異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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六章

195.悪魔の儀



 ロキに後ろからむぎゅーと抱かれながら、鎖につながれたチェレスと対峙する。
 ちょっぴり湧いた臆病な気持ちを払拭するため、ふんすふんすと息巻いて気合を入れた。足を広げて、腕を組んで、仁王立ちして……っと。よし、形だけ大柄になったぞ!


「ふんふん、言うてみ。このおれに、なんのおはなしがあるというのかね?」


 とりあえず意識から騙していこうという心持ちなので、強キャラを演じて尋ねてみる。
 するとチェレスは、数秒ぱちくりと硬直し、やがて俺の強キャラムーヴをスルーして淡々と答えた。


「……うむ。そうだな、まずは“私”について、少し説明するとするか」


 むん?チェレスについての説明って……チェレスのことはもう大体分かっているけれど、改めて自己紹介でもしてくれるのだろうか。
 きょとんと首を傾げると、チェレスは「やはり何も聞かされていないようだな」と困ったように溜め息を吐いた。なんだなんだ、そういう含みのあるセリフはあまり使うなだぞ。
 俺はおバカなので、小説やドラマみたいに、含みのあるセリフの意図を理解してストーリーを進めることができないんだぞ。おバカにはメタ思考が通用しないからな。

 ふすふすとほっぺぷくーして続きを待つ。
 チェレスは仁王立ちする俺を見上げると、濁った赤い瞳をキラリと輝かせた。


「私は初代王弟、ダミアーノ。無念の死の末に、悪魔となった魂だ」

「……????」


 突然の謎自己紹介に、思わず頭にスパムみたいな量のハテナが浮かんでしまった。
 表情はキリッとクールな顔を保っているけれど、如何せん頭がすっからかんなので、かっこよく眉を寄せることしかできない。むむっ、むぅ?


「いやいや。なにを言っているのかね。おまえはチェレス、チェレスティーニだぞ。お父さまに痛いこといっぱいされたから、びっくりして記憶喪失にでもなっちゃったのかえ?」

「ルカちゃん、ルカちゃん。落ち着いて。この男の言葉は全て真実だよ。びっくりしているのはルカちゃんの頭の方ね」

「なぬっっ!」


 アホなのかえ?とちょっぴり煽りをまじえた言葉を吐いていると、ふとロキによしよしと頭を撫でられた。かけられるセリフにびっくり仰天する。ナンダッテー!

 どういうこっちゃ、なんのこっちゃ、とあわあわぐるぐる目を回すと、ロキが俺をむぎゅうっと抱き締めて、チェレスに『ちょっとタンマ』をしてくれた。
 ほっぺをムニュムニュ、額にちゅっちゅ。ロキ流の休憩を挟んだことでちょっぴり混乱が回復する。いや、今の応急処置が正しかったようには思えないけども。
 ほっぺをムニュムニュしたところで普通は落ち着くわけないんだぞ、とロキの行動に違和感を覚えたところで、チェレスが「もう良いか?」と話を続けた。


「この国で、赤い瞳が『悪魔の色』と呼ばれていることは知っているな?」

「むぅ……とーぜん、知ってるぞ。そのせいで、ロキがどれだけ傷ついてきたことかっ」


 背後から「ルカちゃんんん!」と抱き着いてくるロキを、後ろ手でよしよしと撫でる。
 むすっとほっぺぷくーしながら頷くと、チェレスは自嘲気味に笑ってとんでもない真実を口にした。


「その言い伝えが囁かれるようになった原因が、まさに私にあるのだ」


 本日二度目のナンダッテー!を済ませる。おてて万歳してピーン、目ん玉まんまる。
 びっくりして硬直する俺をそのままに、チェレスはスラスラと説明を続けた。ちょ、ちょっと待つんだぞ。おバカな俺にはそろそろキャパオーバーが過ぎるんだぞ……。


「私は生前、初代王家で唯一、獣人の血を色濃く継いだ王族だった。白い狼の獣人だ。瞳は赤く、当時の人間たちとは似ても似つかぬ容姿をしていた」

「むっ、む?白いオオカミさんで、赤い瞳……?」


 なんだ、それはまるで……ロキとまんま一緒じゃないか。
 思わずむくっと顔を上げ、すぐ後ろに立つロキをまじまじと見つめる。ロキはぱちくり瞬く俺を見つめ返し、ニコッと嬉しそうに笑った。いやいや、別に見惚れてたわけじゃないぞ。


「その頃はまだ、獣人と人間は友好的に手を取り合っていた。だが、次期国王を決めるとなった時、人間の差別的な本性があらわになったのだ」


 あぁ、これもなんだか、どこかで聞いた話だ。
 王さまになりたかった男が、獣人だからという理由で迫害され、その権利さえも奪われた。そういう話を、俺は以前も聞いたことがある。
 案の定チェレス……いや、ダミアーノは、思っていた通りの恨み言を口にした。


「獣が人の国の頂点に立つなど無粋だと、王である兄が言った。本来であれば私が継承する流れが自然であったというのに、兄は齢五歳にも満たぬ息子に王位を授けたのだ」

「五さいの男の子が王さまに?むーん、それはダミアーノのお兄さま、ちょっぴりナンセンスだな」

「そうであろう!そうであろう!」


 流石に五歳のちっちゃな男の子に、国の頂点という重荷を背負わせるのはいかがなものか……。
 思わず口にした苦言に、ダミアーノは待ってました!とばかりに食らいついた。


「そもそも、剣技の才も政の才もない兄とは異なり、私には王の素質があった。建国当時、周囲の者は私を王にとすすめたが……兄は王座を欲し、獣人への差別意識を皆に植え付けたのだ」


 なんだかなぁ……たしかに、ダミアーノの話を聞いていると、ちょっぴり可哀そうに感じてしまう。
 だって聞く限り、明らかにダミアーノのお兄さんが異常だし。ダミアーノが王さまに相応しいとみんなが言っていた、この話が本当なら、初代国王はとんだ差別主義者だ。


「それで、結局ダミアーノはなにをしたんだ?そこまで言うってことは、なにかしちゃったんだろ?」


 問い掛けると、ダミアーノは一瞬目を見開き、すぐにはっと笑みをこぼした。


「……あぁそうだな、私は結局、禁忌に手を染めた。兄への屈辱と無力感に耐えられず……悪魔の儀を実行した」

「あくまのぎ?」


 なんだ、そのいかにも悪そうな儀式は……。
 嫌な予感をふつふつと抱きながら続きを促す。ダミアーノは赤い瞳を仄暗く染めると、遠い目をして答えた。


「贄を捧げることで悪魔となり、永久の時を手に入れる禁忌の儀式だ」

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