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六章
203.おかしなロキと救世主たち
「ロキ?ロキ、どうしたんだっ?」
なんだかやばめの空気……それを察して、とりあえず慌ててガウンを羽織る。適当に着たから恰好がぐちゃぐちゃだけれど、今はそんなことよりもロキだ。
苦しそうに呻きながら蹲るロキ。そんなロキにもていやっとガウンを羽織らせ、もこもこの布の上から背中を撫でてあげた。よしよし、しっかりするんだぞ……。
やっぱりロキってば、具合が悪かったんだ。きっとそうに違いない。
だからいつもと様子や行動がおかしかったんだな。そりゃそうだ。いつものロキなら、ぜったい俺に痛いことなんてしないもの。え、えっちなことだって、もっと優しく進めてくれたはず。
だから、さっきのは体調不良が原因。うむ、納得だぞ。わかったらさっさと何とかするんだぞっ。
「ろき、ろきぃっ!だいじょぶか?死ぬな、しぬなだぞーっ!」
それにしても大変な事態になった。
さっきからサーッと蒼白したロキは、はくはくと口を開いたり閉じたり、心臓の辺りを押さえて蹲ったりと、とにかく尋常じゃない様子だ。
このまま背中を撫でていればいつかは治るか……?いや、ここはさっさとリカルド様にでも助けを求めて、お医者さまを呼んでもらった方が……いやいやっ、でもその間にロキに何かあったら……!
色々な不安が湧いて、消えて。どうしたものかとぐるぐる悩みこんでいると、ふいにロキがピタッと動きを止めた。
「……?ロ、ロキ?だいじょぶか……?なおったのか……?」
恐る恐る声を掛ける。発作みたいな症状も収まったようだし、とりあえずは治ったのかな……。
心配しながらそろーりと近付く。すると、ロキは突然ガバッと勢いよく飛び起き、また例の貼り付けたような笑顔を浮かべて答えた。
「──うん、大丈夫。心配しないで」
さわさわと頭を撫でられる。さっきまでの蒼白顔を笑顔に戻して、なんてことなさそうに起き上がったロキを見てほっと息を吐いた。
よかった。よくわかんないけど、とりあえず無事のようで何よりだ。
でも……さっきのは本当にびっくりした。いつも飄々としたロキが発作を起こすなんて、初めてのことだ。何か酷い病の前兆とかだったらどうしよう。
心配になった俺は、あわわっと眉尻を下げながらベッドから下りた。
「病気だったら大変だから、お医者さまをよんでくるぞ。ロキはしっかり休んでいて……むにゃッ!?」
んしょんしょ、と歩き出そうとしたところで、背後からひょいっと引き戻された。
またもやベッドに逆戻り。なんだなんだと目を回す俺に、ロキはニッコリ笑顔を浮かべながら「行かないで」と呟いた。
「本当に大丈夫だから。ね、だから本当に心配しないで」
「あぇ……で、でも……」
流れるような動きでぽすっとベッドに押し倒される。あれれ、なんだかさっきの二の舞になっているような……。
あわあわと困惑する俺の両手をひとまとめにすると、ロキは笑顔のままガウンの紐で手首をぐるぐる巻きにした。
突然腕を拘束されたことで、本格的に違和感が湧き上がる。どういうこっちゃと眉尻を下げる俺に手を伸ばすと、ロキはまた苦しそうに心臓を抑えた。こ、今度はなんだってばよ!
