闇天狗

九影歌介

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ササメ 12

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●その、三日前


 目覚めると、木の梁が見えた。天井が高い。木の匂いがする。部屋は暖かかった。窓の外に雪が積もっているのが見えた。丁度、どさどさっと、雪が屋根から落ちるところが見れた。
 パチリ。と、木の爆ぜる音が聞こえた。
 振り向くと、鉄鍋のかかった囲炉裏の前で癒簾が丸まって眠っていた。
 獻瑪は身を起こした。
 夜具を掛けられていた。部屋を見回した。どこかの樵小屋のようだった。
 あれから、どうしたのだろう。
 よく、思い出せない。
 獻瑪は立ち上がった。足に上手く力が入らず、少しよろけた。だが、さほど衰えてはいない。鬼導術も、使おうと思えば使えそうなほどには回復していた。
 窓の側へより、外を見た。
 一面白い景色ばかりが続いている。凹凸さえも隠し、ただただ白い平面がどこまでも続いているのだ。これが、朝晩の一番冷え込む時間には凍って固くなり、人が歩けるようになる。
 子どもの頃は、その時間が楽しみだった。
 何もない広い雪原の上で、璃石や他の子どもたちとよく遊んだ。おいかけっこをしたり、そりをひっぱりあったり。たわいもない遊びが、楽しかった。
 獻瑪は笑んでいた。
 やはり、ここは故郷なのだ。懐かしくて、同時に、何故か切ない。
 あのときにはもう戻れぬ自分がここにいること。それを見せつけられている気がして。
「獻瑪?」
 癒簾の声が聞こえたので振り向くと、癒簾は眠たそうに目をこすっていた。それから、獻瑪をみあげて笑った。
「よかった。元気になった」
「ありがとう。ごめんな、迷惑かけて」
「ううん。わたしのほうこそ、なにもできなくてごめん」
 癒簾はうつむいて言った。
 確かに、天狗の術を癒簾はあまり使おうとしない。それを疑問には思ったが、責める気は毛頭なかった。癒簾には癒簾の事情があるのだろう。
「気にするなって。それより、ここ、どこ」
 獻瑪は癒簾の隣へきて座り、囲炉裏で手を温めた。
「杣小屋だって、助けてくれた人が教えてくれたの。あ、おかゆが煮えてるよ。お腹すいたでしょう」
 癒簾はそう言いながら、獻瑪に御碗にいっぱいの粥を温まった鍋からよそってくれた。蛙の足のようなものが見えたが、見なかったことにしよう。
「ありがと。おお、熱っちぃ。でも、その助けてくれた人はどこ行ったの」
「ここを好きに使っていいって言って、必要なものだけおいて家に帰ってしまったよ」
「そっか。今度会ったら御礼言っとかないとな」
「そうだね。よかった、いい人に会えて。わたし一人じゃ、倒れた獻瑪を助けられなかったかもしれないもの」
「この島の人たちは皆親切だよ」
「ここは、島なの?」
 獻瑪は癒簾の顔を見た。そうか、癒簾は何も知らないのだ。
「ああ、ここは宇秧島っていう、おれと璃石の故郷だよ」
「そうなんだ。わたし、どうしてここに自分がいるのか、よくわからなくて」
 そのことを、近いうちに話さなければならない。だが、今はあまり話す気にはなれなかった。自分でもまだ、整理できていないのだ。だが、前よりはいくらか頭がすっきりしている。この分なら、早いうちに結論は出せそうだ。
「わたし、こんなに寒い場所があるなんて知らなかった」
 癒簾が心苦しそうに言った。
「姫なのに、何も国のこと知らなくて恥ずかしい」
「気にすることないよ。これから覚えていけばいいんだから」
「ありがとう。じゃあ、獻瑪が先生ね」
「え?」
 癒簾はにこりと笑って言う。癒簾がいると、どんなときでも周りが明るくなる気がした。
「まずは、獻瑪の故郷のこと色々教えて」
「いろいろって言ってもなあ、おれもガキの頃しかいなかったし」
「そうなの? どうして?」
「いや、おれ不良少年だったからさ。家出したのよ。よくある話でしょ」
 そう言って、いつも適当に誤魔化してきた。そうして、逃げてきた。だがもう逃げないと決めたのだ。
「この島ではさ、皆鬼導術を学ぶんだ」
 癒簾は黙って相槌を打つ。獻瑪はいくぶん冷めた粥をすすった。
