異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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五章

164.父におねがいごと

 

「今度の夜会に同行したいだと?」


 たちまちムスッと顰められる表情を見てそわそわと瞳を揺らす。や、やっぱりだめそうだぞ……。


「は、はいっ!おれも、もう十二歳だし……そういうのに慣れなきゃって、おもって……」


 ジャックの助言を受けた日の夜、俺は父の元に突撃してとあるお願いをした。
 その内容は、今度行われるマフィア達の夜会に俺も参加させてほしいというもの。

 今までは、絶対に参加しなきゃいけない会合や夜会以外は、父に参加することを禁じられていた。
 理由は俺がまだ子供だからってことだったけれど、それを言うなら俺よりもっと幼い頃から会合やらに参加していたアンドレアの説明がつかない。
 特に年齢制限があるわけでもないようだし、俺が行ったってなんの問題もないはず。そう思い恐る恐るお願いをしてみたわけなのだが……案の定、父は顰めっ面で黙り込んでしまった。

 ついさっき、俺がてくてくと執務室に現れた時は嬉しそうに頬を緩めたくせに……。
 こうして夜会という単語を口にした途端こうだ。以前から頑なにその類の集まりを禁じていたけれど、一体何が気に入らないのだろう。これも俺の暴走癖が心配だからって言うのか?


「おれも、お父さまやお兄さまみたいなかっこいいマフィアになりたいのですっ!だから、あれをするんです。あれ、あれ……あの、みゃくみゃく?づくり」

「人脈作り」

「そうそれっ!じんみゃくづくりをするのですっ!」


 父を説得すべく言葉を連ねる。ちょっぴり単語が出てこなかったけれど、空気の如く気配を消していたリノがサラッとフォローしてくれた。ありがとだぞリノ。
 ふんふん、とドヤりながら言うと、父は呆れ顔を浮かべて深い溜め息を吐いた。なにゆえっ!


「はぁ……全く。こちらに来なさい、ルカ」

「む?はいっ!」


 俺のクールな説得に感激して涙ながらにお許しをくれるのかと思っていたが、実際はそんなこともなく、父は呆れた様子のまま俺をちょいちょいと手招いた。
 それにきょとんと首を傾げつつ、てくてくっと机を回り込んで父の元へ。手前まで来ると、父は俺をひょいっと抱き上げて膝にのっけた。うーむ、いつもの体勢になっちゃった。

 む?むん?と困惑する俺をぎゅうっと抱き締めて、父が背中を優しくトントンしてくる。アレだ、あの、めちゃんこ眠くなっちゃうやつ。
 夜だから効力がいつもより二割増しだぜ……と慄きながら何とか瞼に力を入れる。説得するまでは絶対に寝ないんだぞ、ふんふん。


「父に憧れてしまうのは分かるが、少し落ち着きなさい。人脈などわざわざ作らずとも、ルカの愛らしさを前にすればどんな輩であろうと自らハイエナの如く群がってくるのだから」

「……む?」

「尤も、お前が羽虫共を相手にする必要はない。人脈だの何だの、お前が気にする必要はないのだ」


 淡々としたセリフを脳内で反芻する。気にする必要はない、だって?

 父の発言を頭の中で繰り返して、意味を考えて、理解して。理解した頃には、言葉に出来ない悔しさとか虚ろな何かが燻って、身体がぷるぷる震えてしまった。
 父ってばなんにも分かっていない。俺が言っているのは、そういうことじゃないのに。それを言ってしまえば、今までと同じになってしまう。
 俺はその今までを変えたいって、そういうことを言っているのに。

 涙目でぷくっとほっぺを膨らませ、父の胸をぽかぽかっと無言で殴りまくる。
 すると父は途端に眉尻を下げてあわあわと慌てだした。


「な、なんだ、一体どうしたというのだ。何をそう怒っている?」


 全然痛みなんて感じないが?とばかりに一切の抵抗をしない父。その余裕気な困惑顔にすらムッスーとしたムカムカが湧き上がって、半ば八つ当たり気味に殴り続ける。

 ずっと無言でぽかぽかし続ける俺を、やがて困り果てた様子の父がむぎゅっと制止させた。サラッと動きを封じられて悔しい。ぷんすかである。
 どうしたのだ、とやっぱりなんにも分かっていない顔の父をふんす!と睨み付け、むぎゅーされる中必死に抵抗しながら訴えた。


「お父さまのばかっ!ばかばかっ!そういうのが悔しいって言ってるんだぞ!おれだってみんなの役に立ちたいのっ!ずっとよしよしって守られてばっかりは、嫌なんだっ!」

「っ……!!」


 涙ながらに叫んだ訴えに、父はハッと息を呑んで硬直した。
 拘束が緩んだことを察して、その隙に父の膝からひょいっと飛び降りる。てくてくっと部屋の入り口まで駆け寄り、最後にふんすと吐き捨てた。


「夜会にはぜったいぜぇったい参加する!するんだからなぁっ!」


 それを最後に踵を返し、執務室をのしのしっと飛び出す。
 ちょっぴり強く言いすぎたかも……とシュンとしそうになるのを堪え、ジャックに作戦成功を伝えるべく部屋へと走った。



 ***



 それから数日後。父との空気がギクシャクしたまま、夜会間近となった日のことだった。
 父に嫌われちゃったかもうえぇぇん!と号泣しながらジャックに抱き着いて当たり散らかしていた時、ふと部屋にリノがやってきた。


「──おや、お取り込み中でしたか?」


 ジャックにクッションをぽふぽふっとぶん投げていた時に突然現れたものだから、絶賛散らかり中の部屋を見られてしまいあわわっ!と慌ててしまった。
 リノが部屋に来ること自体とっても珍しいことだから、混乱をあらわにとてとてっと駆け寄る。


「な、なんでもないぞっ!なにかあったのか?」


 腕をぱたぱたっと動かしてなんでもないアピールをすると、リノは相変わらず胡散臭いニッコリ笑顔を浮かべて「そうですか」と頷いた。
 チラリと扉の方を振り返り、リノが数回手を叩く。すると途端に数人の使用人がぞろぞろ入ってきて、思わずびっくり仰け反りながらジャックに抱き着いた。

 なんだなんだと目を回す俺の前に、使用人たちが淡々と、何やら服を着せたトルソーを置いていく。
 ジャックにむぎゅっと抱き着き、身体越しにそーっと覗いて見えただけでもすごく綺麗なお洋服だ。


「こ、これは……?」


 ジャックから頭なでなでを受けながら、恐る恐るリノに尋ねる。
 俺のぱちくりおめめな質問に、リノはニコッと満面の笑みを浮かべて答えた。


「こちら、主様からの贈り物でございます。夜会で着るようにと」

「……ほぇ?」


 思わずピタッと硬直しながら、トルソーに着せられた衣装をじっと見据える。
 明らかに高価で手の込んだ一品ものだと分かるその衣装。その贈り物の意味をぐるぐると考え込んで、あんぐりと間の抜けた表情を晒してしまった。
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