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六章
207.父と兄
ダミアーノの件を全て説明すると、リカルド様は何やらとっても怖い顔をして黙り込んでしまった。
ロキ……いや、ダミアーノに向ける瞳は仄暗く、重たい殺意に満ちている。
確かにダミアーノの目的とか、ロキの身体を使って俺に危害を加えようとしたこととか。
全てを知れば、流石のゆるふわリカルド様もちょっぴりは怒りをあらわにするとは思っていたけれど……。
でも、ここまで激怒するなんて正直びっくりだ。今にもダミアーノをぶっ殺してしまいそうな、そんな危うい……それこそ、いかにもマフィアって感じの怒りを感じる。
「ぁう、うぅ……はっ!」
どうしたもんか。この雰囲気、ダミアーノごとロキが吹っ飛ばされかねない……とぷるぷる震えていた時、ふと気が付いた。
遠くに聞こえる喧噪、それが徐々に近づいてくる。もしかして!と希望を抱いた俺は、そわそわと怯えながらもリカルド様の抱っこから抜け出し、とたとたっと窓辺に近付いた。
バルコニーに続く入り口。割れて粉々に散ったガラス扉の破片を避けながら、んしょんしょとなんとかバルコニーへ出る。
そろーりと目を凝らし、外に見えたものにぱぁっと瞳を輝かせた。
「リカルドさまっ!おたすけが来ましたっ!」
ぱっと振り向き、咄嗟に叫ぶ。
さっきのぐさぐさ攻撃なんて非じゃないくらいの、見るからに物騒な魔法。それをロキにぶっ放そうとしていたリカルド様に叫ぶと、直前で魔法がふっと消え去った。
はわわ、危なかったぞ……ロキがお陀仏しちゃうところだったぞ。
魔法の鎖に拘束されたロキが、んべしっと地面に伏せる。いや、伏せさせられる、と言った方が正しいだろうか。
まるでそこだけ重力がとんでもないことになったみたいな、そんな状況のロキの横を優雅に通り過ぎ、リカルド様も俺と同様バルコニーに出た。
そこへちょうど、正門を駆け抜けてきた馬車が急ブレーキで止まる。中から現れたのは、とっても怖い形相をした父とアンドレアだった。
「おとーさまっ!おにーさまっ!」
おれここにいるよーと伝えるために、ぶんぶんっと両手を振る。
二人がハッとこちらに視線を向けて、俺を視認するなり「ルカ!」と叫んだ。嬉しくてわーいわーいと柵によじ登ったところで、背後からリカルド様にひょいっと捕獲される。
「こらこら、身を乗り出したら危ないよ」
へにょんと四肢をぷらんぷらんさせながら、リカルド様の抱っこに呆気なく捕まる。
リカルド様が人差し指をクイッと動かすと、ロキがぐったりしたまま浮き上がってこっちに飛んできた。はわわ、そんな魔法まで使えるのかえ……。
ロキを地面にぽーいと落っことすと、それを追うようにリカルド様も俺を抱っこしたままバルコニーから飛び降りた。もう何でもありのめちゃくちゃである。
ラスボスパパのリカルド様だからね。まぁこういうハチャメチャな動きも何でもありだよね。
「やぁアロルド。遅かったね。この通り君の愛おしい子は無事だから安心して──」
「ルカッ!!」
にこやかに紡がれたリカルド様のセリフを完全無視して、父がドタドタと駆け寄ってくる。
リカルド様に捕獲されていた俺をひょいっと奪い取ると、まるで生き別れの家族と再会したかのような雰囲気でむぎゅーっと抱き締めた。
それにあわわっと慌てながらも、俺も父をむぎゅっと抱き締め返す。ふんふん、お久しぶりに感じる父の抱っこ、ぬくぬくぽかぽかで気持ちいいんだぞ。えへへ。
「あぁルカ、私のルカ……ッ!クソガキとの婚約なんてものを許可した私が悪かった……!もういい、帰ろう、婚約は破棄だ。ルカは一生私の傍にいなさい……!」
「ちょっと、アロルド」
「俺も同意だ。ルカは俺と結婚するべきだ。こんな場所はさっさと潰して帰ろう」
「ちょっと、ちょっと聞きなさい、君たち」
暴走する二人に囲まれ、あわあわと冷や汗が滲む。
ど、どうしたもんかだぞ。父もアンドレアも錯乱しちゃっているんだぞ。これはピンチなんだぞ。
ジャックとガウってばどんな報告をしたんだ。これじゃあまるで、ロキが俺に性的な暴力を振るったDV男みたいな認識じゃないか!
ふすふすっとぷんすかしながら、俺を抱っこする父の顔にぺちっと両手を当てる。
突然の攻撃に怯んだのか、ピタッと硬直した父の抱っこからんしょんしょと抜け出した。えっへん、脱出成功なんだぞ。どどどやぁ。
「お父さま!お兄さま!ワルモノはロキじゃありませんっ!ロキはおれにひどいことしないぞっ!」
むんむん、のしのしっと地団駄を踏みつつ、リカルド様のところまでとたとた戻る。
鎖に巻かれて地面に伏せるロキ……の中にいるダミアーノを指さして、胸を張りつつ言った。
「わるものはこいつだぞっ!ロキの中に、ダミアーノがいるんだぞっ!」
ナ、ナンダッテー!という反応はなかった。
全員ふぅんみたいな感じで、特に父とアンドレアは真実には別に興味なさそうだ。ひどいぞ、俺ってばかっこよく言い放ったのに、ふぅんみたいな反応されると傷付くぞ。
むん……とちょっぴり拗ねて俯くと、すぐに俺の不貞腐れオーラを察したらしいアンドレアにあわわっと抱き上げられた。
「悪い、ルカ。正直クソ野郎に誰が憑依しているだとか、そういうことには興味がない。俺の目に映るのは『クソ野郎がルカに性的暴行を働いた』という事実だけだから」
「む、むむぅっ……」
どうでもよくはないぞっ!とほっぺぷくーする俺を、アンドレアがよしよしと撫でる。
父も横から俺のぷくぷくほっぺをムニュムニュとつっついた。なんだなんだ、さっきまで鬼の形相で怒っていたくせに、急にほっぺふくふくタイムか?ふんふん。
されるがままにふくふく摘ままれていると、ふいにリカルド様が呆れ顔で声を上げた。
「まぁ、君たちの考えは分かるけれどね。でも、どうでもいいことはないだろう。これは緊急事態だよ」
ぱんぱん、と手を叩いてそう語ったリカルド様。二人が面倒くさそうにリカルド様を見遣る。
「どうでもいい」「帰りたい」という二人の意見をガン無視して、リカルド様は「とりあえず立ち話もアレだし、中へ入りなさい」と邸に手招いた。
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