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六章
196.永久の魂
な、なんだそれは。あからさまに恐ろしい匂いがプンプンしているぞ。
聞くだけでもガクブルだぞ……と震えていると、ロキがぱちくり瞬いて驚いたように語った。
「悪魔の儀?へぇ、本当にやるやついたんだね」
「むん?ロキ、くまくまのぎ、知ってるのか?」
「悪魔の儀ね。うん、かなり有名な儀式だよ。まぁ……言い伝えみたいなものだけれど」
てっきり流石のロキも『あ、あくまのぎぃ!?』とガクブルするかと思ったが、まぁロキなので全然そんなことはなかった。普通にスンとしている。物知りさんね。
ロキ曰く、どうやら悪魔の儀というものは、俺の認識でいう桃太郎みたいな言い伝え……いわゆる、お伽噺として広く知られているらしい。
なんでもさっきダミアーノが言ったとおり、永久の魂を手に入れることができる禁忌の儀式なのだとか。
……と、そこまで聞いた俺、ふとイケないことを思い付いちゃったので聞いてみることにした。
「そんな儀式があるなら、みんなやってるんじゃないか?ふろーふし、みんな一回はあこがれるだろ?」
きょとん、と首を傾げて聞いてみると、ロキはこんな状況なのに『かわいいかわいい』と俺を撫で回しやがった。なんだなんだ、急に子供扱いするのはやめろっ。びっくりしちゃうだろ。
ふんすふんすと不貞腐れる俺をよしよししながら、ロキは切り替えてきちんと答えてくれた。
「なにせ禁忌だからね。禁忌と呼ばれるまでの過程には必ず原因が伴う。悪魔の儀は、その“禁忌”の中でも群を抜いて悍ましいものなのさ」
ふんふん。よくわかんないけど、つまりすっげーペナルティがあるってことか。
たしかに、お店を出禁にされるには理由があるし、メッと叱られるのは悪いことをしてしまったからだ。禁じられるということは、その儀式に何かしら悪いところがあるという証拠になる。
して、悪魔の儀のペナルティとはなんじゃろか?と瞬くと、ロキが低く囁いた。
「悪魔の儀の発動条件は、贄を捧げること。アホの子のルカちゃんにも伝わるように簡単に言うと……たくさんの人間を殺さないと発動しない、ってことだよ」
「ななっ、なぬーっ!?」
俺ってばびっくり仰天。あわあわ、そわそわ。
思ったより恐ろしい理由だったからびっくりしちゃったぞ。てかフツーにこわいぞ、泣いちゃうぞ。
悪魔の儀の恐ろしい発動条件を聞いてしまった俺は、慌ててロキのぎゅーからすぽーんと抜け出し、とたとたっ!とダミアーノに駆け寄った。
ふえぇっと怖くて泣いちゃいそうになりながらも、必死に血まみれのダミアーノ……いや血まみれなのはチェレスか、とにかく目の前の男に声を上げた。
「お、おまえ!なんにも悪くない人をいっぱい殺したのかっ?それはだめだぞっ!さっきはお兄さんサイテーだなお前可哀そうだなーって思ってたけど、さすがにフォローできないぞっ!」
「うーん、マジレス」
あわあわと涙目で語る俺の背後では、ロキがあらあらと言わんばかりに独り言みたいなツッコミをこぼしている。そんなことしてないで、ロキもダミアーノをメッ!するんだぞ。
ぴえぇっと語る俺を見据えたダミアーノは、ふいにハッ……と嘲笑を浮かべて呟いた。
「何を言うか。悪いのは私を認めず、他種族差別から目を逸らした愚かな人間共だ。あのまま史実から私の存在が消え失せ、その後も差別を続けながら国が続いたのなら……きっとこの国は、いつか差別意識の根強い愚かな国になると私は悟ったのだ」
「す、すごいぞ。予言大当たりだぞ……」
やってることはただの大犯罪者だけど、言ってることは正直めちゃ正しいぞ。
たしかに、初代の王さまからそんな調子だったせいで、この国はどんどん獣人差別を根強く広げてしまったのだろう。それはダミアーノの言う通りかも。
でも、だからってどうして悪魔の儀をしようと思ったんだ?ダミアーノの目的は一体なんなんだ?
