恋を知らない麗人は

かえねこ

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10.承諾



「近年、魔力量の多い王族が減っておってな。各都市の結界を維持できんようになってきた」

 他国からの侵略や魔獣の脅威から守る為、このカスタジール国の王都を含め主要都市には結界がある。その結界を維持しているのが王族である。
 当たり前だが、都市一つ補える結界があることが驚異的で、更にそれを維持できる魔力量となれば相当なものだ。
 基本的に魔力量を最も誇るのが王族である以上、その結界を維持する魔法陣に魔力を籠めるのは王族の務めだ。

 この結界があることは近隣諸国にも知られており、国境での鍔迫り合いはちょくちょく起こるが、国の内部にまで攻め入られることは滅多にない。
 だがその結界が維持できないと知られてしまえば、いつ他国に攻め入られても不思議はない。

「魔力量の多いもの同士の子の方が魔力量を多く持って生まれることは今までの歴史と研究で判っておる。
 じゃがその魔力量の多い女が殆ど生まれんようになった。王家に至ってはここ数代に渡って女が生まれたことがない」

 言われてみればその通りだ。
 だが王子は複数いるので跡継ぎに困ることなどなく、疑問に思いもしなかった。

「更には上流貴族にもある一定以上の魔力を持った女が生まれにくくなっておる。
 エルリックの婚約者だったあの女はその稀な魔力を持っておったんじゃが……」

 愚行のせいで婚約解消の上、修道院送りとなった。

「エルリックにも其方にも魔力量の多い女を娶ってもらうのが一番なんじゃが、相応しい女が既に居らん」

 だからと言って俺とエルリック様が伴侶になったところで、子供など生まれない。根本的な解決にはならないだろうに。

「そこでじゃ、これを見てくれ」

 陛下は棚から巻物を二つ取り出して大きな机の上に広げた。

「これは王家の家系図だ。
 こっちが初代からの分で、そっちは最近の分なんじゃが、何か気付くことはないかの?」

 よくある家系図と同じように見えるが、確かに不自然な点があった。
 現王の家系図部分はきちんと王妃様の名が記され、王子方が陛下と王妃様の子だと一目で判るようになっている。
 ところが、初代王の伴侶が書き込まれていないのだ。その子供たちは全て初代王からのみ線が伸びている。

「初代様の伴侶が記されていませんね」 
「その通りだ。その子供たちは初代様が産んだとされている」

「……初代様は女性だったんですか?」
 名前を見るとジルベールと男性名のようだが。

「初代様は竜人と呼ばれる種族だったようでの。その種族は男でも子供を産むことが可能だったらしい」

 ドラゴンは雌雄同体だという説がある。
 竜人はドラゴンと人間との間に生まれた種族だというから、両性具有だったのかもしれない。
 だがドラゴンやそれに近い種族の竜人が人前に姿を現さなくなって久しい。
 今では神話伝説の中だけの存在だと思われているのだ。

「私はそんな特殊な体質じゃありませんが」
 両性具有でもないのに子供など産めない。

「解っておる。じゃがな、記録に残っている銀髪金眼の者はみな子を産んでおるんじゃ」
「はい?」
 俺は思わず素っ頓狂な声をあげた。

 エルリック様が更に棚から二つ巻物を取り出して広げると、
「これを見てくれ」
 と歴代の王の一人を指さした。

 彼の家系図には伴侶との間にも子が記されているが、伴侶なしの子も記されていた。

「十五代目のガスタール王だ。彼も初代様と同じ銀髪金眼の持ち主だが、伴侶との間に王子を産ませ、自身でも王子と王女を産んでいる。
 それからこっちの三十六代目のアマリック王は伴侶名があるが相手も男。どうやら従兄弟だったらしいな」
「同性で……結婚?」

 しかもその間に子供がいる。王子と王女が。
 両性具有だったのか?

