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六章
206.ラスボスパパ
むぎゅむぎゅ、むぎゅむぎゅ。
簀巻きみたいにもこもこガウンを着せられ、リカルド様にむぎゅむぎゅと抱き締められているこの状況。さっきまでの絶望的な状況とは違い、安心感はあるけれど……流石にそろそろ、ロキに対するゴミを見るような視線を緩めてほしい。
ロキは悪くないんだ。ロキの中に入り込んでいるダミアーノが悪いんだ……。
「よしよし、大丈夫だからね。パパがいるからね。もう怖くないよ、よしよし」
さっきからずぅーっとこの調子だ。
よしよしと頭を撫でられ、ほっぺをムニュムニュされ。慰めるみたいに抱き締められると、ロキに似た優しい香りが鼻をくすぐって力が抜ける。
ぎゅうっと腕を回して首元に顔を埋め、うりうりっと頬擦りしてみる。すると、リカルド様はふにゃふにゃと微笑んで更にほっぺムニュムニュの力を強めた。
「かわいいねぇ。こんなに可愛い子にDVしようとするなんて、本当そこのクソガキは救いようがないね。パパがぶっ殺してあげるから安心してね」
「あ、あのぅ」
「そうだ。いっそDVするようなクソガキなんてやめて、パパのお嫁さんになるかい?お金持ちだし強いしイケメンだし、これ以上ない優良物件だよ。パパにしなよ。幸せにしてあげるよ」
デレデレリカルド様を止めようと声を上げたはいいものの、とんでもないセリフが返ってきたことでぽぽっと顔が真っ赤に染まる。同時に蒼白もした。おかしな顔色だ。
いまなんて……?とぷるぷる震える俺に満面の笑顔を向けながら、リカルド様は名案だぜ!とばかりにつらつらと言葉を続けた。
「パパは浮気もDVもしない理想のパパだよ。どうだいルカちゃん、お嫁さんになる?」
にこやかに問われ、すぐさまぶんぶんっと首を横に振った。
そんなの絶対ムリだぞ。リカルド様はリカルド様でしかないし、なんたって俺は、俺は……
「お、おれ……ロキじゃなきゃ、やだぞ。お嫁さんなら、ロキのになりたいぞっ……!」
言い切ってからハッと我に返った。お、俺ってばなんてことを……!
こんなの、どストレートに『ロキのお嫁さんになりたい!』って言ったようなものじゃないか。まるで俺がロキのお嫁さんになりたがっているみたいじゃないかっ!
あわあわ、あわあわ。顔面蒼白でチラッと顔を上げる。ニヤニヤされていたらどうしよう……なんて思いながら向けた視線の先には、ニヤニヤ笑顔じゃなく、微笑ましげな表情だった。
「ふぇ……?」
笑わないのか?墓穴を掘ったなって、クスクスしないのか?
リカルド様の優しい微笑みに困惑する。まるでよきよきとでも思っているかのような顔だ。
「ふふ。そっかそっかぁ。それなら仕方がないね。あーあ、フラれちゃったなぁ」
残念、と言いながらも、その表情に残念そうな色はない。ニコニコ笑顔でとっても上機嫌な様子だ。
ぽわぽわした雰囲気のまま俺を抱っこしたリカルド様は、そのままスタスタとロキのもとへ進んだ。その様子を見てハッと冷や汗をかく。
まずい!このままでは何の罪もないロキが八つ裂きにされてしまう!
違うのに!ロキは悪くないのに!悪いのはロキじゃなくてダミアーノなのに!
