白樫学園記

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3■球技大会☆双子スター誕生!? SIDE:希(了)

9.膨らむ想い

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 9.膨らむ想い

 結局、珠希とぎくしゃくしたまま、自分の部屋に戻って来た。
 珠希は辛抱強く僕が泣いている理由を聞こうとしてくれたけど、僕は頑として言わなかった。言えなかった。
 部屋に帰っても、まだアユは戻って来ていなかった。
 少しほっとした。
 洗面所の鏡に写る自分の目は、どう見たって泣きました、ってばればれで。
 きっとアユは心配すると思ったから。
 おふろから出てくると、珠希からの着信履歴があった。
 だけど、掛け直すことはしなかった。
 それにメールも。
『大丈夫? 僕が自分勝手だったからだよね。ごめん。もうあんなことしないから。許してくれるなら、またメールして欲しい。おやすみ』
 そのメールを見たら、また泣きそうになった。
 珠希はきっと、僕を誰かの代わりにして抱き締めたことを謝ってるんだろう、でも違うんだ。僕は、あの腕にずっと納まっていたかった。
 だから、つらくて泣けてきたんだよ。

 それから、次の日もその次の日も。順平とシュウとごはんを食べた。
 珠希には一度だけメールをした。怒ったりしてないから気にしないで、っていうこと。それから、クラスのみんなと仲良くなったから、これからは御飯を一緒に食べるんだ、ってこと。
 前と変わらない文体で、メールを送った。
 
 アユには、ふたりは仕事で忙しいし、僕もクラスのみんなと仲良くなりたいから、って説明した。
 同じ学校で、同じ寮にいるのに。
 2週間珠希に全く会わなかった。
 一度だけ空也先輩に会って、なにか言いたげだったけど、僕は適当な理由をつけて、急いでるふりをした。

 気付かなければよかった。
 諦めるしかないって、もうムリだって。分かってるのに。
 好きな気持ちが縮んだり薄らいだりすることはなくって。
 それどころか、会えないとよけいに膨らんでいくみたいだ。

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