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五章
152.ヴァレンティノ家の晩餐
俺のおれが実はちっちゃかったという事実に嘆きながら、ズーン……と重苦しい空気を纏って挑んだヴァレンティノ家の晩餐。
いつも主に俺のせいで騒がしくなるベルナルディ家の夕食とは裏腹に、ヴァレンティノ家は使用人も人形みたいに物静かで、雰囲気も静寂に包まれていた。
そんな中とぼとぼと席に着いた俺と無言のロキを交互に見つめ、先に席に着いていたリカルド様がふいにきょとんと首を傾げた。
「おや。二人とも元気がないようだけれど、何かあったのかい?特にルカちゃん」
名指しを受けてハッと我に返る。
目の前に淡々と用意される美味しそうな料理をじゅるりと見下ろしつつ、リカルド様にへにゃんとした視線を返して答えた。
「な、なんでもないでしゅ。その、えと……おれってば、まだチビのこどもだったんだなぁって、ちょっぴり思い知っただけでしゅ……」
「うん?確かにルカちゃんはちっちゃくて可愛らしいけれど……」
それだけで何でそんなに落ち込んでんだ?という疑問がありありと伝わってくる。
けれど俺はと言えば『ちっちゃい』『可愛らしい』という言葉にズドーンと落ち込み、更にしょぼぼんっと縮んでしまった。今、ちっちゃいは禁句なんだぞ……。
ぬるっと始まる晩餐。しょぼくれながらぱくぱくと料理を食べていると、ふいにリカルド様に問いを投げ掛けられた。
「ふむ……もしやロキに何かされたのかい?」
ピンポイントで尋ねられ思わずビクゥッと肩を揺らす。
どうしてそれを!とびっくり顔でリカルド様に視線を向けるとニコッとした笑顔が返された。まるで『そんなの見りゃ分かるわドアホ』と言われているみたいだ。
それくらいリカルド様の笑顔がペターッて感じというか、ニコニコ―ッて感じがする。いや、いくらリカルド様がロキに負けないくらいの腹黒さんだからって、流石に俺に対してそこまでは思わないだろうけれど。笑顔がね、ちょっぴり怖いじょって、それだけの話だ。うむ。
「はぁ……まったく。ロキ、今度は一体何をしたんだい?恋愛事において強引に事を進めるのは逃亡を促しかねないからよしなさいといつも言っているだろう。囲うなら身も心も堕とさないと」
「申し訳ありません父上……まずは身体から堕とした方が良いのではと思ってしまいまして……」
「駄目だよロキ。それは最終手段だ。確かにルカちゃんは快楽に弱そうなチョロい子だけれど、だからと言って心までチョロいとは限らない。何事も慎重に動かなければならないよ」
あいあいさー、と尊敬のような感情が籠った瞳をリカルド様に向けるロキ。
なんというか本当に……この親にしてこの子あり、である。ロキのちょっぴりズレた恋愛観と歪んだ愛情表現はリカルド様の遺伝によるものに違いない。
快楽に弱いだのチョロいだの散々な言い様だ。俺は別に快楽に弱いわけじゃない。つよい子だ。うむ、俺はとっても強い子なのだぞ。
確かに身体を擽られたら大笑いしちゃうし、お腹や二の腕をぷにぷにと揉まれるだけでふにゃんふにゃんになっちゃうけども。
でも、それくらいだ。ちょっぴりへにゃんっとなるスピードが速いだけで、別に弱いわけじゃない。
「ごめんねルカちゃん。少し事を急いたみたいだ。思えばルカちゃんは俺のことが大好きだし、俺もルカちゃんを愛してる。焦らずゆっくり進んでも何ら問題はなかったね」
「ふぇ?う、うむ?」
俺は強い子もぐもぐと料理を食べていると、ふいに穏やかな笑みを浮かべたロキに声を掛けられた。
何だかやっぱりズレているような気がする発言に、理解がついていかない状態のままこくりと頷いてしまう。ロキは嬉しそうにふにゃっと笑っているけれど……やばいぞ、これ反応間違えちゃったやつに違いないぞ。
改めて発言の内容を思い返してみるが、全然頷けるようなセリフじゃない。いやいやだめだぞ、そもそも俺ロキのこと恋愛感情でうんたらかんたらーとは、もはや言えない雰囲気だ……。
「ふんす……はっ!ぷりん、ぷりん」
もうわけわかめなので諦めて料理を楽しんでいると、今度はデザートのプリンが目に入ってキラキラッと表情を輝かせた。
俺はクールだけど、実は甘いものがとっても大好きだ。
いつもはクールにブラックコーヒーなんて嗜んでみる日が多いが、たまにはこういう甘味も悪くない。ふふん、ふんふん。ぷりんぷりん。
にまーっとゆるゆるの笑顔を浮かべながらデザートの皿を引き寄せる。思ったよりちっちゃなプリンだったのでシュン……となってしまったけれど、大事に食べるべく慎重にスプーンをいれた。
ふにゅん、という擬音が聞こえてきそうなほどの柔らかさに息を呑む。
一口目をぱくっと食べると、プリンは舌の上で瞬時に溶けて消えてしまった。
「んまあぁー!んまっ、んまっ!ふんにゅぅー……」
んま、うますぎるぞっ!なんだこのプリンは!プリンは飲み物だったのか!?
あまりの衝撃にびっくらこきながら、大事に食べようと思っていたプリンをぱくぱくっ!とものすごい勢いで食べ進める。
ものの数秒で空になってしまった皿を見下ろし、俺は思わずうるうると瞳に涙を滲ませてしまった。
「……ない。きえたぞ。おれのぷりん……」
えぐえぐっと嗚咽を漏らしながら唇をむぐっと尖らせる。
大粒の涙が瞳を潤ませる中、ふいに広間の静寂に気が付いて何事?と顔を上げた。
そういえば、俺がプリンを発見して食べ始める辺りから異様に静かになったな……。もしかして俺、空気を読まずに騒いじゃってた感じか……?と恐る恐る辺りを見渡してぎょっとした。
なぜかロキとリカルド様が、料理に一切手を付けることなく俺をガン見していたのだ。
「んむっ!?むむっ、なんだ!にゃんだぁっ?」
あわわっと身体を揺らすと、二人はカッと見開いていた目を元に戻してへにゃっと笑った。
「俺のプリン、お食べ」
「私のプリンも、お食べ」
何やら聖母さまみたいな顔をしてプリンを差し出してくる二人。
何が何だかわからなくてとっても怖いが、プリンはおいしいのでありがたくいただくことにした。
二つのプリンを目前に並べてふふんと頬を緩ませる。
今度こそ大事に食べるぞーっと意気込みながらぱくぱく食べると、さっきまで抱いていたシュン……がなくなり大きな幸福感に包まれた。
やはり甘味は世界を救う……甘いは正義、甘いおやつはヒーローなのだ……。
「んへへ、えへ。ぷりん、おいし。んまんま、むふ」
気付けば広間に漂っていた重苦しい空気はなくなり、二人だけじゃなく壁際に立つ使用人たちまでもが穏やかな雰囲気を纏って俺を見つめていた。むーん、ちょっぴり恥ずかしいぞ。
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