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六章
205.ロキじゃないと
「のろい……?」
何やら縁起でもないことを言い出すジャックに、ぱちくりと真ん丸に見開いた目を向けた。
呪い、呪い……呪いがなんだって?ロキに呪いがかかっているとでも言うのか?
きょとんとして、むむっと考えて、ロキの様子をチラリと眺めて。そうしてようやく、ジャックの呟きに信憑性を感じてあわわっと慌てた。
確かに、思えばロキの行動はおかしすぎる。まるでロキじゃないみたいに……なんて思って、俺はふいに思い出した。例の地下牢での会話を。
『お前は私の血を色濃く継いだ子孫。今回の“永久の魂”の器は本来お前になるはずだった』
ダミアーノがロキに発したセリフ。ロキが傷付いた様子を見せたあのセリフ。
それを思いだした瞬間、脳内でぴこぴこぴこーんっ!と賢すぎる名推理が浮かんだ。
気分はどこぞの名探偵。俺は賢すぎる超絶クールな子なので、見た目は子供でも頭脳は大人なのである。というわけで、真実はいつもひとつ!とばかりにロキを指さした。
「おれの目はごまかせないっ!おまえっ、ダミアーノだなッ!!」
どどんっ!と刑事ドラマのクライマックスみたいな感じで言うと、ロキがハッと目を見開いて硬直した。
かと思うと、今度は嘲笑を浮かべつつよろよろと立ち上がる。な、なんだなんだっ。疲労の溜まったロキの身体を強引に動かすなだぞ、ふざけるなだぞ。
ふんすふんすと警戒をあらわにする俺に、ロキ……いや、ダミアーノは不敵な笑みを湛えて答えた。
「はっ……ようやく気が付いたのか、マヌケめ。鈍感にも程があるだろう」
「ががーんっ!」
俺的には誰よりも早く、そして目敏く気が付いたつもりだったのに。
加えてロキの顔でマヌケと言われたことに衝撃を受け、思わずシクシクめそめそと泣いてしまった。
「ぐすっ、ひどいよぅ。うえぇん。まぬけじゃないぞ、くーるだぞぉ」
「うんうん、ご主人様はクールだよねぇ。マヌケなんかじゃないもんねぇ。よぉしよし」
ジャックのもとにとことこ戻ってむぎゅっと抱き着く。うりうり頭を埋めて泣き出す俺を、ジャックはよーしよしと抱き上げてなでなでしてくれた。やさしい。
しばらくジャックに慰めてもらってから、ありがとうとお礼を言って抱っこからんしょんしょ抜け出す。再びてくてくっと戻ると、ロキ……の姿をしたダミアーノは、困惑したような顔を浮かべて瞬いた。
なんだ?もうよしよしで回復したし、お話続けてどうぞだぞ。ちょっとタンマしてごめんだぞ。
「やいダミアーノ!さっさとロキから離れるんだぞ!てかどうやってロキに入りやがったっ!」
俺ってばドジっ子。よくよく見たら、ロキの綺麗な赤い瞳が濁っているじゃないか。
それこそダミアーノが憑依したチェレスと同じ瞳の色みたいに。すぐに気が付かなかったなんて不覚なんだぞ。ロキごめんなさいだぞ。
ぷんすか!とのしのし地団駄を踏みつつそう言うと、ダミアーノはまたもや「マヌケめ」と言って嘲笑を浮かべた。やめろだぞ、ロキの顔で俺にマヌケとか言うんじゃないぞ。
「ようやく手に入れた器だ。手放すはずがないだろう」
ダミアーノのセリフにぐぬぬと眉を寄せる。
そ、そりゃそうだ。これで『アッ、はいわかりましたー』とか言われていたら逆に恐怖で失神してたぞ。そりゃそう簡単に降参してくれるわけがないぞ。
それじゃあどうしたものか……ぐぬぅと悩みこむ俺に、ダミアーノはふと嫌な予感マシマシな笑みを滲ませて言った。
「器を無事に返してほしければ、私の命令に従え。さもなくば、今ここでこの器を殺す」
そう言って、脇の丸テーブルに置いてあった果物ナイフを手に取るダミアーノ。
迷いなくロキの首に刃先を突き付けた様子を見て、思わずハッと蒼白した。こ、こいつ!生粋のクズやろーだぞっ!ぐぬぬだぞっ!
