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六章
198.わるもの
あれから数日経ったけれど、やっぱりダミアーノは俺以外の尋問では黙秘を貫き続けているらしい。
父の反対を押し切りながらロキと二度目の尋問をしてみたけれど……俺が尋ねると大抵迷いなく答えるから、むしろダミアーノが黙秘する状況の想像がつかないくらいだ。
今日も今日とてダミアーノとの尋問をするために王宮へ来たわけだけれど……ふいにとある疑問が湧いてしまった俺は、尋問までの待ち時間、客間でお菓子をもぐもぐしながらロキに問い掛けた。
「なぁロキ、そもそも、なんでダミアーノの尋問をしてるんだっけ?」
マドレーヌをぱくっと頬張りながら尋ねると、ロキはぱちくり瞬いた。
どういう意味?と視線で聞き返されたので、ちょっぴり説明が足りなかったかと反省しながら、もう一度うーむと答える。
「えぇっと、ほら、ダミアーノは黒幕だろ?それじゃあ、尋問する意味ってあるのか?」
「あぁ、なるほど。確かに、本来であれば反乱軍の主犯を捕らえたらすぐに処刑だもんね」
「う、うむ……」
そ、そうなんだ。本当ならすぐ処刑しちゃうんだ……とちょっぴり物騒な想像をしてしまい、慌てて思考をぶんぶんっと振り払う。だめだめ、ギロチンの想像なんてしちゃだめだぞ。
ぷるぷる震えながらも、冷静を装ってクールに頷く。するとロキは「うーん、そうだね……」と逡巡するような様子を見せつつ語った。
「まぁ一番は、陛下が望んでいるからかな」
国王が望む……?
そりゃあ一体どういうこっちゃ、と目ん玉を丸くしてぱちくりすると、ロキは困ったように笑った。
「言葉の通りだよ。ダミアーノの証言によって、歴史上の王家の腐敗が明らかになったからね。陛下としては、その辺も全て調べつくしてからじゃないと処刑は出来ない!って感じなのさ」
「ふむぅ、なるへそ……」
マドレーヌぱくぱく、クッキーもぐもぐ。
ほっぺをリスみたいに膨らませながら、ロキの説明にむぐぅと唸る。いや、国王の気持ちはとってもよく分かるぞ。でも、なんか、王さまってば第一印象と色々違いすぎて、ついてけないんだぞ。
王家の腐敗だとか、きちんとそういうものに目を向けるタイプの国王だったのか。はじめましての時があまりに頼りなさすぎて、フツーに『あっ、ふぅん』と色々察していたのだが……全然察し切れていなかったみたいだぞ。
「王さまは、なんとも思ってないのかな。ダミアーノって、チェレスのからだを奪ったんだろ?おとうとが、大変なの……なんとも思わないのかなぁ」
ちょっぴり複雑なことを考えてもぐもぐしていると、ロキは何てことなさそうに頷いた。
「うーん、別にそんなものじゃない?弟の前に反逆者だし、普通に考えて後者の方が重いでしょ。陛下から見ても、対峙しているのはあくまで弟じゃなく反逆者って認識だろうし」
「……むん」
ちょっぴりしょんぼり。しょぼぼん……と肩を落とした俺を、ロキが慌てて抱き寄せた。
どうしたの?俺なにか嫌なこと言っちゃった?と焦燥を滲ませて尋ねるロキにむんむんっと首を横に振る。べつに、そういうわけじゃないんだぞ。
俺は他人だから、正直言って、ダミアーノもチェレスも可哀そうに感じてしまう。
でも、王さまはそうじゃないんだ。血の繋がった兄弟でも、立場の方が優先されないといけないし……うまく言えないけれど、なんだかみんな、可哀そうだ。
部外者の俺はいくらでも考えられるし、なんでも言える。ぶっちゃけ獣人差別を抱えたまま国王を決めるのはいかがなものかね、とか。
なんて、そこまで考えてふと思った。そういえば……と眉を寄せ、ロキに聞いてみる。
「王さまって、獣人差別するのかな?」
ふと抱いた疑問。それはずばり、王さまワルモノ説!
チェレスの証言を思い出したのだ。チェレスは、自分が王さまになれなかったのは、廃嫡されたからだって言っていた。廃嫡は継承権のはく奪って意味だから……ここからどんな努力をしても、そもそも王さまになる権利を持ち合わせないから無理ってこと。
考えてみれば、獣人の血を色濃く継いでいるってだけでチェレスを追い出したやつらもワルモノだ。俺は甘ちゃんなので、そう思う。
もし今の王さまが、チェレスの廃嫡に加担したのなら……それはどうなんだね、と眉を寄せると、ロキは小さく首を横に振った。
「いや、陛下は例の廃嫡騒ぎには加担していないよ。寧ろその頃の王家の毒は、陛下の父親である先代国王と言えるだろうね」
「せんだい……王さまのパパが、ワルモノだったってことか?」
「うぅん……まぁ、ルカちゃんに伝わる言語でまとめるなら、そういうことになるかな」
なんだなんだ、失礼だぞ、悪意を感じるぞっ!
ふんすふんすと息巻く俺をどーどー宥めながら、ロキがワルモノの先代国王について語る。
「先代国王は典型的な獣人差別主義者だった。だから当然、獣人の血を色濃く継いだ王弟に関しては、産まれた瞬間に廃嫡することを決めていただろうね」
「むぅ……先代さん、サイテーだぞ。そいつのせいで、チェレスがひねくれたんじゃないか」
ふすふすっと怒りをあらわにしながら言うと、ロキは微かに笑んで俺の頭をよしよしと撫でた。
「ルカちゃんは優しいね。たとえ反逆者が相手でも見捨てないなんて」
「そういうんじゃないぞっ。チェレスは悪いことしたから、罰を受けるのは当然なんだぞ。でも、チェレスに可哀そうなことしたやつらにも、罰がないとおかしいぞ……」
実の兄に嵌められ、王さまになれなかったダミアーノ。実の父親に差別され、産まれた瞬間から酷い未来が確定してしまったチェレス。
似た者同士の二人。ダミアーノに初対面でそれほど違和感を抱かなかったことも説明がつく。
正直どっちも可哀そうだ。しゅん……。
しょんぼり落ち込んでいると、ふいに客間の扉がノック無しで開かれた。
ロキがいるってのに、ノックもせず入って来るなんて命知らずなやつだなぁ……と振り向き、ハッと目を見開いた。
「ここにいたか。探したぞ、花嫁」
「お、おっ、おうじさまっ!」
予想外の人物、王太子殿下が現れたことで、びっくり仰天ぴゅーんと飛び上がる。
慌てて立ち上がり、マドレーヌをもぐもぐしながらあわわっと頭を下げた。
「おひさしぶりでしゅもぐもぐ。どうかしましたかもぐもぐ」
わざわざ俺を探して会いに来るなんて、一体どんな用件があるってんだ?
あと花嫁っていうな、とメッしながらお辞儀する俺のもとに、王子さまがスタスタと歩み寄ってきた。
「不敬ですよ殿下。俺の“婚約者”のおやつタイムを邪魔しないでいただきたい」
「む?なんだ。久々に会ったかと思えば、相も変わらず無礼な奴だな。王族に不敬とは何事か」
俺を守るみたいに前に立ったロキが、王子さまにニコニコ笑顔を向けて挨拶する。とても王族相手にするものじゃない挨拶に、なぜか俺があわあわと青褪めてしまった。
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