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交流の序章

訳分からんのは三人

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 訳分からん奴。そう思った時、俺は、訳分からんといえば、と、ある人を頭に思い浮かべた。
「てか、神崎、あの編集さんってどんな人なの?」
「ん?山田?あれは、変な奴だよ」
「やっぱりか」
「何で?」
「神崎のこと、好きなくせに、一人現場に置いて行ったりするから、何なのかなって」
「え?好きとかじゃないよ、あいつ適当だし」
は?何言ってんの?明らかに自分の神崎みたいな感じ凄かったのに?こいつ、まじで、鈍感なの?
「ああ、そう?」
 全ての感想は隠して、とぼけることにした。
「あ、今度、現場見学に行くって山田言ってたよ」
「は?何しに?」
「何か、下見?てきな」
「ほーん、怖えな」
「そう?あいつ特に何も考えてないよ」
こいつ、まじで、何も分かってねえなあ。危ないわ。
「神崎、あんまり俺から見えないとこまで行くなよ」
 本気で、俺はそう思って口にした。しかし、目の前のバカはとにかく、キョトン顔。
「何で?」
「まじで、危ねえ」
「ん?佐藤は安全なのか?」
その質問に、戸惑いながら答えた。
「まあ、他のやつよりはな」
 どの口が言ってんだか。安全な訳ないくせに。でも、神崎には、安全かもしれん。
「そっか、山田は女癖悪いしな」
「は?俺も悪いんだけど?」
女癖の悪さだけは負けねえという、まじで、何の価値もねえ気持ちが前のめりに場面を間違えて口から出てきた。
「え?何の張り合い?」
「わり、間違えた」
「山田は、一人の人を一途に愛せないからな」
 は?あれで?だって、あいつ、お前のことしか見てなくね?でも、これを俺が言うのはルール違反だろうな。
「そうなん?」
「ん。とにかく、ダメ男だな」
「分かってんなら、いっか」
「おん?」
「とにかく、ダメ男みたいな奴にはついて行くな。そうだなあ、多分、俺のがマシ」
「斉藤くんが一番だな」
「由羅ねえ、やめとけば?」
 そんな、俺の我儘を突き通そうとしてしまう。俺は、愚かだ。でも、俺だって俺の意志がある。
「分かってるよ、斉藤くんと同じ土俵にも、空間にも立てない」
「え?そんなに?」
「だって、斉藤くん目の前にして、私が認知されるとしたら、そんなの、私、霧散するっしょ?」
「は?知らんわ、つか、怖」
「そういうレベルなの。神の領域なの」
「そうかなあ、まあ、俺もそう思う奴いるけど」
「え?意外」
意外も何も、伊永だっての。
 あいつの全てが、俺には特別で大切なんだよ。だから、あいつの気持ちだけは、尊重したいし、俺だけは、応援したい。こんなことをしたら、言ったら、俺は、本当にマネージャー失格だろうな。
 だって、でも、とか、言い訳は湯水のように湧いてくる。しょうがなくね?まじで好きで堪んねえ奴が幸せになればって思うのなんて当たり前だろ。他の誰が許さなくても、世界の全てが、お前を祝福しなくても、俺は、俺だけは、お前を祝福するし、どうやったって根回しくらいするよ。
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