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五章
145.ポンコツ王子さま
あれからすぐに客間に入った。
ロキデート疑惑の誤解も解けたし、俺は場違いだからと帰ろうとしたのだが……ロキが「これ以上おかしな誤解をされるのは嫌だから」と俺に残るようにとお願いしてきた。
確かに、状況把握が曖昧なまま帰ったら、またおかしな想像とかをしてしまいそうだ。そう納得しながらも「おれ、いていいのか?」と聞くともちろんだとニッコリ笑顔を返された。
そんなこんなで客間に戻ったのは俺とロキと、変態お兄さんこと王太子殿下の三人。
リカルド様は何やら「おじゃま虫は消えるねー」と言って出ていった。流れ的に、お邪魔虫は明らかに俺の方だと思うのだが……。
ロキの膝の上にちょこんとのせられ、背後からむぎゅっと抱き締められる。
向かいに座る王太子から強い視線を向けられるが、気づかないフリしてちょっぴり頭を伏せた。
「まずはルカちゃんにきちんと説明するところからだよね。またヤキモチ妬いちゃって泣いちゃうルカちゃんは正直見たいけど、見たくないからね」
どっちだよ、のツッコミ待ちかなというセリフを吐いたロキが、不敬にも王太子を指さして言葉を続けた。なんか、ロキってばさっきから王族の扱いが雑だな……。
「改めて紹介するね。このクソ変態野郎は王太子。一応この国の王族だよ。まぁ、この俺にクソみたいな話を聞かせてくるような人だから、首が城壁に飾られるのも時間の問題だけれどね」
「おいロキ。先程から不敬が過ぎるぞ。それよりいい加減花嫁をこちらに渡さないか」
「渡さねぇって言ってんだろクソ王子」
二重人格かえ?と思わずアホになっちゃうくらいの切り替えにゾッと硬直する。
ロキってばこわいぞ、こわすぎるぞ……とぷるぷる震える俺に気付いたロキがハッと息を呑む。
慌てた様子でニコニコ笑顔を浮かべて「あはっ、なんでもないよ。俺なにか言った?」と笑顔の圧をかけてくるロキが怖くてうるうるおめめを向けてしまった。な、なんにも言ってないですぅ。
「ほら見ろ。無垢な花嫁が怯えてしまっているではないか。見るからにマフィアに囲われるには純粋すぎる子だろう、私が表で大切に囲った方がその子の為になる」
何やらさっきから上から目線でちょっぴり不快な発言をかます王太子をじっと睨む。
話の流れは掴めないし状況もよく分からないけれど、とりあえず王太子がまったくもってタイプじゃないぞってことだけは分かった。セリフがいちいちムッとするやつばかりだ。
なんだか本当にふすふすっとムッキーしてしまったので、むんっと頬を膨らませて宣言してやった。
「べつにおれ、王子さまいらないぞ。おれはロキの方がだいすきだから、ロキといっしょにいたいぞ。王子さまとはいっしょにいたくないし、お嫁さんにもなりたくないぞ」
「ル、ルカちゃん……ッ!」
「王子さまとお嫁さんになるくらいなら、だいすきなロキのお嫁さんになりたいぞ」
「ル、ルカちゃんッ!?!?」
初めは嬉しそうに頬を紅潮させるだけだったロキだったが、続けて紡いだ言葉を聞いて、ロキは嬉しいとかそんな次元じゃない反応を見せて飛び上がった。
顔は真っ赤だし口も目もかっぴらいているし、俺をぎゅーする腕には力が籠りすぎている。血走った目がちょっぴり怖いぞ。
「あれ?俺ってば夢を見ているのかな?まだ寝てる?」と一人ぐるぐる目を回して大混乱するロキには目もくれず、王太子は意外にも特に驚いた様子もなく言葉を返してきた。
「ふむ、それは困ったな。何せ、先程はちょうどそのロキの結婚相手について話していたところだ」
「む……?ロキの、けっこんあいて……?」
王太子の返事に眉を顰める。
なにをいっとるんじゃこの人は。ロキが結婚結婚騒ぐのはいつだって俺相手だった。王太子がロキの恋人じゃないのなら、俺はまだロキに好き好きムーヴをかまされている最中ということ。
そんな中で、ロキに俺じゃない結婚相手の噂だって?ふん、笑止、しょーしである。流石の俺だってロキの本気の好意くらいは察している。王太子のセリフはなんの脅しにもならな──
「ロキはアンドレアと婚姻を結ぶ予定なのだ。二大ファミリーの結束を強める為にな」
「…………ほぇ?」
ロキとアンドレアが、結婚……?
王太子の言葉は聞き逃せないものだった。だってそれは、原作にとても忠実な内容だったから。
本来あるべきだった未来、あるべきだった展開。それがまさに、王太子の語った言葉の中にある。
衝撃発言を聞いて思わずピタァッと硬直する俺を見て何を思ったのか、王太子は満足気な笑みを浮かべて言葉を続けた。
「そして我が花嫁、ルカ。君は私と婚姻を結ぶのだ。全ては二大ファミリーと王室の均衡を保つ為に。君も、結婚相手が王族ならば何の不満もないだろう?」
やっぱり主人公カプは絶対なんだ……とちょっぴり瞳を潤ませていた涙がスンと止まった。
黙って聞いていればなんだこやつ。さっきから失礼オブ失礼がすぎるぞ。俺の結婚観やらタイプやらを勝手に決めつけるんじゃない。ついさっき王子さまはいらないって言ったばっかじゃろ。
俺ってば、ロキがこんな失礼な人と付き合っているだなんて思いこんで不貞腐れていたのか。思い返してみればなんておバカなことをしていたのか……。
ロキが知らんやつとデートしてたふえぇっと嘆いていた自分をぶん殴ってやりたいぞ。
自信満々な顔をして俺の返答を待つ王太子からぷいっと顔を背けて吐き捨ててやった。
「よくわかんないけど、やだぞ。おことわりだぞ。ロキもお兄さまも王子さまには絶対にわたさないんだぞ。ふんっ」
「なッ、なぜだ……!?次期国王の妃の座だぞ?喜ばしくはないのか!?」
前からなんとなく思っていたけど、この国の王族は揃いも揃ってポンコツすぎるだろう。
「じぇーんじぇん、嬉しくないぞ。お話はそれだけかえ?ならちゃっちゃとおかえりくださいだぞ。ロキはこれからおれと遊ばなきゃだから、ゆーちょーにお話ししてる暇はないんだぞ」
膝の上でくるっと回転して、正面からロキにむぎゅーっと抱きつく。
手紙の内容はとっくに脳内で燃やして消し炭にした。
まっさらな記憶をもったままロキににこっと笑顔を向けて『あそぶよな?』と圧をかけると、ロキは何やら感極まったように頬を紅潮させて嬉しそうに頷いた。
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