異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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五章

144.ヤキモチ

 
 金髪美人な変態お兄さんは、まさかの王太子殿下だった。
 様子を見る限りどうやら王太子とロキは恋人関係というわけではないらしい。いや、あの絶対零度な空気を感じた辺りから何となく察してはいたけれど。

 王太子はぱっと見、本当に女性みたい。絶世の美女という言葉がよく似合う容姿だ。
 金髪は胸元までの長さで、緩く三つ編みした髪を右肩から胸へと流すようなスタイル。仕草も騎士というより貴族って感じの上品さだし、遠目から見ると高身長だってことが分かりにくい。

 けれどよく見ると、彼はきちんと男性だ。顔つきは凛々しいし身体も引き締まっている。
 胸元が強調されているように見えるのはたぶんアレだ、胸筋がめちゃんこ発達しているのだろう。
 ガウも同じ類の体付きをしているから理解出来る。どうしてガチムチのマッチョになるほど胸が強調されていくんだろうな。まぁ、マッチョの胸元うりうりは心地良いから俺的には大満足だが。

 とにもかくにも、噂のデート相手は王太子だった。これが一連のお騒がせ事件の真実だ。
 こうしてまとめてみると、俺ってば本当にありえない勘違いをしていたんだなぁ……と反省する。正直反省よりも羞恥が勝って、真っ赤な顔が熱くて堪らないけれど。
 こんな早とちり普通あるか?ないよな。ないってことは、俺がそれほど慌てていて思考が鈍っていたってことの証明になるよな?むーん、恥ずかしくて死にそうだぞ。

 改めて発端の勘違いヤキモチを思い出し悶絶していると、俺をぎゅっと抱っこしていたロキがふいに首を傾げて瞬いた。


「話が逸れちゃったけど……そういえば、ルカちゃんはどうしてここに?手紙、もしかしてまだ届いてなかった?遊べないよって送ったんだけど……」

「うぅん、ちゃんととどいたぞ、おれ、ちゃんと読んだじょ……」


 じゃあどうして?と真ん丸な目が問い掛けてくる。それを見てむぐっと口を噤んだ。
 こ、こんなのバカ正直に言えるわけがないだろう……ヤキモチ妬いちゃったから、なんてぜったい言えるわけがないだろう……。

 傍で「おい、私も花嫁と話したいぞ」とブーイングしてくる王太子を完全無視するロキを見上げ、俺は頬をぽぽっと染めながら言葉を続けた。


「……だって、悲しかったんだ。いつもならぜったい遊んでくれるのに……。それにな、この前みちゃったんだぞ。王子さまと、デートしてたの……それでおれ、ロキがとられたって、おもって」


 羞恥のせいか頭が回らなくて、単語をカタコトで連ねるだけの文章しか紡げない。
 ロキがとられた!と思ったあの日の光景がありありと蘇って、ぶわっと涙まで溢れてしまった。こんなんじゃロキに面倒くさいやつだと思われてしまう……早く泣き止まないと。
 そう思うのに、ごしごしと涙を拭っても一向に雫が止む気配がない。むしろ拭えば拭うほど勢いは増して、大粒の雫がほっぺをしとしとと濡らし始めた。

 数十秒ほど経過して、そういえばロキからの返答がないなと気付いて顔を上げる。
 視線の先に見えた表情に目を見開いた。


「──うそ」


 ようやく返ってきたのはたった二文字。けれどロキの顔は普段よりも明らかに感情の籠ったもので、頬はカァッと紅潮している。
 珍しい真っ赤なほっぺたを晒したまま、ロキはぱちくり瞬く俺を見下ろし呟いた。


