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五章
168.夜会当日
姿見で最終確認し、とてもいい出来栄えにふふんとドヤ顔をしながら部屋を出る。
道中、俺を見た使用人やらジャックやらガウやらが、何やら鼻血を吹き出してばったばったと倒れ伏せてしまった。その光景を困惑の目で眺めながら、しかばねを跨いでそろーりと進んでいく。
もしかしてこの夜会服、見たものを一撃で倒すメドゥーサ的な効果でも付与されているのだろうか。
そんなことを考えながらロビーへ続く階段に出ると、俺は更にむっふーっとドヤ顔を深めてとたとた駆け降り、玄関ロビーに颯爽と躍り出た。
「おとうさまっ!おにいさまっ!」
ふんふん、ふふん!とドヤりながら、くるりと一回転してめちゃんこかっちょいいポーズを決める。
ピシッと登場した俺を、先に玄関ロビーに着いていた二人がふと振り返って目視し、その瞬間二人して同時にグハッと吐血した。
「おとうさまっ!?おにいさまぁっ!?」
し、しまった!やっぱりこの夜会服にはメドゥーサ効果が付与されていたんだ……!
意図せず愛する家族を手に掛けてしまったことにぷるぷる震えて涙を滲ませるが、すぐに二人が歴戦の戦士みたいにむぐぅっと起き上がったことで涙が止まる。
ぱぁっと安堵の表情を輝かせて駆け寄ると、二人は俺を視認して再び呻き、今度は眩しそうに両手で顔を覆った。メドゥーサ夜会服、そんなに強敵なのか……おそろしや……。
「ち、父上、これは少々やり過ぎかと……ッ!」
「分かっている!まさかこれ程までとは思わなかったのだ……!」
仲良くグアァッと呻く二人を見下ろし、涙ぐんだ顔がほっと緩む。
なぁーんだ、二人とも仲良さそうで何より。よきよき。言っていることはよくわかんないけど、とりあえずは喧嘩とかが始まる様子はなさそうなので安心だ。
「とーさま、にーさま、どうですか?おれ、かっこいい?めちゃクール?」
くるんっとさっきの一回転をもう一度。
かっちょいいポーズを決めてドヤる俺を見上げ、二人は顔を覆った指の隙間から俺を眺めながらこくこくっと頷いた。
「あぁ、可愛い。とても可愛い。百億点満点だ。最高に可愛いぞルカ。お前が世界一だぞルカ」
「あまりの衝撃に天使かと思ったぞ。今もそう思っているぞ。サメのピンもとても愛らしい。八歳の誕生日で私が贈ったものだな」
二人の賛辞にえへへーっと頬を緩ませつつ、嬉しそうに微笑む父にうむうむっと頷く。
前髪をポンパドールにして支えてくれているサメさんのピンを撫でながら、ふふんと笑みを零した。
「んふふっ、お父さまにもらったサメさん、とってもうれしくてかわいくて、つけちゃったぞ」
「天使ッッ……!!」
ズキューンとハートを撃ち抜かれたみたいに、父が再び床に伏せる。
穏やかな死に顔を晒してチーンとご臨終した父に縋りつき、もはや恒例となった「おとしゃまーっ!」という全身全霊の呼びかけを叫んだ。うむ、しかばねヨシッ。もう目覚める気配はないんだぞ。
むねん……と眉尻を下げつつチラッと振り返る。アンドレアはまだ生き残っているようで、相変わらず指の隙間からチラチラ俺の姿を視認しては悶絶していた。
あの……ちょぴっとは父を心配してあげた方がいいと思うぞ……。
「お兄さま、もうちょいでロキがお迎えにきてくれるから、お父さまの蘇生おねがいします」
父のしかばねをツンツンと突っつきながらお願いすると、アンドレアはめっちゃ面倒くさそうに眉を顰めた。
反抗期は誰にでもあると思うけど、あんまり父にはその姿見せないであげて。きっと泣いちゃう。
俺は以前、執務室で見てしまったのだ。父が執務机にちっちゃな頃のアンドレアの肖像画をこっそり飾っているってこと。
普段使っている机にアンドレアの肖像画を置く。それだけで、父のアンドレアに対する愛情が痛いくらいわかるのだ。
だから反抗期でも、そこまで冷たい対応をしないでほしいと思っちゃう。父ってばアンドレアのこと大好きだから、きっと裏でシクシク泣いちゃう。
それでもって余談だけれど、実はそれを見つけた時、俺はちょっぴりシュンとなった。
だって父が飾る大切な家族の肖像画の中に、俺は含まれていなかったから。ほんの一瞬シュンとなったけれど、すぐに立ち直った。
なぜならひょっこり除いた引き出しの中に、地の木目が見えなくなるくらい俺の肖像画が貼られまくっていたから。まるでそう、ドラマでよくみるストーカーの部屋の壁みたいに。
