異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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五章

148.王子さまだって楽しみたい

 

「王子さま、王さまになるのか?いいな!おれ、お嫁さんにはなれないけど……王子さまのこと、おーえんするぞ!」


 完成した砂のお城をぽーっと見つめていたが、王太子とロキの会話が着実に壮大なものになっていくのを察して思わず声を上げた。

 ちょっぴり話についていきづらいが、とりあえず王子さまが王さまを目指すってことだけは理解できた。王子さまが王さまになるのはとっても良いことだと思うので、ぺかーっと笑顔を向ける。
 泥団子で雪だるまならぬ泥だるまを作りながら応援宣言をすると、王太子は涙ぐんだまま嬉しそうに笑った。


「あぁ、ありがとう花嫁よ……!花嫁の支持はロキの支持も同然、これで私の首の皮一枚繋がった!」


 心の底から安堵したように息を吐く王太子。その横で、ロキはふんっ……とちょっぴり拗ねた様子でそっぽを向いた。


「ふーん……ルカちゃん、殿下のこと気に入ったんだ。そういえばルカちゃん、昔言っていたもんね。綺麗なお姉さんが好きだって。殿下の容姿が気に入ったんだね。ふーん」

「私はお姉さんではないぞ?お兄さんだぞ?」


 きょとんと口を挟むKY王太子は完全スルーして、不貞腐れたロキのもとに慌ててとたとたと駆け寄る。泥だらけの身体のままむぎゅっと抱きつき必死に弁明した。


「ち、ちがうぞ!王子さまいいひとだから、ほんとにただおーえんしたいだけだぞ!おれはロキの顔だいすきだ!ロキはかっこいいから、お顔みるとドキドキしちゃうぞ!」

「んぐッ……!そ、そう?ほんとに?本当に、俺の顔好き?ドキドキ、する?」


 するぞ!と真面目な顔で返して頷くと、ロキはにまっと頬を緩めて俯いた。
 何やらもごもごと「んふふ、ドキドキ、ドキドキするんだー」という声が聞こえてくるけれど、如何せんもごもごしていて聞き取りづらいので早々に耳を澄ませることをやめた。


「その、あまり目の前でイチャつかれると困るのだが……」

「むっ!?いっ、いちゃついてなんかないじょっ!」


 ロキにぎゅーされていると、ふいに王太子が気まずそうに瞳を揺らして呟いた。
 その言葉にあわわっと顔を真っ赤に染めて反論する。んしょんしょとロキの抱っこから抜け出し、ロキからぷいっと顔を背けた。べ、べつに照れているわけじゃないじょ……。


「あ。ルカちゃん、ほっぺに泥ついてるよ。目に入っちゃいそう」

「なぬっ!ふ、ふいてくりぇっ!おめめに泥入るのいやだじょっ!」


 照れてない、俺は照れてないぞむぅむぅ……と頬を赤らめていると、ふと背後からロキの声が聞こえて慌てて振り返った。
 むきゅっと目を瞑りながら拭いてくれと訴える。湯浴みでお湯が目に入ることにすらビビる俺が、当然泥の侵入なんて許せるはずもなく……。
 蒼白顔で訴えた直後、ふにゅっと触れた感触があったのはほっぺじゃなく唇の方だった。

 ふにゅっというよりは、むちゅっといった方が正しいかもしれない。


「む?むちゅ?」


 違和感を察してぱちっと目を開く。その瞬間、至近距離でロキと目が合いギョッとした。
 もはや顔全体が見えず、視界にハッキリ映っているのはロキの綺麗な赤い瞳だけ。ほっぺの泥をとってもらう展開だってのに、これは一体どういう状況じゃ……?
 硬直したままぱちくり瞬くと、数ミリ先にあるロキの瞳がふいに緩く弧を描いた。


