異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

文字の大きさ
139 / 241
五章

138.本気のきもち(後半ロキ視点)

 
 ロキと手を繋いで庭園をとてとて進む。
 背が高くて足も長いロキは歩幅がとっても大きいけれど、俺と歩くときはいつも俺の歩幅に会わせてゆっくり進んでくれる。こういうところはとっても好き。普段の奇行はちょっとアレだけども。

 綺麗に整えられた道をじっと見下ろし、以前との違いに気が付いて苦笑した。
 前までは所々に小石が落ちていたけれど今はなくなっている。以前俺がここを歩いた時に、小石に躓いて転んだことで整備が入ったのだろうか。小石一つ見つからない道を見てふと思った。
 確かにあの時はロキが珍しいくらいのガチ焦りを見せていたし、ちょっぴりだけ血が滲んだ俺の膝を見て、庭の整備担当らしい使用人を射殺す勢いで睨んでいた。
 ……あの使用人さん、無事だといいなぁ。


「あっ、ロキ。ちょっとまて。すとっぷだぞ」

「うん?どうかした?」


 物騒な想像をしてしまいそうになり、慌ててぶんぶんっと首を振った時。
 ふいに俯いていた視線の先にあるものが見えて、あわわっとロキを引き留めた。


「みろ、アリさんだぞ。みんなでとことこ歩いてるから、みちをゆずってあげるんだぞ」

「んんッ!かわッ……!そうだねっ、アリさん頑張って進んでるから、見守ってあげないとねっ」


 むんっとしゃがみ込んでアリさんの行列を見下ろす。がんばれーがんばれー。
 みんなでお行儀よく列を作りながら進んでいくアリさん。ほのぼのと眺めていると、ふいにおっきな虫の死骸を背負ったアリさんグループが出てきて思わずすっ転んでしまった。


「ふんむぅっ!?びっ、びっくりしたじょっ!でっけーやつ持ってきたぞっ!」

「わー、数の暴力だね。虫の世界も大体は人間と同じみたいだ」


 ぽすんっと尻餅をつく俺の横で、ロキがにこやかな笑顔のままいつもの感じで冷静に呟く。その淡々と非情なこと言うの、ちょっぴり怖いからやめてほしいぞ……。
 ロキの穏やかな様子に恐々としながらも、恐らく今日のごちそうになるであろう死骸を抱えて去っていくアリさんたちをそろりと見送る。むぅ、なんだかなぁ……。


「……しょぼん」

「あぁっルカちゃんどうしたの!急にしょんぼりしちゃって……そんな顔しても可愛いだけだよ!」


 かわいいアリさんの世界の現実を見てしまい、思わずしょんぼり落ち込んでしまう。
 そうだよな……世界ってどこもこうだよな……アリさんだって今日のごちそうを手に入れるために毎日必死なんだ。そう、今日を生き残るために必死な俺と同じで。
 ネガティブ思考にハマってどよーんと項垂れる俺を、ロキが困ったように微笑んでひょいっと抱き上げた。むん……背中ぽんぽんされたってこの気持ちはしばらく癒えないんだじょ……。


「うーん。ルカちゃん、もふもふ触る?狼の毛、もふもふする?」

「しゅるぅっ!」


 おれ、完全復活!
 萎れた花が一瞬で咲き誇るみたいに、どんよりオーラをぱぁっと晴らす。
 わくわくっと身体を揺らすこと数秒、ロキは軽く目を伏せて、初めにぴょこんっとケモ耳を生やした。すかさずふんっ!と鷲掴み、はむはむっと咥えて堪能しまくる。


「はむっ、はむはむっ……んむっ!?」


 熱心にはむはむしていると、やがてロキの身体がしゅるしゅると形を変えていった。どんどん下がる目線にぱちくりと瞬いている間に、完全に獣化が終えてとってもクールな狼が現れる。
 普段の優しい印象からは想像もつかない、クールで怜悧なこの雰囲気……真っ赤な鋭い瞳を前に、ちょっぴりドキドキ胸を高鳴らせてしまった。


「かっ、かっちょいいぞ!やっぱり、狼はとってもクールだぞっ!だいすきだぞっ!」

『……ん、ふふ。ほんと?ほんとに、狼好き?』

「だーいすきだ!おれ、かっこいいものはぜんぶ!だいすきなんだぞっ!」


 もふもふの身体にもふぅっ!と全身を埋める。もふもふ、はふはふ……もふぅ。
 ぐでーんと四肢を投げ出して背に乗る俺をそのままに、ロキがゆっくりと歩き出して近くの木陰へと向かう。
 優しく俺を下ろすと、自分が枕になるみたいに丸まって、俺の全身をもふっと包み込んでくれた。


