白樫学園記

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5■萌える緑☆恋する季節? SIDE:希(了)

15.寮長はつらいよ

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 すぐにバスタブにお湯をはって、ゆっくりとつかる。
 珠希、大変だな。
 ……。珠希のこと思い浮かべると、さっきのキスが蘇ってきた。誰もいないのに、そわそわする。
 なんだかどうしようもなくなって、ざぶんっとお湯の中に潜った。
「ぷはっあ」
 息が苦しくなって顔を上げると、なんだか自分が馬鹿みたいに思えておかしくなってきた。
 ふと目にはいった鏡に写っていた自分の顔が、だらしなくにやけていて、情けなくなる。

 バタンッ ダンッ ドンッ
 ドアが乱暴に閉められる音がした。それから、冷蔵庫を開けたり閉めたりする、乱暴な音も。
「アユー? 帰ってきたの?」
 僕は声を張り上げた。
 それから耳をすます。
 でも、なんにも聞こえてこない。
 すぐに分かった。
 アユ、なんか怒ってる。

「アユ、やっぱ帰ってたんだ。おかえり」
「うん。ただいま。今ごろお風呂?」
 アユは。僕の予想を裏切って怒っているふうには見えない。
「うん、雨に濡れちゃったから。アユ、もうすぐごはんだよ? そんなにお菓子食べたらごはん食べれないよ?」
 アユは、ポテトチップスとポップコーンを開けて、むしゃむしゃと食べていた。
「うん、大丈夫、食べれるよ」 
 そう言ったけど。
 なんか変。アユがこんなにも好んで塩気のあるものを食べてるなんて。アユは絶対的な甘党なのに……。
 だけど、アユの背中が聞くなと語っていたから、僕はなにも気がついていないふりを続けることにした。

***
空也先輩が僕らを迎えに来て、食堂に行った。僕はふたりが喧嘩でもしたのかと思って伺っていたけど、なんだか違うみたい。
 アユも空也先輩に対して普通だし。僕の思い違いだったのかも。
「空也先輩、珠希は?」
「あいつは遅れて来るよ。すぐ来るから、先注文しな」
「はい」
 さっきの仕事、まだ終わってないのかな。そう思っていると、すぐに珠希が部屋に入って来た。
「遅れてごめん」
「俺らも今来たとこ。うまくいったか?」
「ああ。なんとか」
 珠希はすごく疲れた顔をしている。

「珠希、仕事って、そんなに大変だったの?」
「うん、まあ。3年生でね、隠れてペット飼ってた生徒がいてね。彼は前にも何度かそういうことがあって、ほら、ここペット禁止だから。で、厳重注意して実家にペットを引き取ってもらったんだけど。今回はミニ豚。で、彼がどうしても一緒にいたいって泣いてダダこねるから。管理人さんも困っちゃって。僕も一緒に説得してたんだ」
「俺ミニ豚ってみたことない、かわいかった? 珠希」
「ああ……なんていうか、ミニではなかったね。囲いに入れようとしたんだけど、暴れ回って大変だった」
 珠希はアユの質問に、苦笑いで答えた。
「ほんっと、あいつ懲りねえよな。前なんか、猿だぜ? で、大きくなると暴れて手ぇつけらんなくなってさ。あん時もあいつ、廊下に響き渡る声で泣いてたよな、連れて行かないでー、とか言って」
 空也先輩は笑う。なんか、お金持ちって、思い付くペットも違うんだね。猫とか犬じゃないの? 僕がそう思ってアユを見ると、アユも目を丸くして僕を見ていた。
 僕とアユと空也先輩はお肉。珠希は、疲れて食欲がないって言って、コンソメスープを頼んだ。
 なんか心配。
 珠希、大丈夫かな。


***
「珠希、大丈夫?」
 食事の後、なんだか心配で、珠希の手をそっと握った。
「うん、大丈夫だよ。疲れただけだから、眠れば治るし。心配してくれたの? ありがと」
 そう言って珠希は僕の髪を撫でる。
 ほんとは部屋まで送って行ってあげたかったけど、そんなことしたらよけいに珠希を疲れさせちゃう気がして、僕はアユと一緒に部屋に戻った。

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