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六章
194.王弟と再会
国王への謁見を済ませると、ようやくチェレスに会えることになった。
流石にここからは私情だし、来てもつまらないんじゃないか?とロキに聞いてみたら『俺を突き放すの?あんまりだあぁっ!』とガチ泣きされてしまったので、何も考えずに問いを発したことを後悔した。
ごめんよロキ、ぎゅっぎゅ、と抱き締めてやることでようやくフォローが成功。ロキの沸点がよくわからんってこと忘れてたぜ。俺ってば反省、反省。
「いいかルカ。この先はルカには少々刺激が強い場所だ。具合が悪くなったらすぐに言うように」
とまぁ、そんなこんなでやってきた、王城地下牢へ続く扉の前。
父が最後の忠告とばかりにそう言ってきたので、俺はむんっと顔を上げてこくりと強く頷いた。
「わかりましたっ!だいじょぶです、ありがとございますっ!」
「うむ。アンドレア、ルカのことをよく見ておくのだぞ」
ふんふんっ!と意気込む俺をよしよししながら、父がサラッとアンドレアに俺の監視を頼む。
「了解です」と当然のように頷くアンドレアと、それを受けてうむと頷く父にもちょっぴり涙目を向けてしまった。ふえぇ、だいじょぶってきちんと言ったのにぃ。
なんだか信用されていないみたいでちょっぴり不服である。ふすふすっ。
ふすふすっとする俺の手を、ロキがぎゅっと繋いでくれた。むん……ま、まぁ、たしかに地下牢は暗くて怖いから、手くらいなら繋いでやってもいいんだぞ。ふん、ふん。
ロキとしっかり手を繋いだ俺を見下ろすと、父が衛兵に軽く話しかけた。地下牢の入り口をついに開けるみたいだ。
「ルカ。さっき言ったことを忘れるな」
そう言って、父は地下牢への入り口を静かにくぐった。
***
地下に入った途端、空気が一気に変わったような気がした。
なんだかとっても寒いし、ちょっぴり気持ちの悪い空気だ。ベルナルディ邸の地下牢にも似ているけれど、それ以上に道が長くて、広くて、雰囲気もじめっとしている。
肌に刺すようなひんやりとした風が気になって思わず震えると、ロキが何も言わずにジャケットをかけてくれた。
ロキの匂いがついたジャケット。それをスンスンと嗅ぐと、そわそわしていた身体がちょっぴり落ち着いた。いい匂い、くんかくんか、ふしゅー。
「ここだ」
ジャケットの匂いを嗅いで心を落ち着かせながら進んでいると、やがて父が一番奥の扉の前で立ち止まった。地下牢の最奥……大罪人が投獄される場所だ。
心なしか、さっきよりも更に空気の淀みが増した気がする。思わずロキと繋いだ手にぎゅうっと力を籠めると、ロキも俺のちっちゃな手を包み込むみたいにぎゅっと繋ぎ直してくれた。
父の指示で、牢の両脇に立っていた牢番が物々しく扉を開く。
真っ暗な牢の中はよく見えない。父とアンドレアに続くように、ロキと一緒に中へ入った。
「──あぁ、ようやく会えた」
足を踏み入れた瞬間に聞こえた、甘ったるい色さえ含んだその声。
驚いてピタリと足を止めた。その声が、俺の知っているチェレスのものとは違うように感じたから。
父とアンドレアが、俺を守るように前を塞いでくれる。二人の間からそろーりと顔を覗かせると、惨い光景が視界のど真ん中に映って、思わず吐き出そうになった嗚咽を寸前で堪えた。
チェレスは血まみれで、既に生きているのが不思議なくらいにボロボロになっていた。
幾本もの重く太い鎖に繋がれ、まったく身動きが出来ないのだろうとすぐに悟るほどの厳重な拘束。
パサついた髪に、薄汚れた肌。痩せこけていることに加え、傷だらけの身体。
俺の知るビビりのチェレスなら、きっと耐えることが出来ないであろう無惨な姿。
けれど、チェレスは笑っていた。ただ真っ直ぐに、濁った赤い瞳で俺だけを見つめて。
「やはり美しい……!其方こそ、私の望んだ“最後の贄”だ……!」
高く笑うチェレス。そのセリフに首を傾げる。
俺がチェレスの望んだ最後の贄?それは一体どういうことだろう。みんなの反応を見る限り、どうやら父もアンドレアも、そのセリフの意味を理解できていないようだけれど。
もしかして、これがチェレスの“黙秘”した内容の一つなのだろうか。
黙り込んでいると、チェレスはふいにピタッと高笑いを収め、視線を父に向けて語った。
「……ルカ・ベルナルディ以外の者はここを出ろ。そうでなければ何も話すことはない」
「なッ、話が違うぞ……!」
チェレスの発言を聞いて、お怒りのオーラをぶわっと放ったのはアンドレアだった。
けれどすぐに、父に肩をポンと叩かれたことで冷静さを取り戻す。どうやら父もアンドレアも、こういう事態は想定済みだったみたいだ。
「残念だが、ここに子供のみを残すことは規定により禁じられている。それは不可能だ」
父がハッキリとそう断言する。思わずぱぱぁっ!と抱き着きたくなったけれど、実際はそれよりも心配の方が勝ってしまった。
どうして。俺が一人でチェレスのお話を聞けばいいだけなのに。心配しなくたって、こんなに厳重に拘束されたチェレスじゃ、流石に暴れたりはできないはず。
それなのに、父は俺の安全を優先してくれたのか。
「お父さま。おれ、だいじょぶです。俺が、おはなしきちんと聞きます」
「ルカ……それは駄目だ、許可できない。お前の身に万が一のことがあれば……」
俺のセリフに、父はぐっと眉を顰めて低く呟いた。
父の気持ちは嬉しいけれど、俺はここに父の役に立つべく参上したのだ!一人でお話を聞くのは危ないからってだけで諦めて帰るのは……それは、男が廃るってもんである。
ふすふすっと意気込む俺を困ったように見下ろす父。その構図が数十秒ほど続くと、やがてチェレスは仕方なさそうに溜め息を吐いた。
「はぁ……まったく、このままでは埒が明かないな。よかろう、その男だけなら同席を認める」
観念したようにチェレスが視線を向けたのは、まさかのロキだった。
父もアンドレアも、チェレスの言葉に目を見開いている。それもそうだ、俺もびっくりしている。
どうしてよりにもよって、ロキの同席を認めたんだろう?仮に何か企んでいたとして、ロキはめちゃんこ強いから、この中だとトップレベルに大きな障害になりそうなものだけれど……。
なんて、グルグルとみんなが考え込む中で、ロキだけは特に動揺せず、チェレスの言葉を受け入れた。
「ルカちゃん、俺が守るからね。安心してね」
「うぇっ?あ、あぅ、うむ……」
あ、完全に要求を呑む感じ?
父とアンドレアをシッシと追い出そうとするロキを見上げて、順応が早いなぁとぱちくりしてしまった。
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