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マネージャーとしての教育

俺の意志

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 刹那、俺は、理解する。伊永だって、普通の男子で、邪な感情くらい抱いていることに。俯く顔、揺れる瞳、唇を少し噛む歯。その全てが、魅力的で、俺はこいつに、また無限の可能性を感じた。
「ねえ、伊永、何想像した?」
「してへん。何も想像してへん。佐藤さんと一緒にせんといて」
無駄にムキになるあたり、どうやったってそれを想像したって言ってるようなもんなのに。
 まだまだ攻めさせてね。
「神崎に、伊永くんって大っきいねって言われて、何も思わなかった?」
「背の話やって!」
「そう、怒んなよ。今は、王子なんて忘れて良いよ?ちゃんと、俺と、伊永駿で話して」
「佐藤さんは、それ聞いてどうするん?」
「俺さあ、伊永にもっと色んな世界見せたいんだよね。そんで、もっと違うイメージを世間に植え付けたいわけ、それのファーストステップが、これ」
本音を聞くには、俺が先に本音を言わなくてはいけない。
 ただ、誤魔化したりもせず、真っ直ぐ。伝われ。その一心で言葉を続けることを決めた。
「意味分からんわ」
「健全とか純真無垢とか、なんか、伊永には似合わないかなって。もっとギラついた感じ欲しいなあって。あとは、余裕ない感じとか」
「それ、キャラ変更的な話?」
「いや?もっと、伊永を生きやすくさせたい。凝り固まったイメージの中、生きるのってしんどいから。もっと自由に息をさせたい。発言を王子的なやつに変えなくても良いような。純粋な伊永の声が聞きたい。俺は」
「俺が、ほんまに思ってることなんて、佐藤さん、ほんまに聞きたい?」
 あと、ひと押し。聞きたい。聴きたい。ききたい。それしか浮かばねえ。
「少なくとも、今、思ってること、感じてることは絶対聴きたい」
俺の言葉に、何かを決意したように口を開いた伊永。
「俺、全然、綺麗ちゃうし、心汚いし、あかんって分かってても、蘇雨先生の発言に違う意図勘繰っちゃうし、それをそういう厭らしい意味で聞きたいって思ってまうし、先生の全部知りたいし、俺が一番がええし、蘇雨先生の頭の中、俺でいっぱいにしたいし、俺のことだけ考えてぐちゃぐちゃになればええって本気で思うし、めちゃくちゃにしたいって、ほんまに限界オタクみたいなこと思ってました」
いや、想像以上にやばめの思考でびっくりしたわ。
「お前、まじでやばいな」
「だから、言ったやん」
 これは、行動を早めにすることで手を打とうか。
「ねえ、伊永、ちょっとやばめの作品出てみる?」
「え?」
「神崎の作品狙うなら、表情生きないと違う奴に掻っ攫われるぞ」
「俺、やります」
まあ、その言葉が欲しかっただけなんだけども。というか、俺が、こいつの色んな顔見たいだけかも。
 さて、結構濡れ場多い作品で、伊永はどんな顔見せてくれんのかなあ。
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