異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

文字の大きさ
227 / 241
六章

閑話.リカルドさまの箱庭

※諸事情により今回は閑話となります。
────





 リカルド様はいつだって本心が読めない。
 正直、周囲の人たちの中では一番相手にする時に緊張する人だ。いつも笑顔が仮面みたいで、尚且つ態度も機嫌も波がなく、まるでロボットみたいに不思議な人だから。
 初期のロキを大人にした、そんな印象が最も正しいだろうか。

 ロキとは仲良しだからよくヴァレンティノ邸にお邪魔するけれど……それはつまり、リカルド様に会う機会も多いってこと。
 いつも挨拶の時に緊張してしまうから、ヴァレンティノ邸に入るまではガクブルだ。リカルド様がお留守だったらほっと一安心しちゃうくらい。

 けれど、そんなリカルド様との距離が、ふと縮まった日がある。
 それはいつも通りロキと遊ぶ為にヴァレンティノ邸へ訪れた、ある日の昼時のことだった。



 ***



「むむぅっ、ロキってばどこに隠れたんだー?」


 今日はロキと一緒にかくれんぼ!ロキは何でもできるスーパーマンだから、当然かくれんぼもとっても上手い。
 どちらの役も上手なロキだけれど、俺が隠れる役をやった時は本当に光の速さで俺を見つけてくる。だから、爆速かくれんぼを防ぐためにも、今回は俺が探す側に回ったのだ。

 とまぁ、そんなこんなでロキを探し始めたはいいものの……これがまったく見つからない。
 いや、探す側も隠れる側も俺よりめちゃんこ得意なロキなのだから、そりゃそうだろうとしか言えないのだが。でもでも、もう三十分だぞ?そろそろ見つかってもいい頃じゃろー。

 なんて、むんむんとちょっぴりぷんすかしながら探していると、ふいに中庭に出た。
 おや、中庭は割とよく来るけれど、ここは初めて来たな……。いつもとルートが違うから、知らない場所に出ちゃったのかも。


「迷うまえに戻らねば……!」


 俺の迷子センサーがビビッと反応。
 いつもと違うルート、初見の場所……ビビビッ!これは迷子五秒前!さっさと来た道を戻るんだぞ!

 そう思い、慌てて踵を返し走り出す……はずだったのだが、俺ってばピタッと立ち止まってしまった。
 視線の先でヒラヒラ飛んでいるのは、見たこともない綺麗な蝶々。それを見た瞬間、瞳がキラキラ輝いて「はわわっ!」と興奮してしまった。


「ちょーちょ!」


 綺麗な蝶々を見つけたことに嬉しくなって、わーいわーいと喜びをあらわに走り出す。
 何も考えずに、ただ綺麗な蝶々を追って走り続け……やがて、ようやくハッと我に返った俺は、周囲をキョロキョロ見渡してサーッと青褪めた。


「どこ、ここ……」


 まったく知らない風景。
 そこはまるで箱庭みたいに他とは独立した、なんだか不思議な場所だった。

 中央にあるのは小さな噴水。その噴水に生えたたくさんの苔と小さな花が、長い年月を想像させてちょっぴり感傷的になる。
 大きな植物は一切咲いていなくて、素朴という言葉が似合う箱庭だ。薔薇が中庭のほとんどを占めているヴァレンティノ邸にしては質素すぎて、一瞬敷地を出てしまったのかと錯覚するほどだった。

 てくてくと奥に進み、物珍しさを隠すことなくそわそわと辺りを見渡す。
 誰も居ない、まるで夢の中みたいな静かな空間。そこに一人ぽつんと取り残されたみたいな感覚がして、俺は思わず涙目になりながらしょんぼりと俯いた。


