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五章
182.明けたあと
むにゃむにゃと目が覚めて、すぐにハッと蒼白しながら息を呑んだ。
よっこらせと起き上がろうとしたのに、なぜか起き上がることができない。腰の辺りから全身がぐぐぅっ……と硬直して、指先すら思うように動かすことができないのだ。
「……ぅ、っ……?」
なんでぇ?とか、どうしてぇ?とか困惑のセリフを吐こうとしたが、それすらも発せなかったためにガガーンと絶望してしまった。
声も掠れて出ないなんて、一体俺に何が起こってしまったんだ?寝起きで混乱する頭で、眠る前の記憶を必死に引っ張りだす。
やがて、散々ロキに身体を虐められた記憶が蘇り、顔がかぁっと真っ赤に染まった。
「ぁう、っ~~!」
掠れた声で叫びながら、シーツをぺちぺちっと叩いて悶絶する。本当はごろごろと転がり回りたい勢いだけれど、まだ回復が追い付かないせいで出来ないのでぺちぺちだけで我慢だ。
赤面した顔で悶絶し始めてから数秒。やがてほんのちょっぴりだけ落ち着きを取り戻すと、俺はちらりと周囲を見渡して人の気配がないかを確認した。
うーむ、さっきから思っていたけれど、ロキってばどこ行っちゃったのだろうか。寝室には俺以外いないみたいだけれど……。
「ろ、ぃー……」
あぁ、やっぱりだめだ。大分身体の力は戻ってきたけれど、声は掠れているからまだまともに言葉を発することができない。
しょんぼりしつつ、回復した身体をぐぬぬと叱咤してころころ転がる。ふむふむ、やっぱり人影はナシっと。むむぅ、それはそれで不満だぞ。
ロキってば本当にどこへ消えたんだ?眠る直前まであんなことやこんなことを嬉々として楽しんでいたくせに……むっ、げふんげふん。
べ、別にアレじゃないぞ?“そういうこと”をし終えた翌朝くらいは隣で眠っていてほしいとか、起きた時に一人ぼっちなのは寂しいとか、そんなことを思っているわけじゃ断じてないんだぞ?
そう、あくまで常識の問題。フツーはさ、隣にいるものなんじゃないのか。俺のこと、好きって言ったじゃんか。好きな人のそばにいないとか、なんかさ、なんかだろ……むぅ。
「……むん、むぅ……むむぅ」
考えごとを深くまで進めたら、途端に気持ちがシュンとなってきてしまった。
思わずダンゴムシみたいに丸まって、ふーんだ別に拗ねてるわけじゃないもんねーと子供みたいなムーヴをかます。ごろごろ、ごろりん、ごろりんちょ。ふえぇっ、やっぱりひとり寂しいよぅ。
「ぅぐ、ばか、ばか。ろき、の、ばかぁ」
唾を呑み込んで喋って、その繰り返しを続けていると、やがて掠れた声が出るようになってきた。
発声テストに使っていたロキ罵声集を一旦やめて喉を撫でる。うむ、正常に治ってきているようで何より。あとは身体を休ませれば、自由に動けるようになるだろう。
もう少し休んだら、寝室を出てロキを探しにいこうかな。
なんて呑気なことを考えた矢先、ふと寝室の扉が静かに開かれた。そろりそろり……って感じに。
足音もなく、ただ気配だけが確かに近付いてきた感覚がして、ころりんちょの中からチラッと顔を出す。視線の先の人物と目が合うと、彼は蕩けたようにふにゃりと微笑んだ。
「ルカ、目が覚めたんだね。おはよう」
「……ぉ、はよ……?」
まだ起き上がれないか……とうにゅうにゅ這いずる俺をひょいっと抱き上げると、ロキはベッドに腰掛けて膝にぽすっと俺をのせた。
シーツでぐるぐる巻きにされているから寒くはない。ない、けど……全裸に変わりはないから、てれてれしちゃうのは止められない。かぁっ、ふすふす、てれてれ……。
むん、とちょっぴり俯いたところで、ほっぺをふにゅっと摘ままれた。
「ん?ふふ、どうしたの。もしかして……照れてる?ほっぺた、赤くて熱くてかわいーね」