「なんだこれは……てんごくかぁー……?」

『涎垂らしてかわいいねぇ。お昼寝する?おやすみのチューしちゃだめ?』

「むぅ……ちゅーは、めっ……」


 もふもふの誘惑に負けて、襲ってくる睡魔に身を委ねる。
 ロキが何やらおやすみだのちゅーだの言っているが、頭はもうぐっすりおねむモードに入ろうとしているので真面目に内容を理解しようとしてくれない。
 だからなのか何なのか、“チュー”という単語だけを確かに聞き取った頭が、眠気によるバグを起こしながらおかしな行動を取ってしまった。

 ロキのもふもふな顔をむんずっと両手で包み込み、鼻先にむちゅっと唇をくっつける。
 寝惚け眼で見えた赤い瞳はポカンと見開いていて、もふもふな身体はピタッと硬直してしまった。


『…………は?』


 乾いた声が聞こえてふんにゃぁっと頬を緩める。
 ぽやぽやと眠気に従い瞼を閉じながら、もふもふにスリッと擦り寄って呟いた。


「へへ……おやしゅみのちゅー、だじょ……」


 そう言ってふわぁっと欠伸を漏らし、硬直するもふもふに身体を埋めながら眠りについた。
 ロキが何やらうずうずと悶絶していることには気づかずに。



 ***



「もう、もうッ!どういうことなの……ッ!?」

「……俺のセリフだが」


 ルカが眠りにつき、俺が獣化を解くという一連の流れが始まってからどれほど経ったのか。
 絶望ムーブから無事抜け出したらしいアンドレアが俺を殺すべくやってきたが、のほほんと眠るルカを見て即座にスンッ……と拳銃をしまったのはつい数分前のこと。
 つまり今、ルカを膝に抱きながら悶絶する俺にアンドレアが冷徹な視線を向ける……これをかれこれ数分続けているという状況なのである。


「ねぇ聞いて!ルカちゃんってば俺に自分からキスしたんだよ!おやすみのチューだって!可愛すぎだろ!軽く勃ったし余裕で抱いていいかな!?」

「死ねクソ野郎。殺すぞ盗っ人。地獄に堕ちろ泥棒猫」


 軽くアンドレアに首を絞められてしまったのでこの辺で自重することに。
 俺の呻き声でルカを起こす結果になったら忍びない。ここは息を殺し……いや、息を止めてでもルカの穏やかな睡眠を守らなければ。うーん……すぅすぅおねむしててかぁいいねぇ。


「程々にしろよクソ野郎。鈍感なルカにバレずに人間一人処理する方法なんぞいくらでもあるんだからな」


 割とガチの答えが返ってきて苦笑してしまう。確かに、こいつがその気になれば、ルカに気付かれず俺を処理する程度やってのけそうだ。
 だがそれは俺にとっても同じこと。本気で動こうと思えば、この堅物男を殺し、一人になって悲しむルカの弱味に付けこむ程度いくらでも可能なのだ。

 だからこそ、俺達は互いにラインを守る。決して最後の一歩を踏み越えることはしない。
 全てはこの子の笑顔を守るために。


「まぁそう怒らないで。君は俺の本性を知っているから前向きに思えないんだろうけど、俺は本当に……本当に、本気なんだ。ルカちゃんのこと」


 涎を垂らして眠るルカを抱き締めながら、静かに、けれど強く語る。
 俺の声音を耳にしたアンドレアがピタッと硬直して、すぐに気に食わなそうに眉を顰めた。けれど何か反論してくる気配はないから、きっと俺の本気を察するくらいはしてくれたのだろう。


「……そんなことは、言われなくとも分かっている」


 ボソリと返された呟きにハッとした。
 複雑な感情に苛まれたアンドレアの表情を見て、思わず眉尻の下がった微笑が浮かぶ。そうか、何となく、この男の心情が理解できた気がする。


「うん、それならいいんだ。これからも、ちゃんと認めてもらえるように頑張るよ」


 アンドレアがふいっとそっぽを向く。


「……別に頑張らなくていい。頑張るな。さっさと飽きろ」

「ははっ!それは無理な話だね」

感想 118

あなたにおすすめの小説

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