「大昔、鬼が闇天狗を支配していた頃からの伝統で受け継いできた術なんだけど、天狗様が鬼を封印してからは闇天狗も来なくなったんだ。闇天狗が天狗に仕え、子をさらうことを禁じたからだよ」
 獻瑪は箸を舐めた。
「それで、術の継承は形ばかりになっていった。おれも、鬼導師なんてもう世の中にはいらないとさえ思ってたよ。これからは唄だってな。おれは、いになるのが夢だったからな」
 そこで獻瑪は苦笑した。
 だが、唯一本気の唄を聞かせたことがある奴に、ド音痴と言われた。
 つい最近だ。璃石が璃石であったことを覚えていなければ、おれのことをド音痴なんていえるもんか。
「でも、こんなことになるならもっとまじめに取り組んでおけばよかったと、大後悔したよ」
「こんなこと?」
「親友がさ、いや、家族だ。とにかくおれの大事な友が、闇天狗にさらわれたんだよ。おれは、そのとき一緒にいたのに何もできなかった」
「闇天狗が……」
「どうやら、さらわれた子は、闇天狗となるらしいな。だから、璃石はかげとなった」
「かげが、璃石。璃石も、ここで鬼導術を学んでいたの?」
「ああ。あいつは、凄かったよ。一頭抜けてた。だからこそ、闇天狗に狙われたのかもしれないけどな」
 癒簾は考えこむようにうつむいた。その悲しげな顔を見ていたら、魔が差した。
「癒簾」獻瑪は癒簾の唇を奪い、そのまま後ろへ押し倒した。
 粥の茶碗が傾き、箸が音をたてて落ちた。
「獻瑪、」癒簾の驚いて見開いた目が、獻瑪を見つめる。
「おれは、お前の伽役なんだろ?」
「でも、今は、」
「今でないなら、いつならいいんだ。おれなら、かげみたいにいなくなったりしないよ。ずっとお前の側にいるよ。それでも、おれじゃ、だめ?」
 癒簾は少し間をおいて、だが首を横に振った。
「癒簾」獻瑪は癒簾の唇を吸った。
「かげのことは、忘れろ。そのほうが、楽になる」
 獻瑪は忘れられなかった。
 だから、ずっとずっと苦しかった。同じ苦しみを、癒簾には抱えてほしくない。
 獻瑪は癒簾の襟を開いて、手を入れた。
 小さく緊張している胸に触れれば、癒簾は小さく驚いて体を強張らす。獻瑪は、自分が大罪を犯そうとしているようなとんでもない罪悪感にかられた。
 それでも、帯を解く。
 美しい裸体が目の前にあって、獻瑪は目を瞠った。秘部にごく近い内腿に、刺青がある。いや、痣と言った方が正しい。それは、王将の印である天狗龍であった。
間違いないであろう。鼻の先が長い龍は珍しい。だが、どういうことだ。なぜ、癒簾が王将の印を持っているのか。
「獻瑪から買ったものだよ」
「え?」
癒簾の言葉に我に返った。癒簾は男物のふんどしをしていた。
「ああ」またためらった。その褌は、自分が癒簾に売ったものだった。かげと揃いにすると言って。あのときか、いや、そのもっとずっとまえから、恐らく二人は出会ったときから、惹かれあっていたのだ。
癒簾の想いは、おれには向いていない。
 なら、このおれの想いはどうしたらいい。
 獻瑪は乱暴に癒簾の下着を剥いで、愛撫を続けた。しばらく、 
 ――だが、癒簾の涙をこらえる姿を無視できるほど、獻瑪は非情ではなかった。
「ごめん。強引だった」
 獻瑪は身を起こすと、癒簾にはぎとった着物をかけてやった。
 癒簾は、それで顔を覆うようにして泣き出した。
「ごめんなさい。わたし、わたし、やっぱり、」
「謝んないでくれよ。おれが悪いんだ」
 癒簾の気持ちを知っていながら、無理やりこちらを振り向かせようとした。最低だ。ひどいことをした。
「ううん。わたし、獻瑪でよかったと思っていた。獻瑪が伽役と聞いても嫌じゃなかった。でも、今はかげに会いたいの。会いたくて、かげのことばかり考えてしまって。獻瑪に、それじゃあ申し訳なくて」
 それで小さな心を潰したのだ。潰させたのは、おれだ。
「ほんとに、ごめん。おれ、卑怯だ」
 言ってないことがある。そう言うと、癒簾は身を起こし、涙の筋を残したまま獻瑪のことを見つめた。
「まず着物着な。寒いと風邪をひく」
 癒簾は言われた通りにした。静かに帯を結ぶ癒簾を見ながら、獻瑪は言った。
「璃石は、癒簾のことを裏切ってはいないよ」
「どういうこと」
 癒簾が首をかしげ、こちらへ向き直った。
 事実を、まず話すべきだった。獻瑪の中で結論を出してから、その結論を告げようとしたのは、卑怯な考えだった。