「うぅ……どーやったら、帰れるんだぁ……」


 情けなくメソメソしていると、ふと背後に人の気配を感じた気がしてハッとした。
 振り返ると同時に、聞き慣れた声が優しく鼓膜を撫でる。


「──おや。私の箱庭に客が来たのはいつぶりかな」


 優雅に歩み寄ってくる一人の男性。ロキと同じ、雪みたいな純白の髪の彼。
 涙ぐむ俺の前まで来ると、その人は穏やかな笑みを浮かべて膝をついた。


「り、りかるどしゃま……!」


 ロキに似た優しい大人、リカルド様。一人ぼっちの空間に現れた二人目、ロキと似ている容姿の人……色々と条件が重なり合って、その時とんでもないほどの安心感が湧いた。

 衝動を堪え切れずむぎゅっ!と抱き着く。うざったいコアラ抱っこをしても、リカルド様は鬱陶しがることなくぎゅっと抱き締め返してくれた。やさしい。
 ふえぇっと涙を溢れさせると、リカルド様が濡れた俺の頬を優しく撫でて拭ってくれる。な、なんてスマートな大人なんだ……!クールすぎるぞ、尊敬しちゃうぞ!


「いい子、ほら、可愛い笑顔を見せてごらん。泣き顔も可愛いけれど、綺麗な目が腫れてしまうからね。可愛いルカちゃんには、一体何があったのかな?」


 なでなで。頭を撫でる大きな手は、ちょっぴり父と似ている。
 そう考えると更に安心感が募って、俺はふにゃっと力を抜きながら答えた。


「ぐすっ……おれ、ちょーちょに会ったんだ。ちょーちょ、きれいだったから……うれしくて、わーいって追っかけたの。そしたら、そしたらっ、迷っちゃったんだぞぉ……!」


 うえぇん!と言葉足らずに説明すると、リカルド様はうんうんと慈愛の表情で頷いた。
 なんなんだ、天使さまなのか?優しすぎて好きだぞ。リカルド様好きですだぞ。


「そっかそっか。蝶々、綺麗だものね。迷っちゃうのも仕方ないさ。ルカちゃんは感受性が豊かでとっても可愛い。素敵な子だね」

「む、むっ。おれ、すてきな子?」

「うん!とっても素敵だよ。蝶々が綺麗で追いかけて、迷子になって、それが寂しくて泣いちゃうんでしょ?可愛すぎるよ。今すぐにでもうちの子にしちゃいたいくらい」


 ゆるゆるーっと頬を緩ませるリカルド様を見て、へにゃんと緊張が解れた。
 なんか、思っていたよりも優しそうな人だな。笑顔が怖いと思っていた時期もあったけれど、こうして近くで見ると、全然そんなことなさそうだ。


「えへ、えへへ。そかぁ。おれ、すてき」

「うんうん。とっても素敵だよ。可愛いよ」


 俺は素敵な子。嬉しくて、えへへぇと身体を揺らしてしまう。
 リカルド様はそんな俺を見下ろして優しく微笑むと、俺をぎゅっと抱っこしながらクールに立ち上がった。


「さぁ、それじゃあ素敵な子を出口まで送ってあげようかな。どうやら死に物狂いで君を探している人間がいるようだからね」


 むん?と首を傾げる。死に物狂いで俺を探す人間とは……と考えて、ハッとした。
 そうだ!俺ってば、今かくれんぼの真っ最中なんだった!



「──ルカちゃぁぁーんッ!」



 その時、ちょうど箱庭の外から聞こえてきた大声にはわわっと肩を揺らす。
 い、いつの間にか探す側と隠れる側が逆転しちゃっているんだぞ……はわ、はわわ。


「ど、どーしよ。ちょーちょ追っかけて迷子になったって言ったら、おこられる……?」

「ふふっ。あいつはそんな事で怒らないから安心して。寧ろ『尊い!』とか言って気絶すると思うから。素直に伝えて大丈夫だよ」

「むん……そ、そか……」


 ぽんぽん、と頭を撫でられ小さく頷く。
 遠ざかる箱庭の風景を見つめて「ここ、また来ていーい?」と聞くと、リカルド様は「もちろん!」と言って優しく頬を緩めた。

感想 118

あなたにおすすめの小説

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