216 / 241
六章
210.いちばん強いひと
膨大な魔力が一気に解放されたのがわかった。
王太子とチェレスから。チェレスは、たぶんリカルド様によって無理やり魔力を解放させられているのだろう、さっきからすごく涙目でシクシクしている。
さすがの鈍い俺も敏感に察して気圧されるくらいの、圧倒的な魔力。
王家の遠い親戚だろうヴァレンティノ家、その当主のリカルド様があれだけの魔力を誇るのだから、きっと王家が生まれ持った魔力はとんでもないものだろうと予想はしていたけれど……。
「むぐぐぅっ……!」
少しでも油断した瞬間、意識が遠のいてしまうんじゃないか。
そんな緊迫感がのしかかってくる中、俺はむぐぅっと身体に力を入れて耐え続けた。ロキを守るんだ、ロキからダミアーノを追い出すんだって、ただそれだけの強い意志が決意になって。
目を瞑って、とにかく全身に力を入れて硬直し続けた後、ふと王太子がぽつりと零した声が鮮明に聞こえて、ハッと目を開いた。
「……来たか」
慌ててロキの胸元に視線を下ろす。
心臓がある辺りから、禍々しい靄を纏った球体のようなものが、王太子の魔力に引き寄せられるようにすーっと出てきたのが見えた。
自分からにょろっとこんにちはしたというよりは、ブラックホールに吸い込まれるみたいな、そんな感じ。禍々しい球体は、しばらく耐える様子を見せていたけれど、やがてその努力虚しく王太子の胸元に吸い込まれていった。
少し離れた位置に立っていた近衛が、次々に「殿下!」と心配するような声を上げる。
俺も王太子の様子をチラチラと窺いつつ、まずはロキが優先だ!と思い一歩下がった。ロキをぎゅっとして、持ち上げる力はないからずるずるーっと引き摺って……よしっ、この辺でいいじゃろ。
「ろき!ろきぃっ!」
ぐったり伏せるロキをゆらゆらと揺さぶる。
ぶえぇっと号泣しながら揺らし続けると、やがてロキが「うぅん……」と呻いて眉を寄せた。
その様子を見てハッと目を真ん丸にする。今の……今の反応は確実にロキだ!間違いない!
ダミアーノじゃない、ロキの反応。それを確信した俺は、ぱあぁっと表情を輝かせて更に「ろきっ!」と身体をぐらぐら揺さぶった。
「ん、んん……?」
ぐっすり眠っているところをゆらゆらされて苛立ったのか、ロキはむぅっと眉間に皺を寄せて瞼を開いた。
現れる赤い瞳。それをじーっと見つめて、しっかりと確かめる。濁りも仄暗さもない……バラみたいに真っ赤で、透き通っていて、とっても綺麗な赤色……間違いない。
「……ルカ、ちゃん?」
無機質さも冷たさも感じない優しい声音。それを耳にして、思わずぐすっと涙ぐんだ。
ぽろぽろと零れ落ちる雫がロキの頬に落ちる。その感触で目が覚めたのか、ロキがハッと目を瞠って勢いよく起き上がった。
「ルカちゃんッ!」
感極まった様子でガバッと抱き着いてくるロキ。俺もむぐむぐと嗚咽を堪えつつ、ロキの背中にむぎゅっと腕を回す。
胸元にうりうりーっと顔を埋めたり頬擦りしたり。そんな俺をロキも強く抱き締めて、とっても申し訳なさそうな悲痛の声で語った。
「ルカちゃん、ルカちゃん、ごめんね……怖い思いさせて、本当にごめんね……」
この様子を見るに、どうやらロキはダミアーノが犯した行動を全て覚えているらしい。
あんなことやこんなことも見られていたということか……ロキ以外とえっちなことをしようとしたところも、ぜんぶ?なにそれ、超つらいんだぞ。ぐすぐす、めそめそ、しょぼん……。
「うぅっ、ろきぃ!怒らにゃいでぇっ……きらいにならにゃいでぇっ……!」
「どうして俺がルカちゃんを嫌うのっ?そんなことあるわけないでしょ!大好きだよ、愛してるよ」
「ぶえぇっ!でもでもぉー!ダミアーノとえっちなことしちゃったぞぉー……!」
