異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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六章

220.兄の心情




「うぅっ、ごめんなさいだぞぉ、ゆるしてくださいだぞぉーっ!」


 俺は今、ロキの抱っこから俺を奪ったアンドレアによってお尻ぺんぺんの刑を受けている……。
 みんながいる前でお尻ぺんぺんなんて、公開処刑が過ぎるんだぞ。あまりにも恥ずかしすぎるんだぞ。容赦なさすぎて泣いちゃうんだぞ。

 ソファの座面に顔を埋めながら「ぶえぇっ!」と泣き喚く。いつもなら俺が涙を一つ見せるだけでよしよしモードに入るアンドレアだが、今回ばかりはガチで容赦がなかった。
 俺が泣いても抵抗しても決して拘束を緩めず、ただただ無表情でお尻を叩くアンドレア。痛みを感じないくらいには手加減されているけれど、それよりも冷たいアンドレアの態度が悲しくて涙が止まらない。

 嗚咽を漏らしながら号泣していると、やがてロキがそっとアンドレアの肩に手を置いて話しかけた。


「アンドレア、もうやめてあげて。悪いのは俺だから。俺が悪かったから。マジでごめん」


 流石のロキも、さっきまでの余裕とニコニコ笑顔を掻き消してガチトーンの制止を口にする。
 俺との結婚を勝ち取って“してやったり!のつもりだったみたいだけれど、割とガチでブチ切れたベルナルディ側を見て焦ったのだろう。そりゃブチ切れるに決まっているのに、ロキってばおバカさんだぞ。こうなることを見越して行動してほしかったぞ。ふえぇっ。

 ロキの制止にアンドレアがピタッと動きを止める。
 や、やっとお尻ぺんぺんの刑が終わったか……?と油断した瞬間、再びぺちぺちっ!とお尻を叩かれて「ふえぇっ」と涙ぐんだ。油断したところでぺんぺんは鬼畜すぎるんだぞぉー!


「何を当然のことを言っている?言われずとも貴様は殺す予定だからそこで大人しく待ってろクズ。今はルカへの仕置きだ。俺に黙って結婚を決めるなんて悪い子のすることだからな」


 悪い子だ、と説教しながらのお尻ぺんぺんにメンタルが削られていく。
 いつも『いい子いい子』と撫でてくれるアンドレアが、今は俺に冷たい目を向けて『悪い子』と言っている。それがグサッ!と胸に突き刺さって、更にほっぺが涙で濡れてしまった。


「ぶえぇぇっ!ごめんなしゃいぃ!きらわにゃいでぇぇっ!おにいしゃまぁぁ!」


 ガチの号泣を晒しながら泣き叫ぶ。
 大きな手がお尻から離れた一瞬の隙に、ぴゅんっと移動してアンドレアに抱き着いた。
 お腹にむぎゅむぎゅと顔を埋め、めんしゃいと泣き喚く。嫌わないで捨てないでと縋り付くと、やがてアンドレアが仕方なさそうに溜め息を吐いた。


「……はぁ」


 重く深い溜め息が降ってきて、ピタッと硬直する。
 やっぱり嫌われたんだ……とぷるぷる震えていると、ふいにアンドレアが俺をひょいっと抱き上げてむぎゅむぎゅ抱き締めた。


「ふぇ……?」


 ぐすぐすと情けない泣き顔を晒しながらそろりと見上げる。
 ぱちっと視線が合ったアンドレアの表情は、さっきの冷たいものとは違いとっても優しい慈愛の色に満ちていた。
 さっきまで激おこだったはずなのに、突然どうして?へにゃんと眉尻を下げると、アンドレアがびしょ濡れの俺のほっぺをムニュムニュ拭いながら低く囁いた。


「ルカ、反省したか?」


 ちょっぴり圧を含んだ瞳を見据えて、ハッと息を呑む。
 こくこくっ!と何度も頷きながら、コアラ抱っこでむぎゅーっと縋り付いた。


「うむ、うむっ!いっぱい反省しましただぞっ!ごめんなしゃいだぞっ!」


 ぴゅんっ!と光の速さで頭を下げると、アンドレアが俺の頭をよしよしと満足気に撫で回した。
 無表情をむっふーと緩ませ、ずっと黙って様子を窺っていた父にスンと視線を向けるアンドレア。おずおずと俺が顔を上げると同時に、アンドレアは淡々ととんでもないことを言い出した。


「では父上。ルカも反省しているようなので、説教はこのくらいにして婚約破棄の手続きを」

「……」


 ナヌッ!とめちゃんこびっくり仰天しながら飛び上がる。
 どういうこっちゃ!とあわあわ振り返ると、やっぱりかー……みたいな呆れ顔を浮かべるロキが見えて瞬いた。なんだ、想定内なのか?アンドレアのびっくり発言は想定の内だったのか……!?


