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5■萌える緑☆恋する季節? SIDE:希(了)
1.キス
しおりを挟む「悪いな、お楽しみのとこ呼び出して」
「いいよ。きっちりオトシマエはつけようと思ってたから」
空也先輩が珠希の肩に手をおいて、笑った。
お楽しみ、って。空也先輩は僕らのこと知ってる?
「でもあれでよかったのかな。もっとボコボコに……」
僕の手をぎゅっと握ったまま、珠希がそんなことを言うから、僕とアユは驚いて顔を見合わせたけど、空也先輩はとくに驚いていないみたいだった。
「はは。さすがにオレでもあんな大人数は相手にできねーよ」
正直、ぞっとした。
暗い体育館に珠希と空也先輩と僕が着いた時、アユは数えきれない程の生徒に取り囲まれていた。
部屋に戻るとすぐ、空也先輩から連絡があって、僕と珠希は急いで体育館に向かった。珠希は僕を置いて行きたかったみたいだけど、どうしても僕はついて行くと言い張った。
「アユ、どうしていつも1人でどうにかしようとするの? 危ないじゃない」
もしも、もしも僕らが行くのがもう少し遅かったら、もしも、アユになにかあったら。
そう考えたら、体が震え出しそうだった。
「のんちゃん、お説教は空也に任せようよ。無事なんだし」
珠希の柔らかい声が降ってきて、僕の背中を力強い腕が包んだ。
「うん、わかった」
まだアユに言いたいことがいっぱいあったけど、今日二度見た空也先輩の爆発しそうに張り詰めた様子を思い出して、言うこと聞くことにした。
空也先輩にまかして、きっと大丈夫だと思ったから。
***
「はあ。今日はなんかいろいろ疲れたね」
そう言って珠希はソファに体を投げ出した。
「うん」
「のんちゃん、こっち」
珠希がソファで手招きをするから、左側に座った。
「違う、こっち」
珠希は少し強引に、僕の体に腕を回すと体を自分に引き寄せた。
珠希の腕が体に巻き付いている。
前にもこういうふうにされたことがあったけど、あの時は、自分の気持ちも珠希の気持ちも知らなかった。
……すごく、照れる。絶対顔真っ赤だ。
「はあ、安心する」
そう言って珠希は僕の髪の毛を撫でる。そうされて安心するのは、僕の方なのに。
「珠希。ごめんね」
「え? なにが?」
今なら言える気がした。面と向かって言えないことも。
「僕、この2週間、避けてたんだ。珠希のこと。勘違い、してたから。辛くて」
「すごいキツかった。あんなことしたから、希に嫌われたと思って。でも、実は僕も勘違いしてた」
珠希は相変わらず僕の髪の毛をいじりながら言う。勘違い? 珠希も?
「希は、空也のことが好きなんだと思ってた」
「えッ」
僕は驚いて、思わず体を起こして珠希を振り返った。
「空也が歩くんを好きなのか、とか。気にしてるから」
「ちが、それは……」
「それは?」
僕は起き上がったものの、珠希と面と向かうと恥ずかしくなって、またソファの背もたれに体を預けた。
なのに、今度は珠希が背もたれから体を起こして、向かい合うように僕を見ていた。
「珠希……」
もう僕は自分の顔がゆでだこみたいになってるのが分かっていて、隠れたいくらいだった。
でも、相変わらず珠希は微笑みながら僕を見下ろしている。
「珠希が、空也先輩のこと好きなんだと思ってたから、ふたりが、うまくいけばいいと思って、」
あんまりにも的外れなことを考えていた自分が恥ずかしくって、僕は両手で顔を覆った。
珠希がくすくす笑うのが聞こえてくる。
「希」
珠希が僕の名前を呼ぶたびに、心臓がぴょんっと跳ねる。
「希。かわいい顔見せて」
そんなこと言われたら、恥ずかしくってよけいに顔が赤くなる。
「珠希、なんで僕のこと、名前で呼ぶ時とそうじゃない時があるの?」
自分の手のひらの中から、僕は不思議に思っていたことを聞いた。
……。沈黙。
黙った珠希を不思議に思って、僕は手のひらを顔からどけた。
「やっと出てきた」
そう言って笑うと珠希は僕の両手首を掴む。
また逃げ場がなくなる。
「僕が、のんちゃんって呼ぶのは、そうやって自分に歯止めをかけようとしてたから。独占欲が溢れ出して、希を一人占めしたくなるから、友達っぽく呼んで、自分を諌めようとしてた」
僕は珠希が言った言葉の意味を、ひとつずつ理解しようと勤めていた。
「わかる?」
「……なんとなく」
「そう?」
珠希の目が、いたずらっぽく光ったような気がした。
珠希が僕に覆いかぶさるように近付いて来る。
先を予測して、僕は目を閉じた。
ちゅ、っと触れるだけのキス。僕の、人生2度目のキスだ。
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