151 / 241
五章
150.ロキとお昼寝
結果を言うと、俺はお泊りを回避することができなかった。
俺がヴァレンティノ邸にいることを知った父やアンドレアが邸に殴り込みに来たものの、ロキはそれすらのらりくらりと躱して俺とのお泊りについての許しをもぎ取ったのだ。
あんなに激おこしていた二人をどうやって諫めて、尚且つ納得させたのか。到底想像もつかないので聞いてみたが、ロキはニコニコ笑って躱すばかりで教えてくれなかった。
結局二人はムスッとした顔をしながらも帰っていってしまったし……ついでにガウとジャックも連れていかれてしまったから、俺は完全にヴァレンティノ邸に取り残されてしまったというわけだ。
そもそも突然お泊りだなんて、邸の人達が困るのではなかろうか?そう思いロキの目を盗んでとことこと邸内を駆け回ってみたが、俺に対して後ろ向きな感情を抱く人は誰一人としていなかった。
むしろみんな「若を手懐けてくださりありがとうございます!」「若の手綱を握ってくださり感謝致します!」といやに感極まった様子で涙を流すくらいだ。
まったく……ロキってば普段どんな姿を晒しているのだろう。
原作を読んでいるから、ロキが実はとんでもない腹黒サイコパスだってことは知っているけれど……俺の前では基本的に優しくて素敵な姿しか見せないから、実際にはあまり想像がつかない。
「ルカちゃん?可愛く唸っちゃってどうしたの?部屋の外まで可愛い唸り声が聞こえていたよ」
「むっ。ロキ、もどったのか。むぅ……うなってなんかないぞ」
とっても濃い今日の出来事を思い返してうぅむうぅむと唸っていると、ふと扉が開いてロキが部屋に戻ってきた。
俺のお泊りやら王太子のことやらを報告しにいくとかで、数十分ほど前にリカルド様の執務室へ向かったロキだけれど、どうやらその用事が終わったらしい。
とことこと近付いてきたロキが、サメさんをぎゅっと抱いた俺をひょいっと抱き上げてソファに腰掛け、そのまま俺をぽすっと膝にのせた。
背後からぬくぬく抱き締められながら、手持ち無沙汰に足をぷらんぷらーんと揺らす。うぅむ、ちょうど夕方になる頃合いだから動くのも怠いし、かといって何もしないのも退屈だし……いかんな、一番暇な時間帯じゃないか。
暇なせいか眠気がむんっと襲ってくる。ちょっぴりおねむじゃのぅ……と目元を擦っていると、ふいにロキが俺の頭をよしよししながら声を掛けてきた。
む、頭なでなでは眠くなるからやめるんだじょ……。
「何か悩み事でもあった?可愛い眉間に可愛い皺まで作っちゃって、さっきはすごく唸っていたし」
「むーん……べつに、おなやみってほどじゃないぞ……」
ほっぺをふくふくつんつんと摘ままれながら返答すると、ロキは柔く微笑んで囁いた。
「どんな些細な悩みでも、ルカちゃんのお話なら全部知りたいし、聞きたいな。聞いてもいい?」
優しい声音なのに、どうしてだろう……圧迫するみたいな怖い声よりもずっと“逆らえない”と思わせる何かを感じる。
ぷるぷる震えながらもこくりと頷き、ロキのおっきな手に頬擦りしながら答えた。
「あのな、おれ、ロキとかお兄さまとかとちがって、ちんちくりんなのに……みんな、おれのこと歓迎?してるみたいなんだ。なんでだろなーって、おもったんだぞ」
「うん?ルカちゃんはちんちくりんじゃないよ、とっても可愛い天使だよ?一体誰がルカちゃんの自信を潰すようなことを言ったの?」
ぱちくり、と純粋な瞬きをする瞳の奥には、その実あまりに闇の深すぎる黒い何かが滲んでいた。
ちんちくりんというのは完全に原作の知識を持っているが故の単なる自虐だが、仮にここで下手に誰かの名前を吐こうものなら死人が一人出ていただろう。しっかり否定せねば……。
「ち、ちがうぞ。ロキやお兄さまはほんとーにかっこいいんだ。おんなじくらいかっこいい人なんて、きっといない。だから、おれはロキとちがってかっこよくないから、ちくりんなんだぞーって、そういうことだぞ」
「……!なーんだ、そういうことかっ。そっかそっかぁ、俺がかっこよすぎるから、俺以外は皆ちんちくりんに見えるってことね?ふふっ、ルカちゃんってば本当に俺のことが大好きなんだねぇ」
「む、うむ。だ、だいすきだじょ」
ロキの真っ黒オーラが消えてほっと息を吐く。
むぎゅむぎゅと強く抱き締められてちょっぴり息苦しいけれど我慢だ。このままロキの上機嫌を引っ張ることが出来れば好都合……下手なことは言わないようにしよう。
ふんふふーんととっても機嫌が良さそうなロキを見上げてほっと安堵しつつ、さっきから着実に襲ってきていた眠気に逆らえずこっくりと頭を揺らし始める。
それに気が付いたロキが、俺のほっぺをむにゅっと摘まむように頭を支えてくれた。
「おっと。ルカちゃん、眠い?あと一時間もすれば晩餐の用意が出来るけれど……少し微妙な時間だね。お昼寝したい?」
「んぅー……だいじょぶ、ねみゅくにゃいじょ……」
一時間後にご飯なら、仮に今から昼寝するとして三十分くらいしか時間をとれない。そんなんじゃぐっすり快適な眠りにつくことなんてできないぞ。
そう思い、ご飯までしっかり起きてるんだじょーっと寝惚け眼でもごもご呟く。ロキはふにゃあっとした笑顔で「そっか、そっかぁ」と俺の頭をなでなでしながら頷いた。
「うーん、でも……もうおめめ半分閉じちゃってるよ?時間ちょっとしかないけど、一緒にお昼寝しない?俺が、ルカちゃんとお昼寝したいなって思ってる」
「んむ……ろきが、そこまでいうなら、しかたないなぁー……むにゃむにゃ」
そう。俺はしっかり者の偉い子だから眠気も我慢できるけれど、ロキがどうしても一緒にお昼寝したいって言うなら、別にお昼寝してあげてもいいんだぞ?
なんて考えながら膝の上でくるりと身体を回転する。ロキを背凭れにするような姿勢から、ロキとぎゅっと抱き合うような姿勢に変えて、硬い胸板に顔を埋めた。
「ろきぃ、背中さむいから、ぎゅーしてー」
「うぐッ!は、破壊力ッ!生殺し……ッ!」
「ろき、ぎゅー。ぎゅーう、してよぅ」
何やらそわそわ忙しない様子のロキに擦り寄ると、ハキハキした声で「するぅ!」と返ってきた。
むんぎゅぅーってくらいの抱擁に頬を緩ませながら、一時間後の夕食までぐーすかすぴーをすべく、ロキに身体を預けて夢の世界へと旅立った。
あなたにおすすめの小説
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