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六章
218.ロキの嫉妬?
ちょっぴり速足のロキに慌ててついていく。
手を引っ張られているから置いて行かれることはないけれど……それでも、俺のちっちゃな歩幅に合わせたいつもの歩き方じゃないから、流石の俺も違和感を察した。
むんむんっと頑張って足を動かしつつ、へにゃっと眉尻を下げて声を上げる。
「ろ、ろきっ!ちょっぴり速いぞ。疲れちゃうぞ……!」
涙目で言うと、ロキがそれを聞いてハッとしたように立ち止まった。
どうやら速足は無意識のものだったらしい。ふえぇっと息を切らす俺を振り返ると、ロキは慌てた様子で「ご、ごめん!」とその場に膝をついた。
「ごめんねルカちゃんっ……!ルカちゃんが歩幅ちっちゃい上に体力ないってこと知ってたのに、俺ってば配慮せずに歩いちゃうなんて……」
疲れてへなへなと揺れる俺を、ロキがぎゅっと抱き締める。
がっしりとしたロキの身体に寄り掛かってはふはふと息を整え、切り替えて尋ねてみた。
「だ、だいじょぶだぞ。それより……そんなに急いで、どうしたんだ?みんなのこと待たせてるけど、とたたーってムリして走ることないんだぞ」
ぱたぱたと両腕を動かして必死に訴える。確かにベルナルディとヴァレンティノ、お偉い主要人物たちを待たせてしまっているけれど、流石に走って向かうほどではないはずだ。
それを伝えると、ロキはしょんぼりと眉尻を下げて「本当にごめんね……」と呟いた。
謝ることなんてない。それよりも、ただ理由が知りたいだけなのだ。
いつもスマートでゆったりしたロキがこんなにも余裕なく急ぐのだから、きっと相応の理由があるはず。それをもう一度問うと、ロキは面目ない……と言わんばかりに項垂れた。
「……嫉妬、したんだ」
予想外の答え。数回ぱちくり瞬いてから、ポカンとした顔で「ほぇっ!?」と真ん丸おめめを向ける。
嫉妬とは!とびっくり仰天する俺に、ロキは開き直った様子で「だってぇ!」と頬を膨らませた。
「ルカちゃんってばハオランにだけ妙に甘いし、優しいんだもん!あんなことあったのに……ルカちゃんは優しいけど、いつもなら悪者には割と容赦なく『おしおきだじょー』とか言うじゃんか!」
「お、おれそんなにバカっぽくないぞ!舐めるなだぞ!」
な、なんかとっても失礼だぞ!ふざけるなだぞバカにするなだぞ!
ふんすふんすと地団駄を踏みつつも、俺はクールなのでロキの言い分をしっかり聞くことも忘れない。ふーむふむ、つまりロキはハオランに嫉妬しちゃったわけだな。むん……。
──むっ!?ロキが嫉妬……!?
「ろ、ろきってば、ヤキモチ妬いちゃったのか!?いっつもよゆーなのに!おればっかりロキ大好きじゃなかったのか!ロキってば、やきもちやきやきして、むーってなっちゃったのかッ!」
はわわぁッ!と両腕ピーンしてびっくり仰天。あのロキが余裕をぶち壊して分かりやすいヤキモチを妬いただと?これはビッグニュースなんだぞ!
なぜか俺の方が顔を真っ赤にして「あわ!あわわ!」とその場でぐるぐる回る。照れ隠しでちょこまか動き回る俺をひょいっと捕獲すると、ロキはむぅーっと眉を寄せて声を上げた。
「そうだけど?ヤキモチ妬いちゃったけど?それがなぁに?ルカちゃんはやっぱりハオランの方が好きなんだ。俺よりハオランの方が好きなんでしょっ!」
ぷんすか!とほっぺぷくーして言うロキに焦りを滲ませる。
ま、まずいぞ!なんだかロキがブチ切れなんだぞ!何とかしてどーどー宥めないと、楽しい夜会で死人が出ちゃうんだぞ!
