異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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四章

120.らすかるときゅーしゅつ作戦!

 
 主様が胡散臭いヴァレンティノの後継者と外出された後、疲れ果てた状態で帰ってくるであろう主様のため、掃除を済ませようと部屋へ向かったところまでは明確に覚えている。
 主様の部屋に一歩入った瞬間、突然肩に酷い激痛を感じて蹲った。反射的に服を剥いで確認すると、治療を受けて大分薄くなったはずの焼印が、なぜか強い光と熱を滲ませていた。

 まるで今まさに焼き尽くされているかのような、そんな激痛に必死に耐える。
 のたうち回って主様の部屋が荒れてしまってはいけない。その思考だけが、力尽きそうな身体を強張らせ、正気を寸前で維持していた。
 数秒経って、やがて意識が朦朧としてきた。呆けた状態のまま、なぜか頭の中に一つの目的が浮かび上がる。脳に直接強く刻まれるようなその感覚が、どうにも気持ち悪かった。


 ──主のもとへ向かわなければ。


 そう、主のもとへ。私の所有者のもとへ、早く帰らなければ。戻らなければ。
 ……いや、違う。私は何を……?私の所有者は主様だ。帰るも何も、この場所こそが私の居場所だ。私の帰る場所だ。私の主様は、ルカ・ベルナルディ様ただ一人だ。
 そのはずなのに……なぜ、どうして。たった今従おうとしている命令の対象は、主様ではなく……


「なぜ……そんな、馬鹿な……」


 足が勝手に動き出す。部屋の掃除をしなければならないというのに、身体はそれを無視して部屋を後にしてしまう。
 やがて混乱すらも霞んで無くなり、意識が奥底へと遠ざかっていった。



 ***





 リノがなるはやで調べてくれた、ガウの以前の主の居場所。
 そこへ出向いたのは俺とアンドレアと護衛のダグラスだ。父やリノまで出向いて邸を留守にするのは危険だからと、少数精鋭で敵さんの本陣に殴りこむことになった。
 どうやらジャックにはガウのように危機が迫っているわけではないようだから、後で合流する手筈になっている。ジャックまで消えていたから不安になっていたけれど、とりあえずは無事のようでよかった。

 なんでもジャックは自らガウの捜索を申し出て単独行動していたらしい。せめて一言報告してから……とちょっぴり拗ねたりもしたけれど、事情を汲んでお仕置きはしないことにした。
 情なんかとは無縁なサイコパスに見えて、あれでも一応ガウのことは心配しているのだろう。ジャックが珍しく人間らしい一面を垣間見せたのだ、無断の行動については許してやろうじゃないか。

 と、そんなこんなで訪れた、ガウの以前の主さんのお屋敷。
 その邸の正門を前に、俺達はヒソヒソとちょっぴり身内争いを繰り広げていた。


「……ルカ、やはりお前は残って俺達で行った方が」

「おばかっ!敵さんはおれをご指名なんだぞっ!俺がいかなきゃいみなかろーがっ!」


 一応俺ひとりで来たという体だから、あまり大声は出さないよう注意しながら口論を続ける。
 俺のことが心配だからと、俺を置いて自分が行くと語るアンドレアに溜め息を吐く。この溜め息ももう何度目だろうか。
 脅迫の内容を忘れたのか?俺一人で行かないとガウが殺されちゃうんだぞと丁寧に説明してあげても、アンドレアはムッスーッと不貞腐れるだけだった。子供か。


「オイオイ、そろそろ決着付けろよお騒がせ兄弟共。クソ下らねェ争いしてる間に、例の獣人が痛め付けられてっかもしれねェんだぞ」

「はっ……!」


 ぐぬぬ……っと睨み合う俺達を呆れ顔で見下ろしたダグラスが、ふいに吐き捨てるように語ったそのセリフ。それを聞いて息を呑んだ。

 そうだ、俺はこんなところで兄弟喧嘩をしている場合じゃない。今この瞬間にもガウは拷問を受けて、命の灯を消そうとしているかもしれないのだから。
 こうなれば強行突破しかあるまい、と覚悟を決めた目で立ち上がった俺を見上げ、アンドレアも流石に諦めたような目をして溜め息を吐いた。


「はぁ……仕方ない。俺は単独で忍び込む。ルカ、お前は正面から正々堂々殴り込みに行ってやれ」

「……!いいのですか……?あんなに、だめっていってたのに」


 突然あっさりと許可が下りたことに目を見開く。いくら俺の執念深さに根負けしたとはいえ、アンドレアだってずっと粘っていたことをこうも簡単に許してくれるなんて。
 ぱちくりする俺を見据え、アンドレアが微かに頬を緩めて答えた。


「大体は、この結果も想定内だ。だからこそダグラスを連れて来たのだからな」

「……む?らすかるも来ちゃだめにきまってるぞ。らすかるでっけーから、すぐ見つかっちゃうぞ」

「ダグラスな。いい加減覚えやがれ」


 なんだか意味深なことを言い出すアンドレアに眉を顰める。まったく何を言っているのかね。アンドレアってばドジー。
 脅迫の内容はあくまで『俺が一人で出向く』ということしか認めていない。アンドレアは勿論、ダグラスだって俺についてくることは許されないのだ。
 ぱちくりしていると、アンドレアがふとダグラスを指さして衝撃的な事実を口にした。


「ダグラスは魔術師だ。俺は同行することが出来ないが、ダグラスは透明化の魔術を使えるのでお前の護衛をすることになる」

「…………ほぇ?」


 ダグラスが、魔術師……?
 いかにもザ・戦士!ザ・荒くれ者!って感じのダグラスが……?
 陰鬱で繊細で生真面目でお堅いと言われる魔術師の中に、ダグラスが含まれているだって……?


「……、……」

「オイ何だその目はァ?言っとくが嘘じゃねェからな」


 むん……と憐れみの視線を向け、最大限の配慮を籠めた声音で囁く。


「……らすかる。おれは、そのままのらすかるが好きだぞ。ありのままって、すてきなものだぞ」

「だから嘘じゃねェーよッ!!」

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