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六章
188.わかりきった未来
「むーん……」
あの夜会の日から数日。
俺は未だにちょっぴり痛む腰を休ませながら、ロキの部屋のソファでぐでーんと横になっていた。
うつ伏せで横たわる俺を膝枕したロキが、よしよしと優しい手つきで腰を撫でてくれるけれど……正直、心地良さよりもあの日の快感を思い出してしまいそうでちょっぴり恥ずかしい。
ロキの膝にうりうりと額を押し付けて照れくささに耐えていると、やがてロキがもう片方の手で俺の頭を撫でながら語りかけてきた。
「ねぇルカ。まだ決心はつかない?それとも、もう少しかな。そろそろ俺、少し寂しいよ……」
ロキはあの日から、二人きりの時だけ俺のことを呼び捨てするようになった。
ちゃん付けをやめてサラッと紡がれる名前は、まるで最大限の親しみを籠めているみたいでそわそわする。なんというか、微かだけれど、ロキの“本気”を感じる呼び方だ。
そんなロキは、俺を『ルカ』と呼び捨てる時にこうして甘ったるく、まるで恋人にでも向けるような蕩けた声で言葉を紡ぐ。
甘えるような声音で囁かれたそれに、俺はここ数日で何度目かの赤面をしながら答えた。
「むん……ごめんなさい、だぞ。まだ、ちょっぴり怖くて……よく、わかんないんだぞ」
ロキの膝にむきゅーっと顔を埋めながら、小さくもごもごと答える。
頭上から、ロキが「そっかぁ」と寂しそうに呟く声が聞こえた。胸がきゅーっと締め付けられるけれど、実際まだ分からないというのは本心だから、そう簡単に受け入れることはできないのだ。
この会話が何を指しているのかというと、ずばりロキと俺の婚約についてだ。
俺とロキのアッハーンな夜がなぜか周知されているようで、実質ロキの相手も俺の相手も、世間的には互いしか認められないこの状況。例の子供に手を出すなという暗黙の了解が響いているみたい。
未来がほぼ確定している今。それでも俺は、厄介にも未だ婚約という選択を受け入れ切れずにいた。
それがどうしてかというと……。
まず言っておくけれど、別にロキが嫌いだからというわけではない。むしろ、ロキのことは大好きだ。こうして膝枕されるのも、こんなに至近距離でくっつくのもまったく嫌じゃない。
でも、この“好き”が果たして恋愛的な意味を指すものなのか。その判断がいまいちつかないから、こうしてうじうじと悩み続けてしまっていた。
「急かすようなこと言ってごめんね。俺はいつまでも待つつもりだよ。どうせ俺とルカが結ばれる未来は変わらないからね」
最後のサラッと零されたロキらしい発言は置いといて、いつまでも待つという言葉は今の俺にはとっても救いになる。
無理やり『早く結論出せ!』とか『ちんたらすんなチビ!』とか言われても、俺ってばきっと混乱しちゃうだけだし……。急かさないでくれるのは、ものすごくありがたい。
のそのそと芋虫みたいな動きで起き上がり、対面になるようにロキの膝に乗り上げてぎゅっと抱き着く。するとロキがピタァッと硬直して、息を呑むような気配がした。
急にぎゅってしたから、びっくりしちゃったのだろうか?
「ル、ルカッ……?」
震える手が腰と背中に回される。
ぽかぽかぬくぬくな抱擁が嬉しくて、俺も更に強くむぎゅーっと抱き着いた。ぬくぬく、ぽかぽか。
「ロキ。おれ、チェレスに会うぞ。それで、悪いやつみんなやっつけたら……そしたら、その」
ちら、と上目遣いすると、ロキは真っ赤な俺の顔を見てぱちくり瞬いた。
言葉にするのはちょっぴり照れくさいけれど、とはいえこのままのらりくらりと躱し続けるってのも、ロキに対して失礼なことだと思うから。
だから俺は、もじもじと身体を揺らしながら、羞恥に染まった顔でぽつりと呟いた。
「……す、好きかどーか、きちんと言うぞ」
ぽそぽそと呟いたそれは、小声にもかかわらずしっかりとロキの耳に届いたらしい。
ロキは俺のセリフを聞いて一度目を見開き、すぐにぱぁっと瞳を輝かせた。そ、そんなに嬉しそうにしなくても……むん、べ、べつに嫌ってわけじゃないけども。
ぎゅうっと強く抱き締められて「ぐぇっ」と呻く。ロキはむぐむぐぷはぁっと顔を出した俺にちゅっちゅの嵐を降らせ、それはもうとーっても幸せそうにふにゃりと笑った。
「うん、うんっ。ありがとう。ルカ、ありがとう。返事、期待してるね」
むぎゅむぎゅっと抱擁を強くするロキを、ふすふすと照れくさく思いながらも受け入れる。
返事を期待していると言われる時点で、なんだか結果が目に見えているような気もするけれど……えぇいそんなことはないぞ、しっかり考えるんだ。しっかり考えて結論を出すんだからな。
「それじゃあ、さっさと全部終わらせなきゃね。俺達のラブラブな未来のために」
「まっ、まだ決まったわけじゃないぞっ!らぶらぶじゃないぞっ!」
「あぁそうだったね。“まだ”早いよね、早まってごめんねルカ」
「むん、むぅ……」
まるで未来なんて既に確定しているかのようなロキの言い方に、ちょっぴりドキドキしてぷぎゃーっと反論した。
なんか余裕ぶっこいてるけど、まだ未来がどうなるか、俺の選択がどうなるかなんて分からないんだからな。ふんすふんすだぞ、まったく。
ぷりぷりとほっぺぷくーをする俺にちゅっちゅ攻撃をかましながら、ロキは上機嫌にごめんごめんとニマニマ笑った。
「俺達の恋路を悉く邪魔する馬鹿共みんなぶっ殺したら、安心してお外に出られるからね。また公園に遊びに行ったり、お菓子を食べに行ったりしようね」
「むっ、うむ!楽しみだぞっ」
発言の前半はスルーするとして、後半は普通にとっても楽しみなので素直にルンルンと頷いた。
今は危ないからと外出を控えるように言われているけれど、いつか自由に遊び回れるようになればいいな。そしたら、ロキと一緒に楽しく遊ぶんだ。
「えへへ、楽しみ、たのしみ」
でもそのためにはやっぱり、まずは全部終わらせないと。
なんて。ロキとの楽しい未来をこうも自然に考えている辺り、ぶっちゃけ答えなんてとっくに決まっているのかもしれない、とかなんとか……。
ロキにぎゅーっと抱っこされる中で、ドキドキ高鳴る胸元にこっそりと手を当てた。
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