正直、思いっきり引き出しを開けて全貌を見てみたい気持ちではあったけれど、恐怖が好奇心を寸前で上回ったために断念した。いつか再チャレンジしてみたい。
「お兄さま、お父さまの蘇生しっかりね。しっかりだぞ?」
ぽふぽふ、と肩を叩くと、アンドレアは面倒くさそうに溜め息を吐きながらも、父を起こすべくゆっさゆっさと肩を揺らし始めた。うむ、ちょっぴり怠そうだけどよきよき。
アンドレアの蘇生を眺めつつ立ち上がり、玄関扉をちょこっと開けて外を覗いてみる。ふふん、ロキはまだかなまだかな。きっともうちょっとだよね。
「えへ、えへへ。ふんふん、ふふん」
ポンパドールの位置調整よし、ジャケットの皺よし、ベルトよし、靴のピカピカ具合よし。
ロキには万全のかっこよさで会いたいから、半ば外に出ちゃった後も最後の確認は欠かさない。
ふむ、俺ってば超クール。これならロキもすてきー!とめちゃんこ褒めてくれること間違いなし。
「えへへ、むふふ」
「はいはいルカ坊ちゃま。楽しみで浮かれてしまうのは分かりますが、お風邪を召してはいけませんからね。しっかり中で待ちましょうね」
夜風に吹かれてぷるぷる震えながらにまーっと笑っていると、ちょこっと開いた扉から伸びてきた腕にひょいっと捕獲されてしまった。
それにむぅっと唇を尖らせながらも、抵抗はせず四肢をぷらーんと投げ出す。意外と優しい抱っこに抱え直されてぎょっと目を見開くと、抱っこした張本人のリノが訝し気に見下ろしてきた。
「どうしました?申し訳ございません、どこか痛かったでしょうか?」
「むん……痛くはないぞ。ただそのぅ、リノってば、抱っことかきちんとできたんだな……」
「何ですか。ベルナルディ当主の側近たるもの抱っこくらいは朝飯前に決まっているでしょう。肩車でもしてさしあげましょうか?」
「だ、だいじょぶだぞっ!ごめんだぞ、なんでもないぞっ」
正直リノって、シンプルに子供嫌いに見えるんだよなぁ……。
なんて、どうやらその考えが透けて見えてしまったみたいだ。リノはいつもの胡散臭い笑みを不気味に深めると、今にも肩車する勢いで俺を高い高いしだした。
やめんかやめんかっ、高い高いは確実に実力を信用できる人じゃなきゃ認めないんだっ。父かガウかジャック以外認めないんだっ!
慌ててリノの抱っこから抜け出し、ふんすふんすとのしのし地団駄を踏む。またリノにからかわれたぞ、不服だぞ泣いちゃうぞ。
俺のお怒りには目もくれず、リノはふと何かに気付いた様子で淡々と玄関扉の方に向かってしまった。相変わらず切り替えが早くて冷淡なやつだぞ。
リノの後ろ姿をぐぬぬぅ……と見据えながらも、すぐにぷいっと顔を逸らして父のもとへ。ばたんきゅーな父、流石にそろそろ復活しただろうか。
「ぐぅ……」
「気を確かに父上。本当の地獄はここからですよ。今から泥棒猫がやってきます」
「トドメ刺してどうするよ」
あ、よくわかんないけどとりあえずは大丈夫そうだ。
父も起き上がっているし、アンドレアとミケのボケツッコミが飛び交うくらいには和やかな空気になっている。よきよき。
ふんふんとルンルン気分で父たちに駆け寄ろうとしたその時、ふいに背後から冷たい夜風が吹いて頬を撫でた。
さっき扉を閉め忘れちゃったのかな?と思い振り返った瞬間、ピシッと硬直する。
恭しく頭を下げつつ扉を開けたリノ。玄関扉から入ってきたらしいその人は、何人かいる玄関ロビーの中、ただ真っ直ぐに俺だけを見つめて息を呑んだ。
「──ルカ、ちゃん?」
いつもかっこいいけれど、いつもよりも更にかっこよく見える彼を見つめてぱぁっと瞳を輝かせる。
「ロキ!」
待ち望んだロキが迎えにきてくれたことに嬉しくなりながら、早速てくてくっと駆け寄りむぎゅっと抱き着いた。むぎゅむぎゅうりうり、うーむぽかぽか。
んへへっと緩んだ俺のほっぺをクイッとしたロキが、何やら瞳孔をかっぴらいて俺を見つめた。ちょ、ちょっぴり怖いぞ。
「うそ、なにこれ……なんなの、これ……」
俺の全身を舐めるように見つめたロキは、やがて俺をひょいっと抱き上げて馬車へと歩き出した。
時間にはまだ早いけれどもう行くのだろうか?首を傾げる俺に、ロキが何やら血走った目で穏やかな笑みを浮かべるというちんぷんかんぷんな表情を見せながら、サラリと清々しく語った。
「こーれはダメです。お持ち帰りします。さぁ愛の巣に帰ろうルカちゃん」
「まだはじまってすらないんだぞ……」
あーれーと連れてかれそうになる俺を、慌てた様子で邸から飛び出してきた父とアンドレアが救出してくれた。
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