異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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四章

130.ガウめちゃんこドM説!

 
 主として最低だ。今までの言葉と矛盾しているし、酷いことを言っている自覚もある。
 けれど、それでも。これまでの自分を否定して悪者になってでも、俺はガウを守りたかった。

 俺はガウに自由であってほしい。人として当然の自由を享受して、惨い縛りなんて受けないでほしい。だからこそ、残酷な以前の主人がガウを縛ったままだなんて、どうしても許せなかった。
 けれど、そんな状況のガウを救うためには、今度は俺がガウの自由を奪わなくてはならない。

 あれだけ恨んでいた奴隷商人と同じ立場に堕ちなくてはいけない。ガウに枷を嵌めて、縛りつけないといけない。
 小心者の俺なんかに、果たしてそんなことが出来るのだろうか。今だってものすごく怖くて、震えが止まらないのに。

 俺のセリフを聞いたガウの表情を見るのが怖くて、顔を上げることすら出来ないのに。


「っ……ごめん、ごめんな……ガウ、ごめんなさい……」


 許さなくていいから。だからお願い、拒否しないで。完全な自由を諦めて。
 そんなことを口走りそうになって、寸前でむぐっと堪えた。こんなにも最低なこと、ガウに言うのはもちろんだし、何より自分が聞きたくない。考えただけでも自分への嫌悪感が増すというのに。

 ガウにむぎゅっと抱き着いて、手足を巻き付けて、卑怯な涙を止めるために唇を噛み締める。
 俺の泣き顔なんて見たら、忠実なガウは二つ返事で俺の願いを引き受けてしまう。本心と向き合う暇もなく、俺を許してしまう。それは絶対にだめだ。
 まずは何よりガウの本音優先。どうしても嫌だと喚くなら、その意思をなるべく尊重できるような方法を考えればいい。

 そう思いながらじっと待つこと数秒。
 やがてのそりと動き出したガウが、俺をぎゅっと抱き締め返して小さく呟いた。


「主様。それはつまり……私に主様が選んだ首輪を嵌められ、主様の手で焼印を刻まれるということでしょうか」

「っ……!そうだ……そのとーりだ。ひどいこと言ってるって、わかってる……それでもおれはっ」

「──嬉しい、です」


 淡々とした感情の読めない問いを紡がれ、涙を堪えながらも必死に頷く。きっと内心俺への恨みやら何やらで埋まっているのだろうと悟りながらも必死の返答をして、ふとポカンと目を見開いた。
 あれ……今なんか、ありえない言葉が返ってきたような気がするけれど……気のせいだろうか?


「主様から首輪と焼印を与えてもらえるだなんて、今にも天に昇りそうなほど、とても嬉しいです!」

「きのせーじゃなかった!」


 ふにゃあとした微笑みにナヌーッ!とびっくり仰天ポーズを返す。

 え、えぇ、話聞いてたか?ガウってば、きちんとお話聞いてたか?首輪と焼印だぞ?いかにも奴隷って感じの首輪と焼印だぞ!?すっごく苦しいし、とっても痛いんだぞっ!?
 なんて、グルグルと目を回す俺をガウがむぎゅーっと強く抱き締める。なんだか本当にとっても嬉しそうだ。ほわほわとお花が舞う幻覚が見えるくらい、すごーく嬉しそうだ。
 ……いやいや!なんでだっ!首輪と焼印の話だよな?ふにゃってなる話じゃなかったよな!?


「こらガウ!お話はしっかりきかなきゃメッなんだぞ!おれはいまくびわと」

「首輪と焼印の話ですよね?しっかり聞いていますよ。とても嬉しいです」

「にゃんでにゃんだぁぁっ……!」


 意味がわからなすぎて泣いちゃったぞ。
 ガウのやつ、なんでこんなに嬉しそうなんだ。予想外どころの騒ぎじゃなくて涙だけじゃなく震えまでしてきちゃったぞ。もはやガウが一番怖いまであるぞ。
 首輪を嵌められて、とっても痛い焼印を押されることを嬉しがる……ここから導き出される答えはなんだ?そう、それはたった一つだけだろう。

 ──ズバリ!ガウめちゃんこドМ説!


「が、がう!その、ガウは……おれがもし『首絞めさせて!』っておねがいしたら、フツーにゆるしてくれるのか?いたいからやだーって、ならないのか?」

「……?主様からして頂く行為は全て褒美も同然です。光栄の極みです。主様の手によって気道が圧迫される贅沢を噛み締めながらしっかりと逝かせて頂きます」

「わ、わァ……」


 おれ、泣いちゃった!
 ずぅーっとまともだと思っていたガウの裏切りにシクシクメソメソ。こんなのどこがマトモなんだよぅ。ガウも全然ジャックサイドの人間じゃないかよぅ。

 思ったよりやばすぎるガウの狂人っぷりに泣いちゃうこと数秒。
 やがて、ふいに『ちょっと待てよ?』と内なる俺がピコーンする。もしかしてだが、ガウがめちゃんこドМで合っているなら、首輪と焼印の件もあんまり絶望的に考えなくてもいいのでは……。
 なんてちょっぴりクズくさいことを思わず考えてしまい、そんな自分をセルフでぽかぽか殴りながら恐る恐る尋ねてみた。


「あ、あのぅ……あのな。その、このままだとな?ガウのご主人様は、まえのわるもののままなんだ。新しいくびわと、焼印をジュッてすればな、ガウはきちんとおれの家族に……」

「喜んで!」

「まだ最後までいってないよぅ」


 家族になれるんだと最後まで紡ぐ前に、ガウのめちゃんこ嬉しそうな笑顔で遮られてしまった。
 もういい。もう俺は驚かないぞ。ガウは超絶ドМなんだ。少なくとも骨の髄からまともなやつってわけではなかったんだ。うむ、俺はきちんと理解したぞ……。

 とはいえ流石に積極的に『じゃあ俺のモノになれよ!首輪と焼印、容赦なくやるからな!』とは言えない。ガウが狂っていようがドМだろうが、俺の中でガウは家族ということは変わらないし。
 とりあえず、俺達は家族なんだぞとしっかり言い聞かせてから進めよう。うむ、そうしよう。


「じゃ、じゃあ……くびわと焼印、やるけど、その……なにか変わるってわけでも、ないからな?おれとガウは、ずぅーっと家族だからな?」

「はい。私と主様は変わらず家族です」

「ほんとにわかってるのか?おれはガウにきょーせー?なんてしないし、洗脳もしないぞ。くびわは、できるだけかわいいやつにして、ペットっぽくならないようにする。あとは……」


 あとは、焼印か……。
 焼印に関しては熱した金具を皮膚に押し付けるのだから、どう足掻いても痛みが伴う。こればっかりは対策のしようがない。
 俺ができるのは、なるべく痛みを続かせないように上手に金具を押し付けることだけだ。

 あからさまに顔色が悪くなって、俺が考えていることを察したのだろう。
 ガウはきょとんと首を傾げると、俺をぎゅーっと抱き締めてにへらっと笑った。


「主様。主様から与えられる痛みは全て褒美です。これで正しく主様の家族になれるのなら、痛みなど些細な過程に過ぎません」


 心底そう思っているみたいな笑みで、なんだか胸がきゅーっとなって。
 俺はガウにむぎゅっと抱き着いて、硬い胸板にうりうりーっと頬擦りした。
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