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四章
122.再会と違和感
ななっ、なんと!ダグラスの超高度な魔術、透明化が見破られていたらしい!
慌ててとたたーっと駆け出し、引き摺られるダグラスの足にしがみつく。
俺の身体を錘にして止めようと思ったのだが、どうやら重さが足りなかったらしく俺までズササーと引き摺られる形になってしまった。むねん。
「まてえぇっ!らすかるをはなしぇぇっ!」
「だからダグラス……あァもういい!それはどうでもいいからとにかく離れろ!」
ダグラスがいなくなったら一人になっちゃう!俺みたいなちんちくりんが一人で敵の本陣に残ったところで一体何が出来るっていうんだ!ふざけるな!ダグラスを返せ!
内心熱く訴えながら、ぶわぁっと涙を溢れさせて叫ぶ。傍から見た姿はさながら健気に仲間を守ろうとする主人公のようだろう。実際は自分の身の安全しか考えてないぞ。
全身に重さをのせて引き留めるが、弓矢の男はそれすら何てことなさそうにスルーしてダグラスを引き摺り続けた。こ、こいつ……ローブ越しだと細身に見えるのにっ!まさか布を全て剥いだらダグラスに匹敵するほどのガチムチゴリマッチョだとでもいうのか!
俺みたいなチビのちんちくりんには荷が重い相手だ……はてどうしたものか。
とりあえず足をパタパタして鬱陶しく抵抗しながら考える。うぅむうーむ、なんにも閃かないぞ。
「おい、摘まみ出すのは護衛だけにしろ。小さい方は追い出すな」
半ば諦めの表情でチーンと沈んでいると、ふいに後方から例の上品おじさんの声が聞こえてきた。
そのセリフに今の状況も立場も忘れてちょっぴりドン引く。そこまで部下さんに命令しなくても、優雅に座っていないで自分でやればいいのに……。というか小さい方ってなんじゃ失礼な。
上品おじさんの方もゴリマッチョなのかは知らんけど、少なくとも俺よりは屈強な体つきをしているはずだ。ダグラスにしがみつく俺を剥ぎ取って連れ戻すくらい自分でも出来るはず。
弓矢の男が「はっ、申し訳ございません」と頭を下げつつ、ちょっぴり困った様子で俺を見下ろしたことに気が付き動揺した。な、なんだか俺の方が申し訳なくなってきたぞ……。
「……わ、わかったわかった。ごめんだぞ……おれ、戻るから……な、なんかごめんな……」
ダグラスからそろりと身体を離し、弓矢の男にぺこぺこ頭を下げつつ元の場所へ戻る。
スン……とソファに腰掛けると、向かいの上品おじさんが一度ポカンと間の抜けた表情を浮かべ、やがて小さく吹き出して俯きがちに肩を震わせ始めた。何がおかしくて笑っているのかね。
「オイ馬鹿かガキィ!今のは俺を置いて逃げるところだったろ!呑気に戻ってんじゃねェ!」
「むっ!?そういう空気だったのか?きちんと逃げろっていってくれなきゃわかんないぞ」
「口に出してどうすんだアホかテメェ!」
俺ってばコミュニケーションが苦手なのだ。空気読めない系男子なので、そこのところしっかり配慮してくれないと何にも察することができないぞ。
ダグラスのお怒りにむぅ……と眉尻を下げてしょぼんする。とほほ……。
とはいえそんなことを言われたってもう手遅れなので、諦めてダグラスをシッシと追い出すことにした。
足掻けば足掻くほど危ない気がする。ダグラスまでガウみたいに人質にされちゃうかもしれないし……バレちゃったもんは仕方ない、ここは大人しく敵さんの指示に従った方が良いだろう。
「らすかる、お前は危ないから、おそとでまってろ。バレちゃったし、もうむりだとおもう」
「テメェは何でそんな冷静なんだよ!今絶賛ピンチなの分かんねェのかァ!?」
何やらギャンギャンと騒ぎ立てるダグラスが弓矢の男によって連行される。
あのゴリマッチョダグラスの抵抗が一切効いていないのを見るに、どうやら弓矢の男はマジモンのガチムチゴリマッチョのようだ。脱いだらバッキバキなのかな。
「漸く静かになったな。さて、本題に入ろうか」
ダグラス、きちんとお外まで連行してもらったかな……と心配でそわそわしていると、おじさんがふいに声を掛けてきてハッとした。
そういえば、俺ってばこの不気味な雰囲気のおじさんと今二人きりなんだ。ど、どうしよう……ダグラスがいなくなって初めてその怖さと緊張の実感が湧いてきた。
そうじゃんか、俺、今ひとりぼっちじゃんか。今このおじさんに不意打ちで攻撃されたら、ちんちくりんの俺はなんの抵抗も出来ず情けない死を遂げるってこと?なにそれこわい。
「ははっ。そう硬くならずとも、大人しく話を聞いてくれれば悪いようにはしないぞ」
涙目でぷるぷる震え出す俺を見て、おじさんは軽快に笑ってそう語った。
大人しくという部分が引っかかるけれど、今はとにかく黙って言う通りにしよう。俺はガウを救出にきたのだから、余計な恐怖を実感して震えている場合じゃない。
……うぅんでも、そうは言っても俺の目的はやっぱりガウの救出なのだから、せめてガウの無事くらいは確認させてもらわないと割に合わないよな?
