぎゅっとこっちに詰めてきた。そんなにくっつかなくても、ソファ結構広いのに……。
ロキがムッスーと不貞腐れた顔で向かいのソファに座ったところで、ずっと待ってくれていたらしいハオランがニコニコ笑顔でメニューを差し出してくれた。待たせてごめんよ。
でも、この状況に混乱したり驚いたりする様子がないことを見る限り、二人のケンカにはハオランも慣れているのかもしれない。
お騒がせ主人公ペア、俺が参加しない会合とかでも暴れている可能性が浮上してきたな……。
「ルカ、何が食べたい。何でも頼め」
アンドレアが開いたメニューを「ぐぬぬぅ……」と真剣に眺める。
クッキーにケーキにパフェにクレープに……うーむ、たくさんあって決められないぞ。
一口にクッキーと言っても、チョコとかイチゴとか色々あるし。ケーキだって種類はかなり幅広くて、タルトやら何やらととてもじゃないが厳選なんて出来そうもない。
ぐぬぬ……と考え込んで、最初は無難なやつからいくか、とようやく決めて顔を上げた。
「しょーとけーきっ!」
君に決めた!と瞳をキラキラ輝かせながら言うと、ハオランが一つ手を叩いて店員さんに指示を飛ばした。
そういえば、見る限りハオランはこの店で一番偉い人のように見えるけれど……店長さんなのだろうか?それとも何か別の役職?気になったので「ねーねー」と呼びかけてみた。
「はい!どうしました?」
「あのな、あのな。ハオランは偉いひとなのか?てんちょーさんなのか?」
きょとんと瞬きながら言うと、ハオランは一瞬ピシッと固まって、すぐにニコッと微笑んだ。
「このカフェは私の商会が経営している店なのです!初期は貿易などの商いが主だったのですが、今年から飲食系にも力を入れようと──」
「あ、あば、あばばっ」
経営とか貿易とか商いとか、お勉強が大の苦手な俺が聞いたら頭がパンクしちゃいそうな言葉の羅列で大混乱である。
ぷっしゅーっと熱を上げてばたんきゅーすると、そんな俺を慌てて抱き上げたアンドレアとロキがぷんすか!とハオランに激おこした。
「馬鹿野郎。うちのルカはアホなんだ。小難しい単語で説明するな」
「もうっ!ルカちゃんはアホの子だって事前に伝えたでしょ!経営とか難しいこと言わないの!」
ハオランの「す、すみませんっ!」と謝る声が遠くに聞こえる。ロキとアンドレアのセリフはよく聞こえなかったけれど、ハオランの慌ただしい謝罪を聞く限り碌な内容じゃなさそうだ。
しばらくちーんと悟りの表情でご臨終していたが、やがてお待ちかねのショートケーキがやってきたことで花が咲き誇るかの如くぱぁっ!と復活する。貸し切りなだけあって完成が早い。
アンドレアの膝に座ったまま、フォークをとってむっふーっと頬を緩める。
「たべるぞ、いいのか、もうもぐもぐしていいのかっ」
「いいよいいよ。ほらたくさん食べてー」
何やら帰省先のおばあちゃんみたいな雰囲気を纏ったロキがほわほわっと頷く。
二人の分がまだ来ていないけれど先に食べていいのかな……とそわそわしたが、どうやら先にもぐもぐしてしまってオーケーらしい。
そうと決まれば!とわくわくしながら、一口目をぱくっと頬張った。
「ほむぅぅっ!」
「その反応はどういう心情なんだ」
「ほっぺた落っこちちゃいそうでかわいいねぇ」
至福のショートケーキだ……クリームは甘すぎない絶妙な味だし、イチゴも酸っぱくないやつだから顔がムキュッてならない。シェフを呼んで五つ星をあげたいくらいだぞ。
ルンルンと足をぷらんぷらん揺らしながらショートケーキを堪能する。もぐもぐむぐむぐ……。
あんまり美味しすぎたので、その後もチョコケーキやタルトやクッキーを注文。全てもぐもぐっと胃袋に詰め込むと、ぺったんこだったお腹は一瞬でぷにぷにになってしまった。
「ぷしゅーっ……」
「はわっ……ルカちゃんのお腹、ぷにぷにでかーわーいーいー!」
いつの間に移動したのか、クマさんを押しのけて隣に腰掛けたロキが俺のお腹をぷにぷにツンツンとつっつき始める。むぅ、やめんか擽ったい。
アンドレアもほくほくとした無表情で俺のお腹をムニムニしてるし……まったく何なんだ一体。ちょっぴり太っちゃっただけなのに馬鹿にするんじゃない。ぷんすかぷんすか。
「おれはおデブじゃないぞ。おいしーもの食べて、ちょっぴりぽっちゃりしちゃっただけだぞ!」
「うんうんそうだね。ルカちゃんはぷにぷにになっても可愛いままだよね」
「そういうことじゃないぞ」
ぷにぷにじゃないっちゅーに、コイツ人の話聞いてないな?
ムスッとしながら余ったクッキーとチョコを食べきる。美味しいお菓子をぺろりと平らげてご満悦……しようとしたが、クマさんのもふもふに身体を埋めようとした時にハッと切り替えた。
そうだ、まだのほほんとおやつタイム後のお昼寝に入る時間じゃない。まずはこんなに美味しいお菓子を売ってくれているハオランにお礼を言わねば!
少し離れた場所で控えていたハオランをちょいちょいっと手招き、ふにゃあっと笑みを向けて語る。
「ハオラン、ハオラン。ハオランはとっても賢いんだな。俺はちょっぴりおバカだからわかんないけど、けいえー?ってすごく大変なんだろ?」
「は……」
「こんなにおいしいおかしを作ってくれるなんて、ハオランはいいひとだな!おれ、ハオランすきだぞ。おいしいおかし売ってくれたから、ハオランだいすきだぞっ」
ありがとー、と無理やり手を引っ張って握手する。
するとハオランは、なぜかむきゅっと酸っぱい……梅干を食べた時みたいな、でもなんだか切実そうな顔をした。
「……そう、ですか」
返ってきた声には、さっきまでの熱血っぽい色は籠められていなかった。
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