「そんなの、ルカちゃんは何も悪くないよ!寧ろ、あのクソ野郎を抑えられずに黙って見ていることしか出来なかった俺が一番悪い!ルカちゃんはなんにも悪くない……!」
うりうり、ちゅっちゅ。
抱き締められて、頭のてっぺんにちゅっちゅされて。ロキの慰め総攻撃を受けながらも涙はぶえぇっと溢れたまま止まらない。
滝みたいな号泣をピタッと止めたのは、背後から聞こえた緊迫感のある騒ぎだった。
「──殿下!」
複数人が揃って焦燥の滲んだ声で王太子に呼びかける。その騒ぎに気が付いて、ハッと振り返った。
その先にいたのは、瞳を赤く濁らせて暴れる王太子。けれどすぐにリカルド様が例の鎖の魔法を使ったことで、王太子はすぐに鎖によって拘束され、床に膝をついた。
「あばばっ」
なんだかとてつもなくピリピリした空気……それにぷるぷる震えていると、ロキが俺を抱っこして部屋の隅にササッと移動した。
「ルカちゃんはここにいて。目も耳も塞いで、しっかり丸くなっているんだよ」
「あぇ、で、でもっ、ロキはっ……!?」
俺を隅っこにぽすっと置いて、そそくさと王太子のもとへ駆け出そうとするロキ。
そんなロキの裾をきゅっと掴んで引き留める。ものすごく邪魔なことをしてしまっているのは分かるけれど……でも、どうしても不安が消えない。
心配だ。またロキがダミアーノに身体を乗っ取られたら?そういうことを考えると、怖くてロキを引き留める手を離せない。
眉尻を下げて涙ぐむ俺を、ロキがふわっと優しい笑みを浮かべて抱き締めた。
「もう大丈夫。殿下がダミアーノを抑え込んでくれているからね。あとは俺がダミアーノを拘束するだけだ」
ロキの言葉にきょとんと瞬く。ダミアーノを拘束するって……そんなことが可能なのか?
いや、でもそういえば、王太子の中にダミアーノを閉じ込めた後のことを考えていなかった。みんなはすんなり作戦を受け入れていたけれど、それはどうしてなのだろう。
だって、誰の中にダミアーノを閉じ込めたって状況は変わらない。器がロキから違う人に変わるだけだ。肝心のダミアーノをどうするかの説明を聞いていなかった。
けれどロキの様子を見る限り、どうやらロキにしか出来ない何かがあるみたいだ。
心配な気持ちを捨て切れずにむぎゅっと縋り付く俺を、ロキは困ったように微笑みながらそっと引き離した。
「本当に平気だから、安心して。悪魔の儀によって作られた魂は言わば紛い物。作り物の空っぽな魂を制御することは、魔法を使えば案外容易なことなんだ」
「そ、それじゃあ、ロキの中にダミアーノがいたときに、だれかが魔法をつかってくれればよかったんじゃ……?」
引き離されてもめげずにむぎゅむぎゅと抱き着く。
そんな俺を仕方なさそうに微笑んで撫でながら、ロキは軽く首を振った。
「魂には優位がある。より強大な魔力を持つ者が、下位の魂を制御する資格を持つんだ」
たとえば勝負をした時に、魔力をより多く持っていた方が勝つ。そういうシンプルな話。
それを聞いて、俺はぱちくりと瞬いた。それってつまり……ほんとはダミアーノよりも、ロキの方がめちゃ強いってことか?
「あぅ、えと……」
ダミアーノよりロキが強いという確たる証拠があるなら、ぶっちゃけ必死に止める意味はない。
抱き着く力がふにゃっと緩んだその隙を突いて、ロキは俺を引き剥がしてサッと背を向けた。
慌てて手を伸ばすけれど、もう遅い。空を切った情けない自分の手を眺めながら、その奥にいるロキを強く見つめる。
ロキが数人に押さえつけられる王太子に手を翳す。その直後、ルビーみたいに輝く、けれどとってもドス黒い、見惚れてしまいそうな光の鎖が魔法となって、王太子に向かい一直線に突き進んでいった。
あなたにおすすめの小説
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