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六章
193.王さまのおはなし
実は国王に会いにきたのは、本題のついでだ。
父がチェレスの尋問を担当しているのだが、どうやらチェレスが『ルカ・ベルナルディに会わせなければ何も吐かない』と断言した後、黙秘を貫いているらしく……それを知った俺が、父にワガママを言って同行させてもらった、というのが今日までの流れだ。
あのビビりなチェレスが、“父の尋問”に耐えているというだけでも違和感ありまくり。これは俺が出動せねばならんじゃろ!と、父の反対をなんとか押し切ったという次第である。
そして、なぜ国王への謁見も兼ねているのかというと、今回が初めての王宮だから。
父やアンドレアはともかく、俺は初めて王宮に足を踏み入れるということで、一応挨拶ということ謁見をすることになったのだ。
本音としてはさっさとチェレスに会って、さくっと父の尋問に一役買いたいのだが……まぁ、これも大切な『礼儀』ってやつだ。
マナーにうるさい元日本人の意識を覗かせて、ムダな気がする挨拶もさっさと終わらせよう。
さっさと終わらせる……つもりだったのだが。むぅ、これは予想だにしない罠だぞ……。
「もぐもぐ。もぐもぐ。うまし、うまし」
大変である。ぴーぽーぴーぽー!である。
王宮のお菓子がこんなに美味しいなんて、そんなの聞いてなかったんだぞ。初耳なんだぞ。
国王を前にしてもおかまいなしに、用意されたお菓子をぱくぱくっと口の中に放り込む。お行儀が悪いことは重々承知なのだが、いかんせん手が止まらないのでどうしようもないのである。
お皿にのっていた分のマドレーヌを全部食い尽くしたところで、ハッと我に返った。
「はっ!うぅ……またやっちまったぞ……もぐもぐしちゃったぞ、悪い子だぞ……」
ぐすんぐすん、めそめそ、と自分の不甲斐なさを恥じていると、ずっと俺のもぐもぐを見守っていたらしい隣のロキが、ぎゅっと慰めるみたいに抱き締めてくれた。
「ルカちゃん、よしよし。いっぱい食べていたね。ほっぺリスみたいに膨らませちゃって、すっごく可愛かったよ。可愛いから全部セーフだよ。いい子いい子」
「ふえぇっ!ロキぃっ!」
俺からもひしっ!と強く抱き着く。ふんふん、セーフって言ってくれてありがとだぞ。
なんて、いつもみたいな茶番を繰り広げた後、再びハッとした。まずいぞ、一国の王さまを前にこんなに情けない姿を晒しちゃうなんて……流石の国王も、さぞ怒っているに違いないんだぞ。
そろりそろーり……こっそり国王の様子を窺ってと……むん?
む、むむぅっ……な、なんじゃ、あの孫を見るおじいちゃんみたいな緩い笑顔は……?
「ほう。いくら天使と噂されていようとも、所詮はベルナルディの子。どうせ本性は血も涙もない冷酷な悪魔かと思っていたが……まさか本当に天使だったとは!うぅ、感激だ、感激だぁ……」
「むん?な、なんで急に泣いてるんだ……?こ、こわいぞそわそわ……」
「しっ!ルカちゃん、見ちゃいけませんっ」
突然泣き出したビビりおじさん(王さま)にドン引く俺を、ロキが変なおじさんから守るみたいにぎゅうっと抱き締めてくれた。ぬくぬく、ぽかぽかで安心だぞ。
「はぁ……そろそろ宜しいか、陛下。不躾に我が子をジロジロと見ていないで、さっさと本題に移っていただければと思うのですが」
「むぅ、一体どんな遺伝を経ればこんな悪魔から天使が産まれるのか……げふんげふん!承知した、さっさと本題に移ろう。ここは銃器厳禁だからな、忘れるでないぞ」
国王がぐちぐちと何やらイケないことを呟いた瞬間、父がマフィアの目になりながら拳銃をチラつかせた。もうどっちが王さまなのかわけわかめである。
それにしても、実際に会ったことで国王の印象がちょっぴり変わったなぁ……。
ただのビビりさんかと思っていたけれど、こうして父を前に軽口を叩けるくらいだし、実はビビりってだけじゃないのかも。まぁ、ビビりってだけで国を治められるわけもないし、考えてみれば当たり前のことなんだろうけれど……。
「実は……王位を退くことにしたのだ。此度は、それを事前に伝えておこうかと思ってな」
こほんっという咳払いのあとに紡がれた、予想外の割と重大な発表。
思わず咥えていたクッキーをポロリして「ふぇっ!そなの!」と友達感覚で叫んでしまった。ちょいちょい俺、このおじさん、一番偉い王さまぞ?
「あっ、ごご、ごめんなさいだぞ」
よく喋るお口に手を当てる。おくちチャック、チャックだぞ、むぐむぐ。
やかましい俺を鬱陶しがる様子もなく、むしろ国王は「癒しだ、癒しだ。ベルナルディの謁見で癒しを感じたのは初めてだ」とまた泣き出した。王さまなのに情緒がブレブレで不安だぞ。
「ぐすん。まぁ、そういうことだからの、王太子を、陰ながらフォローしてやってほしいのだ。なに、王家に忠誠を誓えというわけではないからの」
へにゃりと、相変わらず情けない笑顔を浮かべる国王。
そのセリフには……たぶん本当に政治的な意図なんて含まれていなくて、最後の親心ってやつが大きく含まれているのだろう。ビビりでも、一応ちゃんとした父親ではあったみたいだ。
いつもならどうでもいいとばかりに一蹴していただろう父は、国王の突然の宣言に、無表情でぽつりと呟きを零すだけだった。
「そうですか。扱いやすい王だっただけに、残念です。貴方の治世は可もなく不可もなく、歴代で最もマシな部類だったのですが」
「どうせ隠居するからと言いたい放題だな」
二人のちょっぴり感傷的なやりとりは完全スルーで、アンドレアは何やら不機嫌そうにブツブツと恨み言を連ねていた。
「あのクソ王太子が王になるのか……アホなことを仕出かさないよう、即位前に一度灸を据えておくべきか……」
「賛成だよアンドレア。場合によっては排除して俺たちが王になろう」
王さまの前でよくもそんな好き勝手言えるわね……と、俺ってばちょっぴり涙目で震えてしまった。
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