「ッ、は……危害を加えるのは許さないということか……」
何やらぼそぼそと呟き、口角を上げて歪んだ笑みを浮かべるロキ。
さらりと零れた前髪のせいで表情がよく見えない。さっきから香っていた甘ったるい匂いに鼻をくすぐられながら、とりあえず手首の拘束を解かなきゃとうにゅうにゅ動いた。
よく分からないけれど、何となく、この状況はマズい気がする。いや、何がマズいのかとか、そういうのは曖昧だけど……とにかく、何かがやばい気がするのだ。
「──だが、ようやくここまで来たのだ……諦めてなるものか……」
よっしゃ!紐が外れたぞっ!そしたらそぅっとロキから離れて……──
「ぷぎゃっ!」
「どこへ行こうというのだ」
のそのそと芋虫みたいに這って抜け出そうとした時、フツーに俺の脱出劇に気が付いていたらしいロキに首根っこを掴まれて引き戻されてしまった。
ガウンの首のところ。そこを思いっきり引っ張られたせいで、首が絞まってちょっぴり呼吸が出来なくなる。
加えて、あのロキに苦しいことをされたという衝撃が強く響いて、あっさりと抵抗する力が失せてしまった。
「はぇ、え、ろき……?あぐッ!」
今度は後頭部を掴まれて、顔からベッドに叩き付けられる。
ベッドがふかふかだから、特に痛くもないしケガもしていないけれど……それよりも、恐怖のせいで身体がガクガクと震えて、全く動くことができない。涙もぽろぽろと溢れてきた。
ひどい。ロキ、ひどい。どうしてこんなに苦しいことするんだ。こわい、こわいぞ……。
「えぐっ、うぅ、うえぇっ」
シーツに顔を埋めたまま号泣する。
恐怖で縮こまった身体に、ロキが背中から覆い被さってくる。お尻の穴にぴとっと触れる熱い感触には覚えがあって、だからこそ更に涙が滲んだ。
ちゅーもぎゅーもしてない。そこ以外にどこも触っていない。なのに、もうソレをいれようっていうのか。そんなの、おばかな俺にもわかる……ぜったい、ぜったい痛いに違いない。
「やめて、やめて……ろき……やだぁ」
力無く声を上げるけれど、それでもロキが止まる気配はない。
どうして。俺、もしかして知らないうちに何かしちゃったのか?怒らせちゃったのか?
どうしてロキがこんなにひどいことをするのか、考えてもさっぱり分からない。どうすればロキは止まってくれるんだ?
訳が分からなくて、悲しくて、いたくて、くるしくて。
えぐえぐっと泣くことしか出来ないでいると、ついにロキがお尻の穴にグッと腰を押し付けてきた。
「いやぁッ!いたぃ、いたいっ!ろきっ!」
「──はッ……光栄に思え、新たな器を誕生させる為の子種を仕込んでやる」
「いたい、いたぃっ」
「──無垢な魂を喰らうのはその後だ……優秀な子を孕め、私の贄よ」
なにか、ロキがなにか呟いているみたい。
でも、聞こえない。当たり前だ。今は苦痛に耐えるだけで精一杯なのだから。
完全にロキのあれがお尻の穴にはいってしまう。そんな時だった。
突然、部屋のバルコニーに続くガラス扉がガシャンッッ!と勢いよく蹴破られたのだ。
「はぅッ!」
びっくりして縮こまる。ロキも流石に驚いたのか腰を引いて退いた。
なにごと!と顔を上げると同時に見えたのは、大きなもふもふの何かに突進され、呻き声を上げながら壁に吹っ飛ばされたロキの姿だった。
「ひぇッ、え、あぇ……?」
なんだなんだと目を真ん丸にする俺を、誰かが背後からひょいっと抱き上げる。
またびっくりして叫びながら見上げると、そこには見慣れた朱殷色の髪を靡かせる、大好きな側近の姿があった。
ぶわぁっと涙を溢れさせながら、真っ黒だけれど優しさの滲んだ瞳を向けてくる彼にむぎゅぎゅうっと抱き着いた。
「じゃっくぅっ!」
「うんうん、ジャックだよぉ。よぉーしよし」
ぶえぇっと号泣する俺をなでなでするジャック。一気に安堵が広がってちょっぴり落ち着いた頃に、ふと背後から「グルルルッ……!」と獣の声が聞こえて慌てて振り向いた。
「ほぇっ!もふもふ、とらさん……ガウッ!?」
壁際に力無く倒れるロキの正面で、今にも襲い掛かりそうな殺気を纏いながら、ぐるるっと威嚇の唸り声を披露するおっきなトラさん。
もっふもふの身体と、何より見慣れた……というよりはむはむし慣れた耳のおかげですぐに気が付いた。あのトラさんが、大好きな側近の一人であるガウだってことに。
「ありゃりゃ、ガウってば完全にブチ切れちゃってるねぇ。まぁ、それは僕もだけどぉ」
今度は後ろからブチ切れの気配を感じる低い声が聞こえて、そろりそろーりと振り返る。
そこにあったのは普段の笑顔が掻き消えたジャックの無表情。そして背後にはブチ切れガウと、今にも殺されてしまいそうなぐったりロキ……。
「どどっ、どういうことだってばよっ!」
あまりにカオスな状況すぎて、思わずぐるぐると目を回してしまった。
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