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六章
211.遠のく意識
ロキが放った魔法が王太子の心臓を貫く。
それと同時に、これが窮地だと悟ったらしいダミアーノが最後の足掻きとばかりに手を翳した。
王太子とロキの魔力はたぶん同じくらい。そんな王太子が、ロキに向かって同時に放った綺麗な魔法。それはキラキラ輝いていて、ロキの魔法と大差ない威圧感があった。
ロキの魔法と王太子の魔法、それが同時に互いに向かって放たれる。
ロキがそれを避ける気配はない。その時点で、ロキには王太子の魔法を受け止める何かしらの理由があるのだと察するべきだった。
でも俺はおバカさんなので、咄嗟にそんな思考を巡らせることはできない。
あんな魔法を受けたらロキが死んじゃう!そんな考えだけが頭を支配して、反射的にとたとたーっ!と駆け出してしまった。
「ろきぃっ!」
当然、おバカでよわよわな俺にクールな策なんて一つもない。
身一つで駆け出して、ハッとしたように振り向いたロキを渾身の力で押し退けて……そして俺は、王太子が放った魔法を直で受けてしまった。
「ひぅッ!」
銃弾でパーンと撃たれたみたいな感覚よりは、光の速さでレーザーが身体に風穴を開けたみたいな、そんな不思議な衝撃だった。
身体に穴があいた!咄嗟にそう思うくらいの確かな感覚。
二メートルくらい吹っ飛ばされて、どたっと倒れ込んで、はうぅ……と仰向けになって数秒経ち、ようやく痛みが衝撃に追い付いてきた。
じわ……と徐々に広がるみたいな痛み。
それは段々と強く広がっていって、チカチカしていた視界が鮮明になって、それからぼやけて……そんな過程を進むうちに、とてつもない激痛へと変化していった。
「あばっ、あばばっ、いててててっ!」
刑事ドラマで主役が撃たれた時の『ッ……!』みたいなかっこいい呻き声を発したかったのだが、現実ではそんなクールぶる暇なんて微塵もなかった。
めちゃんこ情けない呻き声を漏らしながら身体を丸くする。
あばばーっ!と苦しみ悶える俺のもとに、静寂からハッと解放されたらしいロキたちがドタドタと駆け寄ってきた。
「ルカちゃんッ!!」
最初にロキが膝をつき、サーッと蒼白した顔で傷口を覗き込んでくる。
その視線を追って俺も自分の身体を見下ろした。じわじわっと痛みが広がる場所をそーっと確認して、そして「ふぇっ!?」と目を真ん丸に見開く。
見下ろした先。心臓より少し下くらいの辺りにぽっかり丸い傷が出来ていて、そこから絶え間なく真っ赤な血が流れだしていたのだ。
「あばばっ!」
「動いちゃダメ!じっとして!」
自分の身体が段々と血まみれになっていく。その事実を何度か頭の中で繰り返して、やがて実感が追い付くと……俺は思わず混乱して、あばばっと身体を震わせてしまった。
けれどすぐにロキに押さえつけられ、今まで向けられたことのない鬼の形相でメッと叱られる。普段は優しいロキからの直球の制止を受けて、反射的にピタッと動きが止まった。
次いで、徐々に涙がじわっ……と滲んでいく。
こわい、こわい。なんなんだ、俺の身体、いまどうなっているんだ?自分の状況を想像すればするほど恐怖や不安が増していって、ぽたぽた涙を溢れさせてしまった。
「ぅ、うぅ……っ」
こわい、こわい……いたい……いたいよぅ。
むぐむぐと情けなく泣きながら弱音を吐くと、傷口を止血してくれていたらしいロキによしよしと頭を撫でられた。
「ごめんね、大丈夫だからね……俺のせいで、本当にごめん……」
大きな手に頬擦りする。そうすると、ほんのちょっぴり恐怖が収まった。
硬い床に仰向けで倒れ込んでから数十秒ほどが経って、そろそろ背中が痛くなってきた……でも動いたらまたロキに叱られちゃうかな……とそわそわしてきた頃に、ふと誰かにひょいっと抱き上げられた。
「ルカ……!」
「うぅ……お、おにーさま……」
ぽすっと背もたれになってくれた人物が誰かを確認するために振り返って、綺麗なアメジストの瞳と視線が合った。
いつもの無表情をへにゃりと情けなく崩したアンドレア。焦燥やら混乱やら、色々な感情が複雑に混ざり合った表情を見つめていると、抱擁の力がぎゅっと強くなった。
「馬鹿……!お前が庇わなくても、このクソ野郎は勝手に攻撃を避けていたというのに……っ」
あえぇ、そ、そうなの?
アンドレアが苦しそうに顔を歪めて発したセリフ。それを聞いて思わずぱちくり瞬いた。
そ、そんなの聞いてないんだぞ……そういうのはもっと早く言うんだぞ……。俺ってば、めちゃんこ焦って何も考えずに突っ込んじゃったじゃないか。
「ご、ごめんなしゃい……」
ふえぇっと涙を流しながらめんしゃいを繰り返す。
アンドレアがくしゃっと顔を歪めて、周囲に何かを叫ぶのがぼやけた視界で見えた。周りの人たちの動き的に、誰か人を呼んだのかな。
なんて考えて、ふいに気付いた。
「……?」
そういえば、みんなの声が聞こえない。
いや、ものすっごく遠くから聞こえるみたいなそんな感じはある。でも、目の前にいるはずのロキやアンドレアの叫び声まで聞こえづらいのは何だかおかしい。
「──……ルカちゃん?ルカ……!?」
あれれ、どうして何も聞こえないんだろう。
って、むむ?もしかしてロキ、今なにか話してるか?俺を見下ろして何やら叫んでいるみたいだけれど……。
「むぅ……?な、なんて……?」
眉をむぐっと寄せる。遠のく周囲の音と、更に霞んでいく視界に気が付いて、ようやくじわじわと焦燥が湧き上がってきた。
「……あ、あれ」
あれ、あれれ……?何だか急に視界が暗くなってきた。瞼もなぜかとっても重い。
周りの声も、もうまったく聞こえない。
これってもしかして、もしかしなくても、やばいのでは……?
やっと危機感を抱き始めた頃、急激に意識がスーッと遠のいていった。
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