「あぇ、えっ、お兄さま、許してくれたんじゃないのかっ……?」


 混乱を滲ませながら裾をちょいちょいっと引っ張ると、アンドレアがきょとんと不思議そうな顔をして答えた。


「……?説教は終わりだ。ルカは悪い子じゃない。許すとはどういうことだ?」

「ど、どゆことって……お説教おわったから、結婚、許してくれるんじゃ……」

「あ?」

「ぴぇッ!」


 突然のマフィアモードにガクガクブルブル。
 情けなく震える俺を見下ろし、アンドレアはとっても怖い無表情を浮かべた。な、なんで。なんで急におこなんだ!?おれ、なんかマズイこと言っちゃったか!?

 ぷるぷる震えながらそろりそろりと後退り。
 隙を見てロキのもとに避難した俺に気付くと、アンドレアは歪んだ怒り顔を浮かべた。それを見て更にぴえぇっ!と涙ぐむ。
 号泣する俺を抱き上げると、ロキはコアラ抱っこする俺をなでなでしながら呆れ声で語った。


「そろそろ意地を張るのもいい加減にしたら?ルカちゃんの気持ちを尊重してあげなよ。兄のくせに、ちょっとワガママすぎるんじゃない?」


 苦言を呈すロキに、アンドレアがムッと苛立ったような表情を見せる。


「……なんだと?貴様がルカを誑かしたんだろうが。ルカは幼い子供だぞ。恋愛だの結婚だの、そんなものにはまだ疎い幼子だ。妙な錯覚を抱かせやがって」

「はぁ。お前ね、まだそんなこと言ってんの?ルカちゃんはもう子供じゃないよ。確かに子供っぽい可愛い子だけど、もう立派な大人だ」


 子供っぽいとか可愛いとかは余計だぞ、と思わずツッコミを入れたくなってしまった。

 むぐむぐと衝動を堪えつつ、周囲の様子をそーっと窺う。
 ロキとアンドレアがピリついているっていうのに、どうして大人たちは何も言わないんだ?と思いきょろきょろしてみたけれど……どうやらみんな、二人の口論の行く末を見守っているみたいだ。
 うーむ……まぁ確かに、誰に何を言われたところで、今のアンドレアは聞きそうにないしなぁ。唯一聞く耳を持つとしたら、今まさに相手をしているロキの話くらいだろう。


「大人?人間どころか虫一匹殺せないルカが大人だと?馬鹿なことを。ルカは子供だ。血を見るだけで気を失う無垢な子供だ」


 ふ、ふつうは大人でも人間は殺さないんだぞ……。アンドレアってば、マフィアの世界に馴染み過ぎて常識をちょっぴり忘れちゃっているんだぞ……。


「考えてみなよ。今のルカちゃんと同い年の時、俺達は何をしてた?お前なんか、マフィアとしての後継者教育を終えた時期でしょ。ルカちゃんの歳は、まさにお前がドンパチ人殺して“大人”になった歳と同じなんだよ」


 はわわ、ロキにしてはしっかり論理的な説得なんだぞ。内容は置いといて……。
 これにはアンドレアも痛いところを突かれたのか、ぐぬぬと眉を寄せて黙り込んだ。「だがルカは俺達とは違う……」ともごもご呟くアンドレアに、ロキがトドメの言葉を突き付ける。


「ルカちゃんは俺達と違うっていうなら、お前はもう二度とルカちゃんが“大人”になるタイミングを決めつけないでよ。だって俺達とは違うんだし、お前が考える基準とも違うはずだよね」


 アンドレアがぐっと拳を握り締める。複雑な表情の中に滲む、一瞬見えた寂しそうな色。
 それに気が付いた瞬間、なんだか俺まで色々な感情が一気に湧き上がってしまった。
 必死に俺を“子供”ってことにして事実を受け入れることを拒絶する、そんなアンドレアの気持ちが痛いくらいに理解出来てしまったから。

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