「この村へ、俺たちを送り届けてくれたのは、璃石なんだよ」
 あの時――。
 璃石は獻瑪に囁いた。
「小指を斬り落とせ」それだけで意味は通じた。璃石は、獻瑪の小指を形代にしろと言ったのだ。
 長年、獻瑪の肉に宿っていた鬼の爪は、獻瑪の一部となっている。それを斬り落とし、術で再生を施せば形だけは獻瑪の姿となる。それで使鬼が元に戻れば、獻瑪の肉を体内に持った使鬼があの場に残ることになる。
 つまり、小指を斬り落としたのは獻瑪が使鬼に喰われて死んだと、見せかけるための一策であったのだ。そうして、
「癒簾を、頼むぞ」
 璃石はそう言って、獻瑪と癒簾を影の中へと引きずり込んだのだ。
どうなるかもわからず、手に握っているのは癒簾と璃石への信頼だけだった。気づいたときには、この島、故郷の村へと二人は璃石によって逃されていたのだ。
「でも、どうしてこの島なんだろうな。逃がすだけなら、他の場所でもいいのに」
 あの場で死んだという証を残せたのは獻瑪だけだ。癒簾の屍魂が残っていなければ、いずれ鬼は探しにくるだろう。だとすれば、この僻地よりももっと癒簾を隠しやすい場所だってあるのだ。
 癒簾は、少し考えてから言った。
「かげ、ううん。璃石は、ふるさとへ帰りたかったのかもしれないね」
「そうかもな」だが、それだけなのだろうか。意識的になのか、無意識なのか、璃石は、璃石の生まれ育った村へ獻瑪たちを送り込んだのだ。そこには何か意味がある気がしてならなかった。
「璃石は、わたしよりもずっと淋しい思いをしていたのかな」
 獻瑪は、癒簾のその呟きに何と答えてよいかわからなかった。
「わたしの側で仕えながら、わたしを殺さなければならない命をおびていた。璃石は、そんなそぶりこれっぽっちもみせなかったんだよ。どういう、気持ちだったのかな」
 微塵も疑っていない。獻瑪が、打ち明けるまでもなく、癒簾は初めから璃石のことを信じていたのだ。
「わたしが、気づいてあげられたらよかったのかな。璃石に、わたしを殺していいよって言えたらよかったのかな」
 獻瑪が反論しようとすると、癒簾は自ら首を振った。
「ちがうよね。わたしが璃石だったら、そんなこと喜ばない。わたしがもし璃石を殺さなければいけない立場だったら、きっとすごく苦しんで、最後はなにがあったって璃石への心を裏切れない。離れていても、どこかで生きていてほしいって思う。もう、二度と会えなくても、幸せに暮らしていてほしいって思う。璃石も、同じ気持ちだったのかな。わたしたちを逃がすために、璃石は犠牲になったんだよね」
 癒簾は大きく息を吐いて、獻瑪をまっすぐに見た。
「あのね、獻瑪。実は、わたしも獻瑪に黙っていたことがあるの」
 獻瑪が頷き、癒簾が口を開きかけたときだった。俄に外が騒がしくなった。
「やめろ! 相手は病人だぞ」
「うるさい! 俺たちは子供を奪われたんだぞ」
「そうだ。悪人なぞ庇う必要はねえ」
「これは仇討ちだ」
「やめろ、そんなことしても子どもが帰ってくるわけじゃないだろう」
「どけ!」
「うわっ」
 男たちの言い争う声が近づいてきたかと思うと、いきなり乱暴に小屋の戸が開いた。そのまま、中に屈強な男たちがなだれ込むようにして入ってきた。
 総勢、十五人程か。皆一様に藁を編んだものを防寒具にしてしょったり着たり、履いたりしている。
「おめえらが天狗と闇天狗か」
 隣村の者らしい。獻瑪に、顔の分かる者はいなかった。
 答える間もなく、
「このひとごろしがあ!」
 男どもは鍬や鍬を手に、獻瑪へと襲い掛かってくる。
「ちょ、ちょっとま、」
 慌てる獻瑪の前に癒簾が飛び出て両腕をひろげた。
「やめろ、癒簾、危ない!」
 集団の力で暴徒とかした村人たちは、冷静さを失っている。勢いを止められず、癒簾に向かって鍬や鍬を振り下ろしてしまった。
 しかし――。
 癒簾は、無事であった。
 逆に、向かってきた男たちのほうが、見えぬ堅い壁に弾かれたようにして後退り、手首を抑えて痛みに顔を歪めていた。
「な、なんじゃこいつ」
「ばかやろ。相手は天狗だ」
「こんな武器で倒せるわけねえ」
「仕方ねえ、ひけひけ。しきりなおしだ」
