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交流の序章

神崎という人間

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 とりあえず、二人を引き離す。
「めっちゃ緊張した、私できてた?」
「え、あ、はい。いや、すんません!ほんまに止まられんかった」
「伊永、それ、現場でできると良いな」
「そうですね、頑張ります」
「頑張ってね、駿くん」
「へ?あ、はい!」
駿くん呼びが抜けてないことに、困惑しながらも嬉しそうな伊永。
 可愛い奴だな。ただ、この顔が、現場でできるとは到底思えんけど。
「蘇雨先生、すごい上手ですね」
「ん?あー、妄想力の賜物かな」
「妄想力?」
「そう、大体、想像しながら読んだりするから、そのキャラを降ろしてくる的な」
「そんなことできるんですか」
「まあ、難しかったら、言って欲しい人を想像しながら、その人に重ねてみるとか効果的かもよ?」
「なるほど!頑張ります。ちょっと、俺、今日は帰りますね、蘇雨先生、ほんまにありがと、助かりました。おおきに!ほな、また!」
バタバタと帰って行く伊永。
「お前、良いこと言うな?」
「そう?」
「これ、明日からは安心かも」
「伊永くん、何かあったの?」
「んー、あいつ経験少ねえから」
 できるだけオブラートに包んで発言した。俺の努力は、神崎の前では無力。
「何の?」
「えー、聞いちゃう?」
「ん?」
「まあ、そういうことよ」
「え?どういうこと?」
「鈍感か、てめえ」
まじで、こいつ。本気で出て来た口の悪さ。困ったような顔を浮かべる神崎。
「口悪いってば」
「濡れ場だよ、濡れ場」
「え?」
「経験少ねえのよ、つか、ねえかもよ?」
「んん」
 いや、聞いたことない反応に普通に困惑したわ。変わってんなあ、神崎は。まあ、そこがおもろいんやけど。
「どんな反応なん?」
「いや、描きたいと思ってしまった」
「あー、描けば?伊永、描きたくなる要素しかなくね?」
真面目にそう思う。俺だって、描けるものなら描きたいくらいなのだから。
 そんな俺に、神崎は訳のわからない回答をした。
「だめだよ、そんなの、卑怯じゃん」
「何が?」
「だって、描いちゃうってことは、勝手に伊永くんで、妄想するんだよ?」
「しちゃえよ」
「だめだめ!私、そんなのできない」
「何、綺麗ぶってんだよ、絶対、由羅モデルにして描いたことあるくせに」
「んなっ」
「ほーら、図星やん」
「ぐっ、とにかく、会ったことある人は、だめなの」
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