なんとかしてリカルド様を止めないと……と慌てて声を上げようとしたところで、リカルド様が見下ろしたダミアーノにかけた言葉は予想外のものだった。
「さて。君はいい加減、私の息子から出ていってくれるかな」
リカルド様の瞳がふいに怪しく煌めく。
その言葉に驚きの声を上げるより先に、どこからか現れた赤黒い鎖がロキの身体を拘束した。
突然のことだったので、ダミアーノは抵抗する間もなくその鎖に囚われてしまう。当然、手に握っていた果物ナイフもあっけなく床に落ちた。
「はわっ!」
こ、これは……魔法だ!リカルド様ってば、お金持ちで賢くて強くてイケメンな上に、魔法まで使えるってのか!ロキに似て有能さんなんだなぁ。
はわわっとびっくり仰天、尊敬の眼差しをキラキラと向ける俺を撫でながら、リカルド様は薄い笑みをダミアーノに向けて再び語った。
「おや?聞こえなかったかい?息子から出ていけと言っているのだけれど」
苦しそうに呻くダミアーノに、リカルド様がそっと手を翳す。
今度は鋭く尖ったルビーのようなものが現れて、容赦なくロキの身体の心臓付近を突き刺した。
直後に上がる「ぐあぁァッッ!」という悲鳴は、ロキのものにしては野太く低い。すぐにダミアーノの悲鳴だと悟った。
けれど、不安は消えない。リカルド様が魔法で刺したのはあくまでロキの心臓だ。
これはマズいんじゃないか?ロキ痛いんじゃないか?そわそわ……と怖くなって、俺は慌ててリカルド様に縋りつきながら尋ねた。
「リカルドさまっ!ロキ、痛そう……しんぞう、ぐさってなった!」
あわわっと蒼白顔で訴える俺を、リカルド様が子供を宥めるみたいによしよしと抱き締める。
それにふにゃあっとなっちゃいそうになるのを必死に堪えつつ、むんっと強く視線を向けた。
リカルド様がふわっと微笑む。一言「大丈夫」と紡がれるだけで、根拠のない言葉なのに、深い安堵が身を包んだ。
「あの魔法は魂のみを攻撃するもの。ロキの身体に負担は掛からないよ」
「そ、そーなのかっ……」
ほっと息を吐く。なーんだ、ロキは大丈夫なんだな。よきよき、ほっ。
それにしても……だとしてもだ。こんなチートみたいな魔法をあっさり使っちゃうなんて、まるでリカルド様の方が主人公みたいだな。
いや、違うか?主人公ってより、どっちかというと黒幕、ラスボスって感じだな……。
考えてみれば、構図だけ見ればこれ、作中最強でなければいけない主人公のロキが、あっけなく膝を折っちゃってる状況だし……。
それを余裕気な表情で見下ろす主人公のパパ、リカルド様。うーむよくあるラスボス像って感じで真実味が増してきたぞ……。
「もうすぐベルナルディが来るはずだ。それまでに、何とかロキの身体から侵入者の魂を引き剥がさないとね」
「べるなる……ほぇっ!お父さまとお兄さま、こっち来てるのかっ!?」
ふいの言葉にびっくり仰天。
真ん丸に目を見開く俺を撫でつつ、リカルド様はひょいっと窓際を指さした。
指し示された方向を見て察する。そういえば、ジャックとガウがいつの間にやらいなくなっている。
この怒涛の展開と混乱に乗じて、邸を抜け出したのか。それなら、きっと二人はベルナルディ邸に応援を呼びにいっただろうし、リカルド様の言う通りもうすぐ助けが来るはずだ。
「よ、よかった。ほっ」
再び安堵の息を吐く。
すると、リカルド様がふいに「ねぇルカちゃん」とほっぺをふくふく突っついてきた。
むん?と首を傾げつつそろりと見上げる。なんぞ?と瞬く俺に、リカルド様はそういえばな質問を投げ掛けてきた。
「そろそろ、説明してくれるかい?どうしてロキの身体に余所者の魂が侵入しているのか」
はわっと硬直する。そ、そうだ!リカルド様にもきちんと説明しないと。
リカルド様ってば、ずっと全てを見透かしているかのような無駄のない動きをするから、てっきりこの状況のことも理解済みなのかと思っていたぞ。
慌ててこくこく頷く。お助けが来るまでの間、リカルド様に大体の流れをかくかくしかじかーと説明した。
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