恋を知らない麗人は

かえねこ

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8.先駆


 微エロあり。お触りキス程度。
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 王都まで馬車で約一月。
 その間に何ヶ所かの街に寄った。

 街の入口で検問を受けるたびに外套のフードを被らされ、街中でもフードを取ることを禁止された。

「ここまですることか?」
 今は春の初めでまだ肌寒いからいいが、これが夏なら暑くて敵わない。

「お願いですから、それ取らないで下さいね。後々面倒なんで」
 メルウィンが笑ってない目で釘を刺してくる。

 そこまで俺の外見は有害なのかと落ち込む。
 腕輪で姿変えをしている以上、目立たないと思うのだが。


 王都まであと一息、というところにあるテキスタの街に着いた。ここで宿に泊まるのは最後になる。

 最後まで買い物はさせて貰えなかった。
 深窓の姫君でもあるまいに、何故ここまで徹底する必要があるのだろうか。

 宿で寝台に横になりながら燻っていると、バアンと大きな音と共に扉が開いた。

 何事かと立ち上がり身構えると、入ってきたのは金の髪の美丈夫。

「ルクレオン、待っていたぞ」

 いや、こんなところに来る時点で待ってないだろう? 
 その言葉はエルリック様の抱擁と口づけに飲み込まれた。

「……ん……ぅ」

 荒々しく口腔を貪られ、呼吸すら苦しい。
 舌を千切られるかと思うほど強く吸われ、酸欠になった俺はエルリック様が支えていないと立っていられない程力が入らない。

「団長っ! なんっであんたが来てるんですか!」
 バシリッ! と鈍い音と共にメルウィンの怒鳴り声が聞こえた。
 買い物から帰ってきたらエルリック様がいるから驚いたのだろう。

「お前っ! 上司の頭を殴るとは何事だ」
「何事かってこっちが言いたいですっ! 王都で待ってて下さいって言いましたよね。何の為に俺がルクレオン様を迎えに行ったと思ってるんですかっ」

 どうもエルリック様が勝手に王都を抜け出したらしい。
 エルリック様の両手が離れたことで俺はその場にへたり込んだ。

「で? 団長だけですか。お付きの人はどうしました?」
「いや、邪魔だから連れて来てない」

 メルウィンの問いに間髪入れずにエルリック様が答えた瞬間、『スパコーン』と良い音がした。
 見るとメルウィンの手元に机の上に置いてあった紙を丸めた物が収まっている。どうやらそれでエルリック様の頭を叩いたようだ。

「せめて、ここに来ることを誰かに知らせてますよね」

 メルウィンの顔が怖い――。

 俺が副団長をしていたころは、彼はこんな風に団長に突っ込みを入れたりする性格ではなかった。
 副団長になったことで、随分と神経が図太く鍛えられたらしい。

「だ・ん・ちょ・おー!」

 こちらからは見えなかったが、エルリック様の表情から誰にも知らせていないことを読み取ったのだろう。
 メルウィンの頭に角が見える。

「いや、お前からの手紙を読んですぐ来たんだが、その手紙は置いて来てある。だからここにいる予測はついてるだろ」
 エルリック様は飄々とメルウィンの怒りも受け流してあっけらかんと答えた。

「もー、なんなのこの人。ルクレオン様のこととなるとなんで他のことはすっぽかすの」
 それを聞いたメルウィンは、怒りを通り越してどんよりと力なく頭を抱えた。

「ルクレオン様、やっぱり副団長に戻ってください~。この人、もう俺の手に負えませんっ!」
 暫くすると、メルウィンはガバリと顔をあげて、床にへたり込んだままの俺に向かって喚いた。

「ルクレオンが副団長に戻るのは賛成だ。そうすれば俺も勝手にフラフラしないぞ」
 うんうんと頷きながら、エルリック様は俺を見てくる。
 いや、俺が居ようと居まいとフラフラしないで欲しい。

 メルウィンも苦労しているな、と思いながら彼を見やる。
 するとメルウィンは何故か顔を赤くして目を逸らし、エルリック様は俺を覆うように抱きかかえて立ち上がらせた。

「メルウィン、見るな。減る」

 二人の態度に俺は首を傾げた。
 何が減るんだ?