そこがいまいち分からず悶々とする俺を察したのか、ダミアーノはスラスラと説明を続けた。
「言っただろう、王座を兄に奪われたと。私はただ、本来手に入れるはずだったものを取り戻したかっただけだ。そして、この国の腐敗を私の手で駆逐したかった」
つらつらと紡がれるセリフを聞いて、ふいにきょとんと首を傾げた。
うーむ、やっぱり色々と既視感があるぞ。
ダミアーノは自分が初代王弟だというけれど、ぶっちゃけ俺は最初からダミアーノに違和感を抱いていなかった。それは、本来その身体の主であるチェレスと、あんまり人格の違いを感じなかったからだ。
そしてそれこそが既視感につながっている。その既視感が気になって、俺は思わず尋ねてしまった。
「おまえ、チェレスとおんなじこと言うんだな。王さまになりたいって、おんなじだ」
ダミアーノが俺の言葉を聞いてぱちくりと目を丸くする。
かと思うと、おかしそうに小さく吹き出した。むっ、何か変なことでも言ったかね。
「それはそうだろうな。コレは私と同じ境遇を歩んだ器なのだから。私が悪魔の儀によって遺した呪いは、今も尚王家に継がれている。“今回は”この男だった、それだけの話だ」
「のろい……うつわ……」
「まぁ、本来であれば今回の器はその男だったのだが……上手くいかず残念だ。こんな出来損ないの器よりも、遥かに優れた獣人であったというのに」
「むっ、なぬ?」
いまいち理解できずにうむうむ唸っていると、ダミアーノはふいに惜しむような視線をロキに向けた。
なんだなんだ、どういうこっちゃ、とぱちくりしながら振り返る。反応を見る限り、どうやら流石のロキも少し驚いているようだ。
「俺が今回の器?それはどういう意味かな」
珍しく、ロキが警戒の色を滲ませて俺を抱き寄せる。
突然不穏になった空気にあわあわする俺を置き去りに、二人の不穏な会話は淡々と続いた。
「言葉の通りだ。お前は私の血を色濃く継いだ子孫。この出来損ないが誕生しなければ、今回の“永久の魂”の器は本来お前になるはずだった」
永久の魂の器?
よくわからないけれど、ロキを傷つける嫌な内容だってことは何となく察した。
俺を背後からぎゅーっと抱き締めるロキの手が、微かに震えているのに気が付いたから。俺は咄嗟にピーンと手を挙げて、一触即発の二人の間でくわっと叫んだ。
「むむぅっ、すとっぷ!タイムオーバーだぞっ!」
直後、牢の中がシーンと静まり返る。
きょとんとするダミアーノ、ポカンと固まるロキ。そんな二人の間で忙しなくもぞもぞと動き出すと、俺はロキの手を強く握ってとたとたっ!と駆け出した。
「今日はかいさんっ!おやつの時間におくれちゃうので、これで失礼するんだぞっ!」
背後から「は、おい、急すぎるだろう」という声が聞こえるがスルーだ。今はロキのメンタルケア優先。いつもは鈍い俺だけど、こういう時の勘は誰よりも冴え渡るのである。
ロキはさっき、間違いなく傷ついた。柄にもなく衝撃を受けていた。
むぎゅうっと強く握った手に力がこもる。力をこめたのは、俺じゃなくロキだ。
これだけ尋問を済ませれば、ちょっぴりは父の役に立ったと言えるだろう。うむ、任務完了だ。
そう自分に言い聞かせ、俺は重たい鉄扉をこじ開けて外に飛び出した。
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