 男どもは競い合うようにして小屋から出ていった。後には、静けさが残る。嵐のようだった。あまりのことに、癒簾と獻瑪がぽかんとしていると、
「すまなかったな。大丈夫か」
 と、男が一人入ってきた。
 さっきの村人たちと同じように、藁を背負い、被り、履いている。
 だが、物言いも声も穏やかであった。男は小屋へはいってくると、藁帽子を脱いで顔を見せた。口の周りにぐるりと一周濃いひげを携えていた。
「おお、兄ちゃん。元気になったな」
「もしかして、おれたちのことたすけてくれた人?」
 獻瑪が訊くと、男はいかつい顔をめいっぱいほころばして肯いた。
「人が助かるのは、嬉しいこって。雪ん中のたれじぬやつはめいっぱいおるからな」
 男は藁沓を土間で脱ぐと、蓑は背負ったままずかずかと囲炉裏端へきて胡坐をかいた。
「おいらはだ。うっかり、おめえたちのこと村でしゃべっちまってな。そうしたらこの雪だっつうにあっという間に隣村まで噂が広がっちまってよ、この騒ぎだ。ほんとすまなかったな」
「おれたち、嫌われてるんですか」
 癒簾に、この島の者は皆親切だ、などと豪語してしまった手前、しょうしょう気まずい。
「いや、そうじゃねえよ。いや、そうか。ほら、何年か前、隣村は闇天狗に赤子いっぺえさらわれたろ。それを恨んでんだ。天狗の差し金だっつってな。天狗も闇天狗も、眼の仇にしとるんさ」
「なるほど」
 かわいそうに、癒簾は黙ってうつむいている。
「癒簾に、責任はないだろ。気にすんなよ」
 獻瑪が言うと、癒簾は強がってほほえんだ。だが、真摯な顔に戻り、猪資に向かって頭を下げた。
「父が、ご迷惑をかけました。父の責任は、わたしの責任です」
「いんやいんや」
 猪資は、豪快に手を振ると懐から皮袋を出し、中から干し肉を掴んで、癒簾と獻瑪に無雑作に分けた。
「食え。うめえぞ」
「ありがとうございます」
 獣肉を干したものだった。塩が効いていて、旨かった。固いが噛んで飲み下すと力が湧くようだった。
「おいらはよ、べつに天狗が悪いだなんて思ってねえんだ」
 猪資は、干し肉を二三枚いっぺんに口にいれ、ガシガシ噛み砕きながら言った。鼻が潰れていて、牙が出ている。まさに、猪資という名にふさわしい容貌をした男だった。だが、見た目とは違って、猪資は気のいい男だ。獻瑪はすぐにこの男が好きになった。
「っつうか、だれも悪かねえな。闇天狗っつうのも、あれは不遇な生き物だよな」
 猪資は腰にさげていた徳利を煽った。酒の匂いが漂った。中身は随分強い酒らしい。
「おっちゃん。闇天狗のこと、知ってるの?」
 獻瑪が訊くと、「知ってるもなにも、おいらが闇天狗だ」
「え」癒簾と獻瑪は顔を見合わせた。それから猪資を見る。嘘を言っているようには見えないが、本当にも見えない。闇天狗の印象とはおよそかけはなれた風貌に、「そうですか」と素直に納得はできない。
「まあ、驚くのも無理はねえな」猪資はがははと笑って、酒をまた一口煽った。
「闇天狗って言っても、おいらは捨て子だからな」
「捨て子?」
「ああ。そうだ。作ったっきり、闇天狗のほうの親はおいらをひきとりには来なかったんだよ。それだけならよかったんだけどな。おとうもおかあも早死にしちまってさ。挙句、おいらは闇天狗だったことを思い出しちまったんだよ」
 話が見えない。
「闇天狗のほうの親ってどういうことですか?」
 癒簾が訊いた。
「ああ。おめえら、闇天狗がどうやってうまれるのか知らねえのか。そりゃ、そうだよな。いや、悪い。闇天狗ってのはさ、子を産まねえんだよ。作った子の魂は、人間に宿らせるんだ」
「人間に?」 
 獻瑪は驚いて訊き返した。猪資は肯いて続ける。
「けど、人間は産んで育てるだけだ。闇天狗が迎えに来たら、子を渡さなきゃなんねえ。そういう決まりで、子をもらうんだ」
「まさか――」
 呻く獻瑪の脳裏に、あの夜のことが蘇っていた。
 璃石をさらっていった闇天狗。そういえば、あの闇天狗は確かにそんなようなことを言っていた。動転していて、まるで気づかなかったが、闇天狗はもともと璃石は己の子だというようなことを言っていたのではなかったか。
 だから、最初から璃石だったのだ。璃石だけを狙っていたのだ。
 あれは、璃石の父親だったのか。
「あの、」癒簾が、珍しくおずおずと切り出した。
