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五章
143.王子さまの花嫁
ポカーンと固まる俺を美人さんがひょいっと抱き上げる。
両脇を持ち上げられてぷらんぷらーんと揺らされ、思わずあわわっと目が回った。初対面の子供を持ち上げて揺さぶるとは……なんてやつなんだ、ぷんすかぷんすか。
ムッスーッと頬を膨らませる俺に気が付いたようで、美人さんがふいにピタッと動きを止める。
きょとんと瞬きながら俺をぎゅっと抱き締めて、何が面白かったのかニコッと笑顔を浮かべた。
「ほう、中々愛いな。幼児趣味は無かったが、この子なら今すぐにでも抱けそうだ」
突如聞こえた衝撃発言にピシャーッと硬直する。
えぇ、なにこのひと、初対面の子供相手にきもちわるいこといってる……どんびきぃ……。
いくら美人さんでも変態というレッテルが加わっただけでゾワワァな鳥肌が勝る。
サーッと青褪めつつぱたぱた抵抗すると、美人さんは案外素直に俺を解放してくれた。話が通じるタイプの変態さんのようだがまだ安心はできない。
とてとてっとロキに駆け寄りむぎゅっと抱き着くと、ロキはすぐにひょひょいっと抱き上げてくれた。むぅ……うれしいけど、ずっと避けられていただけにちょっぴり複雑である……。
……って待てよ?まてまてぃ、ロキのことは今は置いといて……美人さんってば、今なんて言った?
俺に花嫁って……抱けそうだって言ったか?抱けそう?むむっ?
「はっ!」
「うん?ど、どうしたのルカちゃん!そんな世界の真理を悟ったかのような顔をして!」
俺のめちゃんこびっくり顔を見て、ロキまではわわぁッと息を呑む。
どうしたのかねそわそわと身体を揺らすロキをそろりと見上げ、続いて背後の美人さんをチラリと見つめる。爪先から頭の先までじーっと見つめて、やがて青褪めた。
よく見ると凛々しい顔立ち、よく見るとがっしりした体格、よく見ると引き締まった胸元……。
「ぼんきゅっぼん……じゃない、だと……!?」
ガガーン!と脳内で稲妻が轟く。
ロキと美人さんのデート現場を目撃した日、その日からのシクシクムーヴ……全てが走馬灯の如く蘇り、俺は羞恥に染まった顔を手で覆いながらウアァァッと俯いた。
「ひじょじゃないじょっ!いけめんだじょっ!いけめんっ!」
「ん?あぁ、ありがとう?」
いけめん!いけめん!と蒼白顔で騒ぎ立てる俺に、美人さんがきょとんと首を傾げながらもえへへと嬉しそうに頷く。いや別に、褒めたわけじゃないぞ。
あの日俺が見たロキのデート相手……あれはボンキュッボンなお姉さんじゃなく、ガッシリガチムチイケメンお兄さんだったのか。
ということは俺、なに?かっちょいいお兄さんに嫉妬してたってこと?ロキをとられたシクシクめそめそって、早とちりにも程があるヤキモチを妬いていたってこと?
えぇ、なにそれ、なにそれぇ……
「はじゅかしっ!はずかしいじょっ!ぶえぇっ!」
あまりの羞恥に耐え切れず涙が溢れる。ぶえぇっと相も変わらずナイアガラの滝もびっくりな号泣を晒すと、俺をぎゅっと抱っこしていたロキがはわわぁッと顔を強張らせた。
「ルカちゃんっ!あぁ、泣かないでっ……!なに?なにが悲しいの?この変態がキモすぎて泣いてるの?殺す?殺そうか?ルカちゃんのためなら反乱も辞さないよ?」
「ぶえぇっ……うぇ……う?は、はんらん?」
自分の情けなさにぶぇぇっと号泣していたが、ふとロキの発言の中に気になる単語が聞こえてはて?と首を傾げた。
どうしちゃったんだロキ、急に反乱なんか言って……仮に俺がこの変態お兄さんのせいで泣いちゃったとして、それがどうして反乱に繋がるんだ……って。
……む?まてよ、この変態お兄さん、誰かに似て……っておいおい、この既視感は何度も経験しているぞ。以前も『おやおや?この人誰かに似て……』なんていう展開があった、あったぞ。
そうだこの人、この金髪、上品な出で立ち、見るからに高貴な雰囲気──
「はぅわぁッ!」
「こ、今度はどうしたのルカちゃんっ!」
正体を察した瞬間ナヌーッ!と飛び上がる。
ロキ肩越しに見える変態お兄さんが、俺のびっくり顔を見てにこやかに手を振ってきた。いや別に、ナヌーッと万歳してるだけでこっちは手を振っているわけじゃないぞ。
「ろ、ろろろっ、ろきぃ!この人あれだじょっ!王さまの家族だじょっ!」
「うん?あぁ、そうだね。このクソ……このお方は王太子殿下だよ。ルカちゃん、知っていたんだ」
「あばっ、あばばっ」
うそ、うそだろ。王太子……王子さま、だと?
俺ってば王子さまにヤキモチ妬いていたのか?王子さまにロキをとられたーって泣いていたのか?そんなの不敬すぎるじゃろっ!
たとえロキと王子さまが本当にお付き合いしていたとして、そうなったらぶえぇっと嘆くことすら不敬なレベルだ。
ていうか、なんだろ……王子さまとロキかぁ。いや、実際に至近距離で並ぶ二人を見たら、なんだかすごくお似合いに見えてきた。二人とも、とっても美人さんだし、すてきだし。
それに、ある意味本当にめちゃんこお似合いだ。二人とも同じくらいの変態さんだし。うむ、変態さんだし。
ふむふむと納得の頷きをしている俺のもとに、ふとゆったりした足取りで王子さまが近付いてくる。
ロキの腕の中で視線を上げてむむっ?と瞬と、王子さまはスマートに俺の甲をとってちゅっと口づけた。
「私の名はガルディーニ。出会えて光栄だ、我が花嫁」
「む?いやいやちょいまち、まちがえてるぞ王子さま、花嫁はこっち……むん?」
花嫁はロキの方だろ。俺に言っちゃうなんておっちょこちょいな王子さまねあははっと笑いを零しながら見上げて違和感に気付く。
しっかりと俺に向けられた王子さまの視線。王子さまをぶち殺す勢いで睨むロキ。一人状況を掴めず困惑する俺。
そして気付く。今の王子さまの発言は、決して間違いなんかじゃないってことに。
「ぅ、あぇ……」
わなわな。ぷるぷる。身体を震わせながら青褪めた。
「おれが、王子さまの、はなよめ……?」
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