「おはなしって、なんでしょうか……あの、そのまえにまず、ガウに会わせてほし」
「ん?」
「あっ、いやなんでもないですー。お話しっかりきかせていただきましゅ」
あっだめだ、これちょっとでも逆らったら俺とガウの首諸共吹っ飛んじゃうやつだ。
笑顔の威圧を察してすぐに両手をもみもみ捏ねる。いやいや、逆らおうだなんて思ってませんよ。
俺がたらたら冷や汗を滝の如く流しながら愛想笑いをへらりと浮かべると、おじさんはふと笑みを薄くして呟いた。
「……いや、そうだな。確かにフェアではない。話し合いを淀みなく進める為にも、まずは現状の優位を明確に示した方が良いだろう」
なんだか不穏な発言に眉尻を下げる。優位を明確にって、それってつまり、俺が反抗出来ない状況だとうことを突き付けてやるってことか?
ドクンドクンと鼓動が嫌な音を立てる。このムズムズするみたいな嫌な予感はまさか……と息を殺していると、やがて部屋の扉が開れた。
現れたのは、待ち望んだ大切な家族。
「ガウ!」
ぴょこんと生えたケモ耳が見えて思わず立ち上がる。
すぐに駆け寄ろうとして、ふと違和感に気付き動きを止めた。
「……ガウ?どうした……?なんだかようすが……」
なんだか様子がおかしい。そう思いじっとガウの姿を見つめてハッと息を呑んだ。
違う。ガウじゃない。目の前に立つ獣人は確かにガウなのに、ガウじゃない。
瞳が仄暗く濁っていて、表情にも色が無い。俺を見据える視線にもいつもの温もりが一切籠っていなくて、まるで他人を見るかのような……。
そう、言ってしまえば、感情を持たない人形みたいな、そんな違和感。
困惑をあらわにおじさんの方を振り返る。
男は緩やかに微笑むと、軽く人差し指をクイッと動かした。その指の動きに従うかのように、俺が話しかけてもピクリともしなかったガウがふいに動き出す。
静かに足を進めたかと思うと、ガウは俺じゃなくおじさんの傍らで立ち止まって跪いた。
「ガウ……?なんで……ガウに、なにしたんだ……お前、ガウに」
手が震え始める。これは恐怖とかその類じゃなく、どちらかというと怒りによる震えだ。
こればっかりは武者震いだとか強がりだとか、そういうものじゃない。恐怖もあるけれど、それ以上の圧倒的な怒りが上回っている。
大事な家族が害された。その事実を理解して怒りを滲ませる俺を前に、男は特に動揺するわけでもなく、にこやかに笑んだままサラリと語った。
「彼の意識は私の支配下にある。私が仮に今、彼に君を殺すよう命じたとすれば……この意味が、理解出来るかな」
その言葉に息を呑む。
意味はすぐに理解した。どうやら敵さんは、相手に効く脅しというものをよく理解しているらしい。きっと何度もこういうことをしてきたのだろうなと、こんな状況だけれどぼんやり確信した。
これは俺に恐怖を与えるための脅しじゃない。現に俺は今、恐怖なんてものは微塵も抱いていない。
あるのは単純な怒りと、反抗する意思の放棄だ。
俺は許せない。ガウが俺を殺すだとか、そういうことは正直どうでもよくて。
ただ、男は理解しているんだ。俺がガウを心底大切に想っていることも、ガウが俺を強く慕っていることも。どうすればガウを徹底的に壊すことが出来て、俺に絶望を与えることが出来るか。
俺を殺しなんかしたら、正気に戻った時きっとガウは壊れる。ガウのことが大切な俺には、それを許すことなんて絶対に出来ない。
「……」
今にも殴りかかってやりたい衝動を堪えてソファに戻る。
見据えた先の男の表情が不気味に笑みを湛えていたことに気付いたけれど、もう反抗する意思なんて微塵もない。
選択肢は一つだけ。俺に今できることは、この男に従うことだけだから。
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