「わたし、今思い出したのだけど。確か、父は、王将は闇天狗に子をなすことを禁じていたよ。それは、人間に酷な思いをさせるからだったのかな」
「そうだろうなあ」猪資は酒臭い息を吐いて言った。
「でも、じゃあどうして帆蔵は子を作ったのかな」
「帆蔵って?」
「あ、ごめん。璃石の御父上のことだよ」
「あのデカい闇天狗、帆蔵っていう名だったのか」
「会ったことあるの?」
「璃石がさらわれたときにな」
「璃石を生んで育てたお母さんもお父さんも、きっと哀しかっただろうね」
「ああ、」だが、父のようすを思い出してみれば、父は璃石がいずれ天狗の下にもどることを知っていたのだ。あの瞳を見れば、いやでもその約束を忘れることはできないだろう。約束は、果たさなければならない。気持ちはわからなくない。獻瑪だって、璃石とは別れたくなかった。だが、約束を拒んだのは、父の利己主義といえるものかもしれなかった。
「父が、そんなひどいことをしていたなんて知らなかった」
 うつむく癒簾に、獻瑪は言った。
「いや、子を産ませたのは鬼だよ」
「え? でも、璃石が生まれた頃、帆蔵は王家に仕えていたんだよ」
「そのあたりは、よくわからないけど。でも、父ちゃんもそう言ってたし。それに、さっきも聞いただろう。隣村で、同じときに子どもがたくさんさらわれたんだ」
「そうだな」猪資が、口を挟んできた。
「あれは酷かった。闇天狗を生まされた母親も、父親も、何もきいてなかったんだ。勝手に孕まされて、勝手に大事に育てた子を奪われたんじゃ、誰だって怨む。けど、それは天狗の仕業じゃなかったのか。まあ、おいらもそうでねえかとは思ってたんだよな。天の使いの天狗様がそんなひでえことするわけねえからな。けど、そのころ鬼が蘇ってたってんなら、兄ちゃん。誰が鬼を蘇らせたんだい」
「それがわかれば苦労はないよ」獻瑪は嘆息した。
「でも、たぶん闇天狗じゃねえかな。と、おれは思ってる」
 それは前にも披露した持論だった。そのとき、癒簾は、ちがうと言った。璃石の母である闇天狗に助けられたことがあると、そのときの傷を見せてくれた。
 その癒簾は今はただ黙ってうつむいている。
「どうして、闇天狗だと思うんだい」 猪資が訊いてきた。
「鬼は、力をつけるために闇天狗という贄が必要だったんだ。その贄を生み出すことができるのは闇天狗だけだろう。ただ、それを帆蔵は知らなかったのかもしれない。あの日、あんなに子が奪われることを」
 おぼろげだった記憶が蘇っていた。
 使鬼に囲まれ、帆蔵は
「去れ、小僧」
 と苦い顔をして言ったのだ。
「こやつらは人間を喰うぞ。わしは今ぬしを守れぬ」
 そう言った。帆蔵は、獻瑪を助けようとしていたのだ。
 それに、帆蔵が連れていたのは、闇鴉であった。使鬼は、連れて来たのではない。勝手にきたのだ。
 勘違いしていた。
 帆蔵が、使鬼を連れてきたから、闇天狗が鬼を蘇らせたものだと思っていた。だが、帆蔵は鬼を歓迎していないようであった。だが、それでも闇天狗が鬼を蘇らせたのだと言う考えはかわらない。鬼に近づけるものなど、強い妖力を持った種族くらいだ。
 目的は、恐らく鬼の力を利用して天狗を滅ぼすこと。王位を狙っているのだ、闇天狗は。だがそれを帆蔵は知っていたのか、知らなかったのか。いや、知らぬはずがない。同じ種の誰かが、謀叛を起こそうというのだ。それに、あの夜、闇鴉に子の命がいくつも奪われていったのは事実なのだ。
 わからないことだらけだ。
「わたし、何も知らなかった……。そんなに、子どもの命が闇天狗によって奪われてたことも、なにも」
「仕方ないよ。癒簾はまだ幼かったんだ」
「それでも、知ろうと思えばわかったことかもしれない。わたしは、王として同じ悲劇を二度とくりかえさないようにしなくちゃいけない」
「そうだな」
 癒簾は、じっと囲炉裏の火を見つめていた。
 ここが癒簾の偉いところだ。獻瑪とは違う。
 獻瑪は、いつだって誰かに助けてもらうことばかり考えてきたように思う。ほどこしを受けることに、慣れてしまっていた。けど、獻瑪にできることは獻瑪がしなければならないのだ。人には人それぞれ、その人にしかできぬことがあって、それをしなければいけないのだと思う。
 それが、獻瑪にとっては何なのか。少しずつ、見えてきている。
