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雛田

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それは本人に

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 飲み物を飲みながら待っていると、現れた派手な色のパーカーを着た、いろはくん。
「がっくん!お待たせ」
「全然、待ってないよ」
そんな、やり取りをしていると、申し訳なさそうに口を開いた、いろはくん。
「あのね、がっくん。俺、ちょっと聞きたいことあって」
「どうしたの?」
「がっくん、俺にギターを教えてほしい」
急に、そう思ったのだろうか。と、思いながらも、すぐに返事をする。
「良いよ。俺で良ければ」
「本当に?え、嬉しい。俺、音無いと歌えないから、この前みたいな時に対処できるようになりたくて」
なるほど。そういうことか。いろはくん、気にしてたんだ。
 単純に、力になりたいと思う。
「全然良いよ。俺、そこまで上手くないけど」
「嬉しすぎる。ありがと」
ついでに、俺も気になったことを口にしてみる。
「俺も、聞きたいことあるんだけど。彩さん、今日見かけたら、男の人と一緒だったんだよね」
「彩、あー、それなら、本人に聞いた方が良いと思う」
その瞳には、大丈夫と書いてある気がした。
「そっか、そうだよね」
「うん」
「ギター買うの?」
「そう!どこで買おうか悩んでて」
「一緒に行く?」
「え!行きたい!」
それから、カフェを出て、いろはくんのギターを選んだりして、家に帰ることにした。
 二人で同じ経路で島に帰っていく。
「いろはくんって、今、いくつ?」
「え?今更?」
「そういえば、聞いてなかったなって」
本当に唐突に、そう思ったのだ。
「二十歳。彩とは、四つ違い」
「そうなんだ」
 俺が聞きたいことが分かったのか、頷きながら、こう続ける。
「そうそう。通信制の大学で勉強してる。島から出てると時間無いし。彩は、一応、芸術の学校出てるんだけど、あの時は、闇多くて。ほとんど、描けなくなってたよ。あ、これも、詳しくは、彩から聞いてもらいたいかな」
「分かった。ギターの練習、いつでも付き合うから」
「うん。でも、がっくんも忙しいだろうし、ある程度一人で練習してから、どうしても分かんなかったら呼ぶね」
「いつでも、呼んで。俺も飛んでいくから」
「スパダリかよ。」
「スーパーダーリンとかじゃないから」
「ある程度、俺とがっくん、相思相愛だと思うんだけどな」
「ある意味な。俺、こっちだから」
そう言うと、片手を上げて反応した、いろはくん。
「じゃあ、また。ちゃんと、彩に聞いてね」
「ちゃんと分かってるよ」
 それぞれ別の道に歩きながら、何て聞くのが正解なのかを悩んでいた。今日、見たことをそのまま聞けば良いんだろうけど。
 面と向かって傷つく勇気が無い。でも、いろはくんが大丈夫と言うのだから大丈夫なんだろう。

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