「元々この国に同性婚を禁じる法律はないんだ。ただ後継者を残す必要があるから異性の伴侶を選ぶことが定着しているだけだ。
 ちなみに両王ともに両性具有の記録はない。」

 俺の考えを読んだようにエルリック様が答えた。

「それから、その家系図にも記されているが、三十六代目のアマリック王の子供達も男を伴侶にしているんだ」

 そう言われて家系図をもう一度見ると、確かに子供たちの伴侶に男性名と女性名の両方がある。
 そして男性名との間にも子供がいるのだ。

「それはどっちが産んだのか知らんが、男同士でも子が出来ている」

 ……一体どうやって?

「男でも妊娠できる薬が開発されていたらしい。だがその成功率は非常に低かったようだな。
 家系図をよくよく調べれば王家では何度も男同士での婚姻がある。
 ところが子供が出来たという記録は銀髪金眼の王とその子孫の数代しかないんだ」

「そしてその薬の調薬法も残っておってな、試作品も作らせた。これがそうじゃ」
 陛下が小瓶を机の上に置いた。
 透明な小瓶の中に紅い液体が入っている。

「この薬は魔力量が多い程効果があるんじゃろう。だから銀髪金眼の王とその血の濃い者にしか効果が現れんかった」

 陛下は期待を込めた目で俺を見ている。
 銀髪金眼の俺がその薬を飲めば子供が出来るかもしれないということか。

 エルリック様のほうを見ると、これで文句はないだろう? と言わんばかりのドヤ顔だ。
 そこに俺の意思は無関係だ。なんだか殴りたい…が、我慢する。陛下の御前だ。

「それを飲んで俺に子供を産めということですか?」
 子供が出来るなら同性でも問題ないということか。

「出来ればそうして欲しい。この薬を飲んだからといって、必ずしも子供が出来るとは限らん。
 じゃが、このままでは王家は本当の意味で国を守れなくなる。魔力量の多い子が増えるなら何でも試したいんじゃ」

 結界が無くなったからと言って国が直ぐに荒れるわけではない。
 だがその結界によってこの国の平穏が守られていたことも事実だ。
 結界を維持するために王族同士の内乱も殆ど起きず、長らく大きな戦争がなかったことで国が疲弊することなく繁栄を保たれてきたのだ。
 この豊かな国を虎視眈々と狙っている国は多い。

 国の安全を持ち出されてしまえば、下級とはいえ貴族に生まれた俺は断れない。
 たとえ今は平民でもカスタジール国民には違いないのだ。
 ましてや陛下に頼まれて断れる者などいない。

「……わかりました」
「よっしゃぁ! これでお前と結婚できる」
 俺が承諾するや否や、エルリック様が抱きしめてきた。
 
「ちょっと、待ってください! 別に結婚しなくても子供を産めば良いんですよね」
 エルリック様を押しのけながらそう確認する。
 わざわざ一般的でない同性で結婚する必要まではない筈だ。以前のように関係だけ持てばよい。
 エルリック様は対外的には女性を娶った方がよい筈だ。

「……え!?」
 彼は愕然としてしまった。
 そして悄然とした顔で訴えてくる。
 結婚してくれないのか?
 と情けない目で。

「あー。こ奴との子供を産んでくれる気があるんじゃったら、結婚してやってくれんかのう?
 こ奴はもうお主以外娶る気はないようじゃ。お主に他に好きなものが居るんなら仕方ないが、こ奴が嫌いでなければ一緒になってやって欲しい」

 陛下は深々と俺に頭を下げてきた。

「陛下っ! 頭をお上げください。わかりましたから。結婚させていただきます」
 国の頂点に立つ陛下が俺に頭を下げるのに動転し、焦って承諾してしまった。

「ルクレオン、本当か? よし、すぐ結婚だ」 
 エルリック様が喜んで俺の両手を掴んだかと思うと、抱きしめられた。
「……え!?」
 俺は自分が何を口走ってしまったのかに気付き、動揺した。




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