「闇天狗には、何か天狗を恨むきっかけとなるものがあったと思うんだ」
 獻瑪はあごをなでながら言った。
「癒簾の話を聞く限りだと、天狗と闇天狗はそれまでうまくやってたみたいだからな。癒簾、なにか知らないの」
 癒簾は干し肉の余りを両手で握りしめたまま、うん、と唸って考え始めた。
「そういえば、」と癒簾がきりだすまでに、そう時間はかからなかった。
「族長、璃石のお母さんはわたしを守って亡くなっているし。お父さんも早くに亡くなっている。確か、処刑されたんだったと思う。そのことを、恨んでいるのかな」
「処刑? どうして」
「どうしてだったんだろう。璃石には聞けないし、父上も教えてくれなかったから……」
 癒簾は、下唇をぎゅっと噛んだ。
「わたし、どうしてこんななんだろう。璃石のこと、ほんとうになにもわかってなかった。璃石は、いつだってわたしのこと第一にかんがえて、守ってくれてたのに。でも、心の中ではわたしのこと恨んでいたのかな。だって、よく考えたら璃石のお母さんをわたしが殺したようなものだものね。わたしが危ない目に遭わなかったら、璃石のおかあさんは死なないで済んだんだもの」
「癒簾、」
「璃石は、側にいつも側に居てくれて、何もいわないから。優しいから。わたし、甘えてた。璃石に、嫌われているとも知らずに」
「癒簾、ちがう。璃石は裏切ってないって言っただろ。癒簾のこと恨んでなんかいないよ。絶対だ」
「獻瑪、ありがとう」癒簾はこらえきれなくなった涙を折れそうに見えるほど華奢な指で拭った。
「でも、獻瑪。わたしは、璃石に酷なことをしてきたのかな」
「そんなことない」即答できた。「あいつは、お前に仕えることができて幸せだったに違いないよ。あいつは、母を失ったからって、そんなふうに考えるやつじゃないから」
 癒簾は、笑顔を見せた。
「獻瑪は、璃石のことよく知っているんだね」
「幼いころ一緒にいただけだ。ただ、あいつがどういうふうに考えて、何をいちばん大切にするかだけは知っていた。そして、それは今も変わっていなかった。だからさ、癒簾。璃石にとって一番大切なのは、癒簾なんだよ」
 癒簾は大きな目を見開いて、獻瑪を見つめた。
「それが癒簾のためにならないと思ったら、平気でその思いを殺すやつだ。だから、わかりにくいかもしれない」
 傍から見ていれば、丸わかりだが当人たちには気づけぬこともあるのだろう。
「でも、璃石を信じているなら、その気持ちは一番信じてやってよ」
 何言ってんだろうな、おれ――。何いい人ぶってんだか。
 獻瑪は、一人苦笑する。
「獻瑪、ありがとう。わたし――もっと璃石のこと、知りたい。今からでも、間に合うかな? 璃石が、何を見て、何を考えて、どういうふうに暮らしてきたのか、知りたいな」
「あんまり知り過ぎない方がいいこともあるけどな」 
 獻瑪は苦笑いして言った。
「なにしろ、ド変態だから」
 言うと、癒簾がひさしぶりに「ここここ」と笑った。つられたのか、猪資も「がはははは」と笑った。
「そうかそうか。おめえ、獻瑪。思いだしたよ。璃石と組んで、村一番の悪ガキだったやろうだな。こんなに立派になって帰ってくるとはなあ。元気になったんだから、実家に顔出してやれ。お父もお母も喜ぶろう」
「そうだな」獻瑪は笑った。だが、うまく笑えているか、わからなかった。
「ほら、でもまたさっきみたいに襲ってくる連中がいたら困るだろ。もう、出てくよ。あんまり、のんびりしているわけにもいかないし」
 猪資は間延びした声を出して言った。
「ああ、そうだな。あいつらにも鬼の仕業だったんだって、知らせてやんねえとなあ」
「いや、いいよ。怒ってるやつらに言ったって、言い訳にしか聞こえないだろうし」
 猪資は黙って、獻瑪の顔を見つめた。
「なんだ、おめえ家に帰りたくねえんか」
 獻瑪は図星をつかれて、目をそらした。
「正直なやつだな」がはは、と猪資は笑った。
「どんな事情があるか知らねえが、子の帰りを喜ばねえ親なんていねえんだぞ」
 いるよ。ここに。と思ったが、口にはしなかった。
「おいらみてえに、会えなくなってからじゃ遅いんだ。できるうちに、孝行しておきな。まあ、気の済むまでこの小屋は使ってていいけどよ」
 そう言うと、猪資は立ち上がって伸びをした。
「そいじゃ、おいらは村に戻っておめえらのこと言い訳してくるわ」