ぽすっとロキの胸板に顔を埋める。完全に顔を隠してしまった俺の頭を撫でると、ロキはその手をすっと下ろして、今度は腰の辺りを優しくさわさわし撫で始めた。
「腰、痛くない?お尻は……結構激しくしちゃったけど、腫れは大分引いたみたいだね。昨日のぷりぷりなお尻も、真っ赤な桃みたいで可愛かったけど」
「ぅ、ん、うぅ……」
「解毒も完全に済んだね、よかった。やっぱり中出しして正解だったみたいだ」
「はぅっ!?」
腫れ確認のためにお尻をむにゅむにゅ揉まれても我慢していたけれど、中出しという言葉には耐えられなかった。
直接的な単語を突き付けられると、思い出さないよう意図的にぼかしていた昨夜の記憶が明確に蘇る。あんなことやこんなこと、アッハーンなことをした記憶がありありと蘇り、思わずぷしゅーっと頭から湯気を吹く勢いで真っ赤になってしまった。
ぷるぷる震える俺をぎゅうっとしながら、どうしたの?とぱちくり瞬いていたロキ。それがふとニコニコ笑顔を浮かべたことに嫌な予感が募る。
どうやらこのニコニコ鬼畜ロキ、俺が突如真っ赤に照れ始めた理由を察してしまったらしい。
「るか、るーか、お顔見せて?えっちなこと思い出して赤くなっちゃったお顔、俺に見せて?」
「やっ、ばかぁっ……!」
ほっぺをむにゅっと掴まれ、うにゅうにゅっと必死の抵抗をする。
このまま持ち上げられて堪るか、アッハーンなこと思い出して絶対えっちになっちゃってる顔、ロキに見られて堪るかっ……!
そう思っていたのに現実は残酷で。ロキの力に敵うわけもなく、普通に顔を見られてしまった。
「っ……──!」
俺のえっちな顔を至近距離で直視したロキが、なぜかピタァッと硬直する。
再び嫌な予感が襲ってきて、すぐにはわわっと離れようとしたが……その前に、ロキの手によって光の速さでぽすんっと押し倒されてしまった。
「はわっ!」
倒れた拍子にシーツがぺらりと乱れる。
すっぽんぽんの身体がロキの目前に晒されてしまい、慌てて腕やら足やらを畳んで丸まった。
「みっ、みりゅな、みりゅなぁっ」
「ルカ、いい子だから、おてて退けようね」
「やだやだっ、おばか!めっちゃ朝だぞ!なにしよーってんだぁっ」
「何って、朝だし一発抱かないと。ほら、朝だからさ。眠気覚まし的な?」
「もう起きてるっ!おめめぱっちりだからぁ……!ぷぎゃっ!やめろぉ!お尻ムニュムニュするなっ、おちんちんぴとってするなぁっ!」
ロキのおちんちんが布越しにぴとっとお尻に当てられて、いよいよ本格的に危機を実感する。
出し得る限りの全力でばったばったふんぬっ!と暴れ散らかすと、ロキは困り顔で「んあーわかったわかった!」と言って拘束を解いた。完全勝利、ふんふん。
「もう、わかったよ……朝にシなければいいんでしょ。ちゃんと夜に犯すから、わかったわかった」
「はぇ……?」
なんかめっちゃズレてる答えが返ってきた気がしたが、まぁ気のせいだろう。気のせいであってほしいぞ。
ぱちくり瞬く俺をなでなでしながら、ロキは「あ、そうだ」と何かを思い出したように声を上げた。切り替え早いね。
「今ね、下にベルナルディの奴らが集まってるんだ。着替えたら会いに行こうか、面倒くさいけど。夜会の事件のこととか、色々聞かなきゃだからね」
「……む?いま、なんて」
「あぁそうだ、あと婚姻届もね。ほんのちょっと順序狂っちゃったけど、初めてを貰ったからには責任取らないと。うん、責任ね、そう責任大事。だから絶対結婚しないとね」
「あ、あの」
「ふふっ。ここまで進んじゃったんだから、もう誰も反対出来ないはず。流石のベルナルディも、俺達の婚約を許可せざるを得ないだろうね。ふふ、ははっ、あははっ」
な、なんだろう、目がおかしくなっちゃったのかな……。
どうしてか今のロキが、ニコニコ笑顔の悪魔に見える……鬼畜な悪魔さんに見えるぞ……。
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