白樫学園記

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5■萌える緑☆恋する季節? SIDE:希(了)

7.噂の尾ひれと真実

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「おはよん。希。すっごい噂でもちきりだよ」
 登校してすぐ、シュウがそう言った。
「おはよ。なに? 噂って。おはよ、順平」
「おはよー」
 すぐに順平も登校して来た。
「ほんとなの? あの噂」
「あの噂、って? だから何」
「紫堂先輩と久慈先輩が親衛隊集めてボッコボコにしたって。んで、希と歩に手ぇ出した奴は許さないって。もうすでに何人か病院送りなんだろ? 退学させられた奴もいるらしいし」
 シュウが言うのを僕はぽかんとして見ていた。
「あ、俺あと、紫堂財閥が圧力かけて親の会社潰されかけた奴もいるって聞いたよ」
 順平が言うのを聞いても、僕はなにがなんだか。
 だけど、登校中に感じていた変化の理由が分かった。休みの前と、明らかに違った。
 みんな、僕らを見てひそひそ言ったりしてたけど、それは前みたいな中傷ではなかった。
 僕らを恐い目つきで睨む人もいなかった。アユのことをかっこいいって言ってる声まで聞こえてきた。
「で? どれが本当なんだ?」
 ふたりが僕をのぞき込む。
「どれって。どれもほんとじゃないよ。確かに、アユを呼び出した人たちに、ふたりが怒ってくれたのは事実だけど。怪我人は出てないからね、ほんとに」
 そう言いながら僕はふとボコボコに、って言ってた珠希を思い出した。
 もしも、あの人たちが逃げて行かなかったら、そうなってたりして……あはは、まさかね。
「そっか。そうだよな」
「でも、久慈先輩と紫堂先輩が守ってくれた、ってのは合ってたんだ?」
「うん、そう」
「だよなー、あん時だって、すげえかっこよかったもん。希が階段から落ちた時『希に手を出したら、絶対に許さない!』って。俺マジで夢に見るかと思った」
 シュウはびしっと俺を指さして、珠希の真似なのか、声色を変えて宣言した。
 こうやって、噂に尾ひれがついていくんだね……。
「でもさ、マジな話。絶対久慈先輩って希のこと好きだと思った。なあ? 順平」
「ああ、それは思った」
「だろーう? だからやっぱ、あきらめるのは早いよ、希」
 ふたりは僕を覗き込むように見た。
「あ、の、そのことなんだけど……」
「うん?」
「あの、さ」
 僕はふたりにだけ聞こえる声で告げた。
「いろいろ誤解があって。それで……えと、つき合うことになったんだ」
「え……ええ、えええええ! 久慈先輩と付き合ってんの!?? 希! うそッ!」


 シュウの大声が、ショートホームルーム前の教室に響き渡った。
「しっっ! 声おっきいい」
 そう言ったのも手後れ。
『えええええ!』
 もちろん、クラス中に知れることになってしまった……。
 その日一日中、休み時間になると机を取り囲まれて、根掘り葉掘り聞かれたことは言うまでもない。
 それに、なんだかみんなは変な想像をしてるみたいだし。
 何人ものクラスメイトに、『どうだった?』とか聞かれた。
 どう? って、なにが!??
 もちろん、キスのこととか、言いたくないし。
 僕は曖昧に笑って流した。
 もう僕は疲れ果てたよ。


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