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五章
186.濁った赤色
「ふ、ふんっ。べ、別に分かってたもん。チェレスの話だろ?フツーにわかってたし、むん」
「うんうん、そうだよね。分かってたよね。ちょっとジョークを言ってみただけだもんね?」
「そ、そだぞ。おれは気が利く子だからなっ。みんなの気持ちを、和ませてやろうと思ったんだぞ」
うむうむ、とあたかも計画通りとばかりに言うと、みんなもうんうんそうだよねと頷いた。
ロキにえらいえらいと頭を撫でられ、えっへんと胸を張る。そう、俺は気が利くクールボーイなので、このくらいで動揺なんてするわけないのである。ふんふん。
ぷらんぷらんと揺らしていた足を止めて、コホンッと一つ咳払いをする。
万が一にもさっきの誤魔化しがバレて『あれれ?おかしいぞ?』と言われる前に、話をサラッと戻すことにした。
「それで、えぇっと。つまり、こゆことか?チェレスは悪魔さんで、人間さんじゃないってこと?」
チェレスに組み敷かれた時に見えた、濁った赤い瞳。
気のせいかと思っていたけれど、どうやらアレは確かに赤く変化した本当の瞳だったらしい。
さっきの、悪魔は赤い瞳をしているという話を思い出しながらそう問いを紡ぐと、みんなは軽く顔を見合わせた。なんだなんだ、これも間違いか?不正解なのか?
ビクビクしながら待つこと数秒。やがて俺の問いに答えてくれたのはロキだった。
「うーん、半分正解かな。でも、少し違う」
「むぅ……それじゃ、チェレスはなんなんだ?悪魔さんじゃないのか?」
半分正解ならギリギリセーフか。
ちょっぴりむんっとなったけれど、すぐに膨らんだ頬をぷしゅっと戻した。
もう半分が不正解ということだから……つまり、どういうことだ?そこまで言われても分からず首を傾げるおバカな俺に、ロキは優しく真相についてを説明してくれた。
「王弟に悪魔が憑依しているんだ。もっと詳しく言うなら、悪魔堕ちした先祖が憑依しているって感じかな」
「ふんふん、むぅ?」
「あ、分かってないね。ごめんね、難しい説明しちゃって」
むん……と唇を尖らせてしょんぼり落ち込むと、ロキはそんな俺をよしよしと慰めるみたいに抱き締めた。むぅ、ほんとだぞ、ちょっぴり難しすぎるんだぞ。
ぺちぺちぽかぽかっとロキを拳で攻撃する。そんな暴れ散らかす俺にニッコリ笑顔を向けたロキが懲りずに言葉を続けた。ぺちぺちぽかぽかが全然効いていないようでなんだか悔しい。
「まぁ、実際に見てみないと分からないと思うよ。会って確認してみたいなら、近い内にルカちゃんにも会わせてあげる。それで一度、王弟と話してごらん」
「……はぇ?」
「なッ……!貴様、何を……!」
予想外のセリフを紡がれ、思わずアホっぽい声を上げてしまった。
正直、今のロキの発言にはびっくり仰天だ。俺に危険が降りかかることを何より嫌うロキが、俺に危害を加えたチェレスとの関わりを勧めてくるとは思わなかった。
そしてそれはアンドレアも同じ考えだったようで、俺と同様びっくりしたようにロキを睨み付けている。むん……やっぱり、ロキってば何かおかしいよな?
チェレスは悪者なんだぞ?俺に悪いことした、悪の親玉なんだぞ?
そんな疑問が顔にありありと浮かんでいたのか、ロキは俺のあからさまな反応を見て苦笑した。
「何か誤解しているみたいだけど、俺だってルカちゃんとクソ変態王弟を引き合わせたいなんて思ってないよ?寧ろ、リスクをゼロにするために今すぐにでも王弟を殺したいくらいだ」
にこやかに『殺す』だとか言っちゃう物騒なところからは目を逸らし、ひとまず今はチェレスの件についてのみツッコむことに。
「そ、それじゃ、なんでだ?らしくないぞ。ロキのことだから、ぜーったいに会わせてくれないと思ってたのに。俺のこと、お外は危ないからっていって、監禁すると思ってたのに」
「ルカちゃん……俺のこと何だと思ってるの……?」
「クソ変態ショタコン野郎だろ。自覚しろクズ」
「クソ変態ブラコン野郎には聞いてないよ。あとショタコンじゃないから。ルカちゃんが好きなだけだし。今のルカちゃんが偶然ショタなだけだし。分かってないな」
自分で言うのもなんだけれど、俺はロキにめちゃんこ愛されている自覚がある。
愛されているというよりは、執着されている、と言った方が正しいかも。とにかく、ロキから激重感情を向けられているってことは、流石の俺にも理解できるのだ。
そして何より、俺はロキのヤンデレ執着癖な性格を知っている。原作で何度も読んだから。
だからこそ、理解できない。原作で何度も読み込んだあのヤンデレ攻めのロキなら、性的に襲われかけた俺にみすみす自由を与えてくれるとは思えないのだが……。
ロキ・ヴァレンティノなら、俺を『監視』やら『護衛』やらを理由に監禁するくらいサラッとやりそうなものなのに。
実際、アンドレアを相手にしていた原作のロキは、そのくらいのことを何の躊躇もなくやっていた。
「ロキ、ロキ。なんでだ?なんで、俺とチェレスを会わせようとするんだ?」
「うん?そんなの、ルカちゃんの自由だもの」
「ちがう!そんなんじゃないだろ。なにかワケがあるはずだ。俺にもそれくらいわかるんだぞ」
アンドレアと仲良く口喧嘩するロキの裾をくいくいっと引っ張る。
早く教えろだぞ、と尋ねても返ってくるのはのらりくらりとした回答だけ。むすっとなって否定すると、ロキは困ったように微笑んだ。
「うーん、でも……こればっかりは、本当に実際に会ってみるのが一番早いんだよ」
含みのあるセリフに首を傾げる。ロキがこんなに言うくらいだから、チェレスの問題は本当に複雑なものなのかも。
あの濁った赤い瞳をもう一度見るのはちょっぴり怖いけれど……。
「……むーん」
ロキの手をきゅっと握ると、ロキは俺の気持ちを察したみたいに手を握る力をグッと強めた。
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