「ルカちゃん、ヤキモチ妬いちゃったの……?」


 呆然としたセリフにあんぐりと目も口もかっぴらく。
 なんだって……?ロキの言葉を脳内で反芻し、やがて羞恥で顔を真っ赤に染めた。

 そうだ、俺ってばなんてことを……!
 バカ正直に言えるわけないだろふすふすなんて思っていたのに、結局バカ正直に白状してしまった。俺がロキをとられたって、ヤキモチ妬いちゃったことを……。
 慌ててぶんぶんっと首を横に振り、ロキの腕の中からぱたぱたっと抜け出して距離を取った。ロキとくっつくのが嫌になったからとかじゃなく、ただ俺が耐えられなくなっちゃっただけだ。


「ちっ、ちがうぞっ!そんなんじゃっ、そんなんじゃないぞっ!そんなんじゃないもんっ!」


 ふんす!と意気込んで叫ぶ俺を、数メートル先のロキが歓喜の滲んだ瞳で見つめてくる。
 だめだ、これ、強がりだってこと完全にバレちゃってる。否定すればするほどロキの中の確信を深めちゃうやつだ。俺がヤキモチ妬いたんだって、ロキってば完全に確信しちゃっている。

 ぷしゅー……っと顔を赤らめて俯き、あまりの恥ずかしさにぷるぷると震える。
 俺ってば傍から見たら、とんでもない早とちりをした勘違いおばかじゃないか。はずかしい、恥ずかしすぎるぞ。こんなの、みんなにケラケラ笑われちゃう案件だぞ。

 ぷるぷるしたまま動くことの出来ない俺のもとに誰かが近付いてくる。
 俯いた視界の中に誰かの足が映ったかと思うと、その人は静かに膝をついて俺を突如ぎゅうっと抱き締めた。


「っ……!」

「ルカちゃん、ルカちゃん……あぁ、かわい、かわいすぎっ……俺のルカちゃん……!」


 案の定というべきか、俺を抱き締めたのはロキだった。まぁ、急に俺を抱き締めるような人間なんてこの場だとロキしかいないけども。
 いや、変態さんの王子さまならもしかして……?いやいや、いくら変態さんだからってあの美人さんは王子さまなのだ。流石にそんなことはしないよね、うむうむ。
 初対面の“花嫁発言”はスルーである。俺は何も聞いていない、いいね?


「ルカちゃんったら全くもう……俺がこのクソ、変態……王太子殿下に取られた!って思って、悲しくなっちゃったの?ヤキモチ妬いちゃって、たくさんお手紙送っちゃったの。そっかそっかー」

「っ……ぅ、うぅー……」


 わざわざ文字に起こすなんて最低である。俺が恥ずかしくてぷるぷる震えちゃうのを分かって言っているのか?おこ、流石の俺もおこであるっ。
 ぷんすか!と拳でぶん殴る前に、ロキがふとぽつりと呟いた。何やら切実そうな声音で。


「でも、でも……俺もすっごく苦しかったよ。殿下が突然頭のおかしいクソボケ作戦を提示してきたから、殿下からルカちゃんを守るためにって必死に遠ざけようとしたのに……ルカちゃんってば、そんな時に限って積極的になるからっ!」

「あぅ、あぇっ?せっきょく、てき?」

「ルカちゃんからお手紙送ってくれるなんて超激レアだから、ほんとは花束抱えて突撃したかったし攫って抱き潰したかった!何ならそういう”お誘い“だと思ったし!なのに今の俺はルカちゃんの積極的なアプローチを冷たく躱すことしかできないというこのもどかしさ!何度絶望で死のうと思ったか!」

「ちょ、ちょっぴりおちつくんだぞ、ろき、ろき、な?よしよし」


 ぐわあぁっ!と荒ぶるロキを慌ててよしよしと撫でる。よくわかんないけど、落ち着くんだぞ。

 八割くらいは全くもって聞き取れなかった早口長文なセリフ。
 それにドン引きした様子の王太子が「おい、いい加減花嫁を私にも渡さないか」と苦言を呈したことで、ようやく慌ただしい空気がスンと落ち着いた。
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