「むむぅっ……わ、わかったぞ。わかったから、ロキには手を出すなだぞ……」
殺気立つジャックとガウをしっしと下がらせ、ふんすと仁王立ちしてダミアーノに向き直る。
して、命令とはなんぞ?と首を傾げる俺に、ダミアーノはまた厭らしい笑みを湛えて答えた。
「なに、簡単だ。其方には私の子を孕んでもらう。全裸でうつ伏せになれ」
「じぇ、じぇったいイヤだぞっ!!」
セクハラ反対!セクハラ反対!と騒ぎ立てたい衝動をなんとか堪える。
こ、こいつサイテーにもほどがあるぞ。いやらしいぞ、えっちだぞ。見た目はロキなのに、全然ほわわぁっと羞恥心が湧かない。湧くのは恐怖と嫌悪感だけだ。
いつもなら、ロキにえっちなことを言われたら顔が真っ赤になって、でも正直、まんざらでもない反応を返してしまうけれど……今のはめちゃんこ気持ち悪いぞ。
怒りで真っ赤になりながらぷるぷると震える。
そんな俺に、ダミアーノはきょとんと首を傾げて呟いた。
「……?何故だ。この器とは既に性行為を済ませているのだろう?普段通りに動けば良いだけだろうに」
むぅっと唇を尖らせる。ぷんすかぷんすか!と憤りをあらわにして、ちょっぴり照れくさい気持ちを堪えて叫んだ。
「お、おばかっ!それはロキが相手だからだぞっ!ロキじゃないならそりゃイヤだぞっ!」
百歩、いや千歩くらい譲って、一旦ダミアーノが外に出て、俺にロキとの子供を作らせるっていう脅しなら聞いてやらないこともなかったぞ。
それでロキの命が助かるってんなら迷いなく受け入れた。でも、これはだめだ。ロキじゃないなら、見た目がロキでも違うんだぞ。それはもうロキとしてるって言わないんだぞ。
「面倒な。姿が同じなのだから構わないだろう。早く動け、抵抗するなら器の命は無いぞ」
「ぐ、ぐぬぅっ……!」
無表情で刃先を首に押し付けるダミアーノ。ツーッと零れた一筋の赤い血を見て、反射的に身体が動いた。
ダミアーノの命令通りガウンを脱いで、その場にゆっくりと膝をつく。ダミアーノにお尻を向けるようにしてうつ伏せに横たわると、窓際で険しい顔つきをする側近たちと目が合った。
そ、そうだ!そういえば、まだこの二人がいたんだった……!
「ダ、ダミアーノっ!ふたりは外に出してやってくれっ!お、おれ、見られるのイヤだぞっ」
「何を言うか。そんなことをして仲間を呼ばれれば元も子もない。そこの侵入者共には、其方が犯される様子を黙って眺めていてもらうぞ」
「ぶえぇっ!悪趣味にもほどがあるんだぞぉっ……!」
おバカな頭で考えた作戦をあっさり見破られ、却下され。
ダミアーノが無情に覆い被さってくるのを感じながら、俺はいよいよ諦観を抱いて力を抜いた。
一応見た目はロキ、一応見た目はロキ……。
ほんのちょっぴりでも心を軽くするために言い聞かせる。お尻にピトッと当たる熱い感触……涙が溢れそうになるのをぷるぷる震えながら堪えていると、ふいに部屋の扉がドンッ!と勢いよく開かれた。
「──酷い騒ぎが聞こえたけれど、何かあったの……って、は?」
ちょうどお風呂から上がったところだったのだろうか。
前髪から雫を滴らせ、筋肉質で妖艶な上半身を晒しながら現れたのは、険しい表情でロキを睨み付けるリカルド様だった。
普段の優しい笑顔がどこにもない。ちょっぴり怖いオーラを纏ったリカルド様を見て、思わずぞわわっと震える。
「……ロキ?お前、何してるの?」
ベッドじゃなく、硬い床に全裸で押し倒され、涙を滲ませる俺。
明らかに力で俺を組み伏せ、今にも性的な暴力をしそうなDV男みたいになっているロキ……の姿のダミアーノ。
傍から見たらどういう印象を生むのか、客観的に考えてみた直後。
リカルド様は超絶恐ろしい殺意を滲ませた睨みを利かせながら、拳を高く振り上げた。
「殺すぞ、クソガキ」
容赦ない鉄拳が、罪のないロキの頭を襲った。
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