「猪資さん、それは」
「おいらが勝手にやることだ。文句は言わせねえよ」
 そう言われてしまえば、獻瑪が猪資をとめることはできない。
 猪資は、土間で藁沓をはき、蓑笠を被った。戸に手をかけて、「あ、それから」と振り返って言った。
「闇天狗ってのはな、本来魂だけの存在なんだ」
「魂だけ?」
「おうよ。それに、影を練り上げて実体を作っているのさ。まあ、言うなれば虚像っつうところか」
「おっちゃん、それ大事なことなんじゃねえか。もう少し、詳しく話してくれよ」
獻瑪はかまちから土間へ身を乗り出して言った。もしかしたら、何か璃石を救う手掛かりが得られるかもしれない。
「要するによ、人間に宿した魂だけが闇天狗には必要なんだ。当然、魂抜かれた人間は生きてはいられねえわけだ。その屍を使鬼どもは喜んで喰らうわな。使鬼がいなけりゃ人間様で葬るだろ。いずれにしろ、闇天狗の肉体は残っちゃいねえ。故郷がねえみてえなもんかな。帰る場所を失う訳だ」
「璃石は」
 獻瑪は身を乗り出し過ぎて、無様な恰好で土間へ落ちた。だが、恰好なんか気にしている場合ではない。
「璃石は、まだ生きてるんだよな」
 夢中で、猪資に掴みかかっていた。
「さあなあ。自分の目で確かめるのがいいんじゃねえのかい」
「璃石は、たぶん完全には魂を奪われなかったんだ。だから、死ななかった。戻る場所があれば、璃石は帰ってこれるんだよな!?」
「そうだろうな。本人が、その身体の在り処を思い出せればだけどな」
 獻瑪は猪資の肩にしがみついたまま凍りついた。
「どういうこと」
「闇天狗っつうのは、三度生まれる生き物なんだよ。一度目は魂として、二度目は人間の腹から、そして、三度目は魂を肉体から引き離され、闇天狗として目覚めたとき。そして普通、産まれるときにはそれ以前のことは一切忘れる。当然、身体の在り処もだ。人間と同じ肉体を持っていたことだって、忘れている。周りから知らされて、初めてそうなのだと知識として覚えるだけなんだ」
「じゃあ、璃石にその身体の在り処を教えればいいんだろう。どうすればいい」
「おいらが知るかよ。そんなことがわかるなら、おいらは今頃闇天狗になって、縦横無尽に空でも飛んでるさ。まあ、期待はすんな兄ちゃん。身体が生きてても、一度闇天狗になっちまったもんが人間に戻るなんてことは今まで例がねえ。難しいことだ。それに、闇天狗には鈴の呪縛があるからな」
「鈴」その言葉に反応したのは癒簾だった。癒簾も、鬼姫から聞こえてくるあの鈴の音を、聞いていたのだろう。
「魂がふらつかねえようにな、闇天狗を支配する鬼は闇天狗が生まれる頃から鈴の音で呪縛をするのよ。それに逆らえる闇天狗はいねえ。万一、身体の在り処がわかったとしても、鈴の音で縛られたら、闇天狗は身動きできねえだろうな」
「そんな――」
 大きな壁が、立ちはだかっているのを、獻瑪は感じた。こんなものに、太刀打ちできるのだろうかと思う。
 おれに、璃石を救うことができるのだろうか。
 いや、諦めないと決めた。絶対に、璃石を救うまで諦めない。
「おっちゃん。おれも行くよ。村へ、連れていってくんないかな」
 猪資は、大きな口で、にやりと笑った。
「雪が深いからな。しっかり着込んでいけよ」

 雪山を下るのは、並大抵のことではなかった。特に、慣れぬ癒簾は何度も足を深みにとられて雪の中でもがいていた。
 村へ着く頃にはすっかり日が暮れていた。
 霧が出ているのか、向こうに見える村の灯りがぼやけていた。それが、幻想的で、妙に温かみを感じる。
「もう少しだね」
 獻瑪は癒簾を振り返って言った。
 吐く息が白い。
「うん」
 頷く癒簾の頬は寒さで赤くなっていた。
「おいらはここから隣村へ行ってくる。おめえたちは、このまま自分の村へ行け」
「えっ。おっちゃんついてきてくんないの」
「なあに、甘えたこと言ってんだ。なんでおめえがおめえんちに帰るのについていかなきゃなんねんだ。それより、村人らにおめえらのこと襲わねえように説得するほうが一大事だろや」
 猪資は言うだけ言って、さっさと分かれ道を獻瑪たちが向かうのとは別の方角へ歩いて行ってしまった。残す足跡は、猪というより熊のようだった。
「歩ける?」仕方なく、獻瑪は癒簾に訊ねた。
「うん。だいじょうぶ」