「あ~、だったら団長も自重してくださいね」

 メルウィンは「さっき報告の手紙を出したばっかりなのに……」とぶつぶつ言いながら、机の前に座ると手に丸めていた紙にさらさらと書き込み、それを持って部屋を出ていった。
「団長、解ってますよね。自重してくださいよ、自重」
 という言葉を残して。

 エルリック様がここに来ていることを追加報告するのだろう。
 相変わらず、この人は自由だな……と呆れながらエルリック様の腕を外した。


 ここまではメルウィンと二人部屋だったのだが、エルリック様が来たことによってメルウィンが追い出された。
 彼は諦めた表情でもう一部屋とった。

「団長、明日の朝には出発ですからね。お願いですから手を出さないで下さいよ」
 そんなことを念押しして部屋を出ていった。

 確かに、手を出されるのは勘弁だ。
 そっちの方は王都を出てからご無沙汰で、ことに及べば俺の負担が大きすぎる。

 なのにエルリック様は俺が横になっている隣へ潜り込んでくる。寝台はもう一台あるのに。

「エルリック様、駄目ですよ」
 俺は言葉で牽制する。

「……解ってる。抱きしめるだけだ。俺を安心させてくれ」
 後ろから抱き込まれ、耳元に囁かれてくすぐったい。

「寝苦しいんですが……」
 長いこと一人で寝るのに慣れてしまい、身動き取れないことに居心地が悪い。

「すんすん……相変わらず、いい匂いしてるな」
「……嗅がないで下さい」

 そんなことを言われれば、余計に落ち着かない。
 更にもぞもぞと手が不埒に動くのに身動ぎして逃れようとする。

「じっとしてください」
「いやだ、やっとお前と二人きりなんだぞ。もっと堪能させろ」

 そう言いながら首筋に唇を這わせ、強く吸われれば吐息が漏れる。

「……んん……」

 彼は強く吸った後を嘗め舐りながら、手をシャツの下から潜り込ませてきた。
「……ん、駄目ですって」
 彼の手を外そうとするが、がっしりと抱き込まれて手もろくに動かせない。

 その間にも不埒な手は胸に辿り着き、乳首をくるくると撫でさすってくる。
 首の後ろをがぶりと噛みついては舐められ、熱い鼻息も荒い。
 ぞわぞわっと鳥肌なのか快感なのか判らないものが奔る。

「ちょっ、エル……リック様、やめて下さい」

 抵抗しようにも両手はがっしり抱き込まれ、両足も彼の脚に絡めとられている。
 どんなに力を込めても、俺より体格の良いエルリック様を振り払うことが出来ない。

 次第に彼の手が下半身に及ぼうとするのに、まずいと焦る。

 彼と離れてから一度も処理をしていないのだ。
 さっきからの愛撫で少し反応してしまっている。触れられてしまえば否応なくそれを暴かれる。
 彼の愛撫に反応したことに気付かれれば、調子に乗ってその先に進むことは容易に想像できた。

 これ以上続けられると、流されそうだ。それは遠慮したい。

 四肢が使えない状態で、他に取れる方法は……。

《電撃》

「うわっ!!」
 俺を抱き込んでいたエルリック様の身体はびくりと震えると、そのまま力を失った。

 力の抜けたその身体から漸く抜け出すと、彼の首筋に手を当てて生きていることを確認する。
 ちょっと加減が効かずに強めの魔法を使ってしまったのだ。

 脈拍が正常なことを確認すると、俺はホッとして隣の寝台に横になった。
 ひんやりとした寝台が火照った身体と乱れた心を静めてくれた。



 街を出て王都までの二回の野営では、テントに三人で寝た。
 エルリック様が余計なことをしないよう、間にメルウィンを挟むことで事なきを得た。
 翌朝はいつもエルリック様の機嫌が悪くぶつぶつ文句を零していたが、俺もメルウィンも素知らぬ顔で受け流した。


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