「ん……んっ、ふふ。チョロすぎて心配になっちゃうな。照れて逃げちゃうくらい初心なのに全然逃げ切れないお馬鹿なところ、ほんとかわいくて大好きだよ」


 ぺろっと舌を出すロキを見てぽぽっと全身を真っ赤に、熱く染める。
 思わず唇をぱっと両手で覆ったが、手遅れにも程がある動きを見たロキがおかしそうにははっと笑った。それを見てまたかぁーっと羞恥が湧き上がる。


「むっ、ば、ばか!ばかばかっ!きゅうにちゅーするなって、さっきも言っただろ!ふんすっ!」

「あぁごめんねルカちゃんっ。それ可愛いから、可愛いだけだから落ち着いて……!」


 手足をぱたぱた動かして暴れ散らかすが、ロキに難なくぎゅーっと拘束されて動きを止められてしまった。ムッスーッと顔を顰めると更に抱っこが強まるのでどうしようもない。
 ほっぺぷくーしたままロキの膝にのせられた状態。その状態のまま、ロキは曖昧になっていた話を収束させるみたいにまとめた言葉を紡いでいく。


「まぁ、なんだっけ?とにかく、今代の王と反乱を企てている王弟についてはヴァレンティノも嫌気が差していたところです。王族の中では一番マシだし、別に殿下を支持してやっても構いません」

「ほ、本当か……!」

「えぇ。ただ例の件は全て白紙にしてくださいね。俺がアンドレアと婚姻を結ぶだの貴方がルカちゃんを花嫁にするだの。もう一度言ったら王家諸共潰しますので」

「分かった!もう言わないぞ!花嫁はロキの花嫁だ、うむ!」


 だからそれもちがうぞ……と眉尻を下げる俺は置いてけぼりに、王太子は嬉しそうにふにゃふにゃ笑うし、ロキは満足気にうむうむっと頷いている。むーん、否定する隙がないじょ……。

 話に入っていけず、ちょっぴり不貞腐れながら足をぷらんぷらーんと揺らす。
 砂のお城かっちょいいなーと現実逃避にも似たことを考えていると、ふいに王太子が俺にも視線を寄越してニカッと笑った。


「花嫁もすまなかった。私が女のように美しかった所為で誤解をしてしまったのだろう?いらぬヤキモチを妬かせてしまって申し訳ない。私とロキの間には微塵の恋愛感情もないから心配するな」

「べっ、べつにやきもちなんてやいてないじょっ!」


 突然の冷やかしにふんすふんす!と真っ赤な顔で反論する。
 しかし王太子は至って純粋な心配をしただけのようで、俺がぷんすか!といった反論をするとびっくり顔で「そ、そうか、すまない」と頷いた。
 なんというか、良い意味でも悪い意味でも、本当に王族っぽくない人だなぁ……。


「では、すまない。私はそろそろ帰らせてもらうぞ。どうやら私はお邪魔虫のようだから」

「ようやく気付きましたか。散々俺とルカちゃんの甘い時間を奪ってくれてどうもありがとうございました。どうぞさっさとお帰り下さい」

「おい、私、一応王族なのだが?」


 泥の付いた手をぱんぱんっと叩きながら王太子が立ち上がる。
 ロキは俺をぎゅっと抱っこしたまま立ち上がり、門の方を指し示してニコッと笑った。
 貼り付けたような笑みにムッとなってほっぺをむにゅっと触ると、作り物じゃないほんとのきょとん顔が返ってきてにまっと笑う。うむうむ、そうだ、作り笑顔はメッだぞ。

 上機嫌な俺の顔を見て何を思ったのか、ロキは今度こそ本物の笑顔を浮かべて頬擦りしてきた。


「あ、あー……か、帰るぞ?帰るからな?」


 気まずそうに瞳を揺らす王太子に気付いてハッとロキの顔を押しのける。
 ひらひらーっと手を振ると、ふと王太子が何かを思い出した様子でとことこと戻ってきた。

 泥のついた俺のほっぺを片手で包み込み、王太子は柔い声音で嬉しそうに語る。


「砂遊び、楽しかった。また共に城を作れたら嬉しい」


 へにゃっと浮かんだ笑顔は、まるで子供みたいな幼さがあった。

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