「じゃあ、行こうか」と言っても、行くしかない。この島でこの雪の季節、夜の野宿はそのまま死を意味する。
 歩きはじめると、サクサクという音がついてくる。癒簾も、だいぶ雪になれてきたようだ。
 獻瑪は、歩きながら辺りを見渡した。白い雪以外はそのへん何もない。田畑が雪に埋まったのだ。この雪の下から掘り出して食べる野菜は甘みが増して旨いことを獻瑪は知っていた。
 そのうち、村の一件目の灯りがすぐ目の前に見えてきた。
 そこが、獻瑪の家だった。
 窓から明かりが洩れている。
 本土とは少し違う雰囲気を持つ島だった。深い雪に閉ざされた地であるため、文化の発達の仕方が違ってきたのだろう。
 あと数十歩で家に着く。というところで、獻瑪はたちどまっていた。
「どうしたの?」
 癒簾が心配げな顔を向ける。
「いや、あれがうちなんだけどさ」
「そうなの。じゃあ、はやくいこう」
「うん。そうなんだけど」
 獻瑪も、こんなところにいつまでも留まっているわけにはいかないとはわかっている。だが、脚がうごかない。少し、震えてもいた。寒さのせいではない。これから家に帰るのだと思うと、胃がしめつけられるように痛んで、鼓動が速まった。
「おれ、やっぱり帰れない」
 ついに獻瑪はそう言った。
 癒簾は、獻瑪の顔をのぞきこみ、どうしてとは訊かなかった。
 冷たい雪が、身体に積もっていく。
「怖いんだね」
 また、ぴたりと心を言い当てられる。
 おれって、そんなにわかりやすいのかな。獻瑪に苦笑が浮かんだ。
「獻瑪は、拾われてきた子だって言ったもんね」
「ああ」
 獻瑪は観念してうなずいた。両親を説得して、おれを家族にしてくれたのは璃石だ。だから、璃石がいなくなったあの家に、自分の居場所はもうないのだと思った。それで、出てきた。どうして、鬼に奪われたのが自分じゃなかったのだろうと、散々責めた。
「おれは、あの家にとっていなくてもいい子だから。璃石がいないのに、おれだけ帰るなんてできないよ」
「子どもって、なにかな」
 癒簾が、白い息を吐きながらそんなことを言った。
「わたし、本当は人間なんだ」
 唐突な癒簾の言葉に、獻瑪は目を見開いた。
「うそ」
「うそじゃないよ。本当。わたしは、人間」
 言われてみれば、癒簾は天狗の術をあまり使わない。空も飛ばぬし、風を操らない。鼻も、伸びてはいない。
「おどろいた?」
「うん、正直」
「ここここ。でも、父上も母上も、人間のわたしを本当の子のように育ててくれたんだよ。妖力は、一緒にいるとある程度移るから、簡単な術なら使えるけど、それ以外は何もできない。お酒も少しつよくなったし、よく食べるようにもなったけど」
少しじゃないよな。と、獻瑪は内心毒づく。
「それでも、何もできないわたしに、父は王位を、天の守護を与えてくれた」
「守護、それじゃあやっぱりあの印は」
「見られちゃったね」
 癒簾は顔を一層赤らめて言った。
「うん。わたしは、実は今王将なの」
「マジ、かよ……」驚いてはいた。だが、どこかで気づいてもいた。
 癒簾は、今天狗界の王たる証を持っているのだ。それは、天の加護を受けるばかりでない。天狗界の王として国の繁栄を司り、また戦のときには総大将として闘わねばならない宿命を、背負っているということなのだ。
「ごめんね、黙ってて。でもそれより、今言いたいのは、獻瑪は愛されている子なんだよってこと」
 自分ののしかかる責任など、どうってことのないように言って癒簾は獻瑪をじっと見つめた。
「おれが、愛されてる?」
「そうだよ。獻瑪は、あの家の子どもだよ。璃石がいくら両親を説得したって言っても、親が納得しなければ子どもの言うことなんてきかないでしょ。まして、子を預かって育てるなんてこと。獻瑪と璃石のお父さんやお母さんは、獻瑪を本当の子だと思って育ててきたにちがいないよ。親子の絆は、血だけじゃない。わたしがそうだから、わかる。獻瑪を待っている人が、あの灯りの中にいるよ」
 不覚にも涙をこぼしそうになった。
「行こう」
 口を開けば、泣いてしまう。
 それを察したのか、黙り込む獻瑪の手をとって、癒簾が優しく実家まで引っ張っていった。
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