あわあわと慌てながら、俺はロキにむぎゅっと抱き着いた。ぶんぶんっと大きく首を横に振りつつ、そんなわけないじょ!と反論した。
「ハオランはおともだち!そりゃーお友だちとしては大好きだぞ!でもでもっ……ロキは、ロキは“特別”なの!ハオランとも、お兄さまとも、お父さまとも違うんだぞっ!」
ふん、ふん……と呼吸を整える。いっぱい叫んで疲れちゃったんだぞ……。
はふはふと肩を上下させながら、ふと気が付いた。あれれ?ロキのやつ、なんだかピタッと止まっているけれど……一体どうしたというのかね?
きょとんと首を傾げつつ見上げて、ギョッと目を見開く。なんとそこには、ニマーッと満面の笑みを浮かべるロキの姿があったのだ。
こ、これはまさか……俺ってば、嵌められた……!?
「……んふ、んふふ。へぇ、そっか。俺だけは特別なんだ?他の奴らと違って、俺だけは特別に大好きなんだね?ふぅん、へぇー?そっかそっかー?」
「なッ!な、ななッ……!」
ぷっしゅー……と真っ赤な全身からほかほか湯気が上がる。
はめられた!ロキのやつ、やっぱりずっと余裕だったんだ!それを知った途端恥ずかしくなって、悔しくなって、ムッキーッ!と手足をぱたぱた動かして暴れ出した。
「むん!むんむんっ!ひどいぞっ!ロキのばかばかっ!」
うあぁーっ!と暴れ散らす俺を慌てた様子で抱き締めたロキは、どーどーと頭を撫でて俺を抱え込んだ。ふんっ!よしよしされても、このムカムカは簡単には収まらないんだぞっ!
ふんふん、ふんふん。ふにゃ……そこ、そこなでなで気持ちいいじょ……もっと撫でろだじょ……。
「むにゃあ……」
「あぁもうほんと可愛い。チョロ可愛くて最高に可愛いよルカちゃん」
うりうりと頬擦りされ、更にふにゃふにゃになってしまう。
ほわぁっと力の抜けた俺を抱き上げて、ロキがルンルン上機嫌な様子で頬を緩めた。なんなんだ、まったくもう。ていうか、さっきはどうして急に俺を嵌めたんだ?嫉妬の演技までして。
むーんと肩に埋めた顔を何気なく上げ、ロキの肩越しにふと見えたものにギョッと硬直する。
「は、はわ……」とぷるぷる震える俺に気が付いたのか、ロキも首を傾げながら振り返った。
「あ、これは皆さんお揃いで」
「はわわっ……!」
ロキがサラッと微笑みつつ手を挙げる。俺はサーッと青褪めた顔でぷるぷる震える……。
どうやらここは、みんなが待つ客間の真ん前だったらしい。
そこにいたのは、何やらとんでもない殺気を纏った父とどんよりオーラを纏うアンドレア、そして笑顔のリカルド様などなど。いつものメンバー大集合の様子を見て、あわわと焦燥を滲ませた。
ま、まさかみんな……今の話、全部聞いていたなんて言わないよな?なっ?
「──俺より、クソ野郎の方が“特別”……」
はわぁっ!聞いとるがなっ!ばっちりきっちり聞いちゃっとるがなぁっ!
ズーンと落ち込んだ様子のアンドレアが発した一言。それによって確信する。
どうするんだこの空気!とロキを見上げてハッとした。待てよ、この余裕、この得意気な笑み……ハッ!まさかこいつ、全て計画通りだとでも言うのかッ!
客間の真ん前でこの話を始めたのも、みんなに騒ぎが聞こえるように大声で嫉妬発言を叫んだのも、全て偶然じゃなく計画の一部だったと……!?
な、なんてやつだ!なんてこったいだ!
「ろ、ろき……」
うそだよな……?と涙目で声を掛ける。
偶然だよアハハという答えを期待したしていたのだが、ロキが俺の呼びかけに反応して浮かべた満面の笑顔を見た瞬間、全てを確信した。
「これで話を切り出しやすくなるね!」
グッ!と爽やかな笑顔を向けてくるロキに、ちーんとご臨終する。
ぐすぐす……やっぱり俺ばっかりロキのこと好きなんだぞ……ロキはいつでもどこでも超絶クールで余裕たっぷりの最強お兄さんなんだぞ……がっくし。
「──……まぁでも、やっぱりハオランは殺しておいた方がいいかな」
メソメソと涙ぐむ俺の頭上で、ロキが嫉妬に塗れた無表情を浮かべてそう呟いたことには、やっぱり気づくことが出来なかった。
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